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釣り餌用ドバミミズ飼育に必要な「酸欠」の考え方【ウナギ】【鯉】

ドバミミズ飼育について・はじめに


ドバミミズと呼ばれるフトミミズ科のミミズは、淡水釣り・特にウナギ釣りや鯉釣りにおいて特効エサとして広く知られている。これらのミミズは、その大きさと動きの良さから、特に大物釣りにおいて非常に効果的である。しかし、これらのミミズを外で捕まえた後釣りに使うは良いものの、次の釣行までの数週間以上にわたって保存することは非常に難しい課題である。特に夏場の高温はミミズの生存に大きな影響を与えるため、その保存方法は多くの釣り人にとって大きな関心事だろう。
 
屋内での飼育は、環境の安定性という点で有利であるが、家族がいる家庭においては、家族の承諾を得ることが難しい場合が多い。当局の許可が下りづらいのだ。単身の筆者自身は、屋内飼育において複数年生きるタイプのドバミミズを6匹飼育し、そのすべてを1年間無事に飼育することに成功した。しかし、このような屋内飼育の再現性を一般化するには、多くの家庭において現実的ではない。したがって、多くの釣り人が利用できるような屋外飼育の方法を確立することが求められる。
 
筆者は、屋外でのミミズ飼育においても、特に夏場の高温に対応できる効果的な保存手段を確立することに成功した。この方法は、自然環境下でのミミズの生存条件を活用しており、簡便かつ効率的にミミズをひと夏保存することが可能である。本稿とシリーズ記事では、具体的な手法とその背景について詳述する。これにより、釣り餌としてのドバミミズの安定供給が可能となり、釣りの成果を大きく向上させることができるだろう。
 


当記事シリーズの背景情報


筆者は、当記事の執筆にあたって7年間にわたってミミズ飼育実験を行ってきた。この結果からミミズの保存が難しい原因について考察を重ねてひねり出したアイデアが当記事シリーズである。興味のある方は、下記リンクからまずは飼育方針、採集について、床土の選定に関する記事をお読みいただくと良いだろう。以下リンクから順番に読める。

 
私も、まずはシマミミズを使ったコンポストの模倣から始めた。しかし、シマミミズ飼育の模倣はドバミミズには有効ではなかった。Webで調べ物をしてもシマミミズとドバミミズの情報が混同されていることが多く、ドバミミズの飼育に有効な情報というのはあまり出てこない。断言しておくが、シマミミズと混同された飼育情報をもとにドバミミズの飼育を行おうとすると失敗する。ドバミミズはシマミミズのように年中ネズミ算式に増えることも無い。先駆者がもうその段階は通り過ぎているので、今からコンポストの模倣でドバミミズを増やそうとして失敗するのは車輪の再発明的な行為であり、非効率なので避けることをお勧めする。
 
以下に、この記事のアイデアのもとになった私の実験に関する記事を共有する。私が実際に屋内飼育にて1年間のミミズ保存に成功した実験のメモを見ることができる。ここにたどり着くまでにも膨大な実験が行われたのであるが、全部読んだらしんどいのでこの辺りをつまんで読めば屋内飼育であればある程度何とかなるだろう。飼育箱の準備はともかく、ここで出てくるような高コストで手間のかかる床土つくりを当記事の読者諸兄にさせようというわけではないので、安心して背景情報としてこの実験を見てほしい。

なぜ、夏のドバミミズ飼育・保存は難しいか


「そんなの高温になるからだろう」と答える方もいることだろう。ではあえてここではその先を問うてみよう。
 
「なぜ高温になると飼育下のドバミミズが死ぬのか?」
 
このように問うたら、諸兄はどう答えるだろうか。高温に弱いから、でいいのだろうか。シマミミズと比較してもドバミミズ、特に大型のものが高温環境に圧倒的に弱いのは明らかだ。そこに焦点を当てよう。「ドバミミズはなぜ高温に弱いのか、大きいミミズほど高温に弱いのはなぜか」これに答えようということだ。
 
結論から述べよう。酸欠である。真夏に南向きの日向の地面に飼育箱を置いて飼育したとかの、たんぱく質が変性するような45℃や50℃の世界に放り込んだのではない限り、数週間の保存で夏に飼育下のミミズが死ぬ原因は大半が酸欠だろう。ミミズの見た目がみずみずしいこともあって、水分には気をつかって霧吹きなどをしてあげる人も多い。しかし、web上で見られるミミズ保存論を見ても、夏場のドバミミズ保存の困難さについて酸欠の問題であることに触れられている物はあまり見かけない。
 
ミミズは皮膚呼吸の生物である。体表の水分に溶け込んだ溶存酸素を体内に取り入れて生きている。そして、生物は基本的に温度が上がるほど代謝が活発になり、多くの酸素を消費する。これに加え、水分中の溶存酸素というのは水温と反比例の関係にあり、水温が上がるほど減少する(酸素が水に溶けにくくなる)。高温になると土中の微生物も活発になり、それらも土中の酸素を消費する。このトリプルパンチがドバミミズを襲うのだ。
 
大きく太いミミズが高温に弱い理由もこれで説明できる。ミミズが使う酸素の量は、ミミズの体積に比例すると考えていいだろう。一方で、酸素がミミズの水分に溶け込むという反応は体表で起こるのであるから、皮膚呼吸で取り込める酸素の量は面積に比例する。身体の体積に対して表面積が大きいほど有利、小さいほど不利である。小さいミミズと大きいミミズが図形的に相似であると仮定すると、大きさ2倍のミミズでは表面積は2乗で効くので4倍になるが、体積は3乗で効くので8倍になる。大きいミミズほど、体積当たりの表面積は小さくなる。傾向として大きなミミズほど高温に弱いのはこれが原因である(図1)。


図1:ミミズの表面積と体積の関係

なぜ、水を入れすぎると失敗するのか


さて、ドバミミズを飼育するにあたって、水分をたくさん入れて失敗した経験がある人は多いだろう。調べ物をしていても、ミミズは水が苦手であると書かれていることがよくある。ふやけて死んでしまったように見えるからだろう。ミミズを捕まえようと側溝などを掘るにしても、水が溜まっているところはミミズがとれない。やはりミミズは、水分が多いとふやけて死んでしまうのだろうか。

しかしよく考えてみよう。土中にいるミミズは、雨で水浸しになっても生きている。私は飼育している肉食魚にミミズを与えることがあるが、逃げ延びたドバミミズが数週間後に水中のソイルの中から生きて発見されることもある。ふやけて死にはしない。これはいったい何が起こっているのか。
 
結論を言おう。酸欠で死ぬか否か、この差である。(このことを確かめた実験記事を投稿したのでリンクしておく)

狭い飼育箱内に多くのミミズを入れて水浸しにした場合、どのような結果が生じるかを考察する。これは水浸しの側溝でも同じ原理である。ミミズは体表の水分中の溶存酸素を取り込んで呼吸を行うため、体表での酸素交換が不可欠である。もしこのミミズが水没していたらどうなるかを想像してほしい。ミミズは水中の溶存酸素を取り込むことになる。

降雨や流れで攪拌された水、風が吹きっ晒しの場所にある水、またエアレーションされた水槽の水は溶存酸素を豊富に含み、酸素が絶えず供給される。しかし、たくさんのミミズが入った飼育箱や側溝で停滞している水には、溶存酸素が圧倒的に不足する。飼育箱が水浸しの場合、溶存酸素を供給する場所たる空気と水の界面は水面のみとなり、ミミズが必要とする酸素が十分に供給されない。

大気中にいるミミズは広い表面積を持ち、そこから体表の水分に溶存酸素を取り込むことができるが、水没している状態ではそれが不可能である(図2)。空気と水の界面がミミズに必要な量だけ存在しなければ、ミミズは急速に酸欠に陥る。低酸素の水に浸かった結果として、ミミズは死んでしまうのである。


図2:水没した容器内のミミズが死んでしまう理由

市販の昆虫用マットや腐葉土に入れるとすぐにミミズが死ぬ時があるのはなぜか?

これも酸欠である可能性が高い。腐葉土や昆虫マットがパッケージの中で発酵で発生したガスによって低酸素状態になっていたか、途中で止めていた発酵が再開した可能性が高い。これをやってしまうと数時間以内のあっという間にミミズが死ぬ。これについては以下の記事でもう少し詳しく触れている。


どうすればうまく飼えるか?


今後の記事では、上記の考察を踏まえた具体的な屋外飼育方法について実験結果とともにまとめていく。続きの記事(ドバミミズ飼育情報の収集に関しての記事)はこちら

ドバミミズに与える餌についての文献調査と考察の記事はこちら

ドバミミズの高密度飼育についての文献調査と考察の記事はこちら


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