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釣り餌用ドバミミズ飼育に関するその情報は、本当に信用できる?

当記事が生まれた背景・情報の信頼性について


10年程前と比べれば、近年ではweb上でドバミミズの飼育に関する情報も多く発信されるようにはなってきた。しかし、これらの情報の中には、あまりに信頼性に欠けると感じてしまうものが散見される。ドバミミズの飼育に挑戦する人は当然のこととして、当記事と当シリーズだけではなく、他の人が発信した様々な情報を参照することになるだろう。当記事はそれを否定するものではない。あくまで、ドバミミズ飼育に関して、どの情報がより信用に足るかという指針として役に立てばという思いである。当然、私が考え付いた、このような信頼性についての考え方は私の記事シリーズでは極力守るよう気を付けているということだけ付け加えておこう。以下では、具体的な事例も交えてドバミミズ飼育情報の信頼性について論じていく。

※当記事はドバミミズ飼育シリーズ記事である。初めから読まれたい方はこちらから。


「飼育方法」を語るならば再現性を意識したい

ハウツー情報の発信者であれば、受け手がその情報を基に実際にその方法を再現できるような、具体的かつ正確な情報を提供することが求められる。「飼育日記」であれば、個々の経験や観察結果を共有するものとして理解できる。しかし、「あなたもこうすれば上手くいく」と飼育方法を語る以上、ドバミミズ飼育情報においても再現性は非常に重要な要素である。

再現性とは、異なる個人が同じ手法を用いて同じ結果を得ることができることを意味する。これがなければ、情報の受け手はその方法を実践しても成功する保証がなく、誤解や失敗を招く可能性が高まる。例えば、ある特定の飼育方法が一部の条件下で成功したとしても、その方法が他の条件下で同様に成功するとは限らない。したがって、情報発信者は自身の経験や観察結果を(自分が把握・コントロールできる範囲でいいので)記録し、情報の受け手が同じ結果を得られることを重視して情報を発信すべきである。

具体的には、床土や餌の種類や量、飼育容器の選定など、飼育条件は具体的であることが望ましい。また、長期的な観察結果や異なる条件下での試行錯誤の記録を提供することも重要である。これにより、情報の受け手は自身の環境に合わせた適切な方法を選択しやすくなる。

しかし、実際には再現性のない情報が多く見受けられる。例えば、「ドバミミズはこの方法で簡単に増やせる」といった一面的な情報は、特定の条件下でのみ成功した事例であることが多い。このような情報は、受け手に誤解を与え、意図していなくとも結果として飼育者に失敗をもたらす可能性がある。情報発信者は、自身の情報がどのような条件下で有効であるのかをできる範囲で明確にし、その条件が再現可能であることを確認できるようにしたい。

煩わしい指摘と感じるかもしれないが、このようなことに気をつかって共有された具体的な情報でドバミミズ飼育における成功率を高めることで、より多くの飼育者が成功体験を得て、新たな再現性のある情報が集まる。それらはまたドバミミズ飼育者の成功体験を積み増し、ドバミミズ飼育方法に関する集合知ができあがるだろう。それがインターネットの強みでもある。

ドバミミズ飼育について信用できない情報の特徴と理由

以下に、ドバミミズ飼育情報の中で信頼性に欠けるものの具体例、特徴とその理由を示す。

「ミミズなんて○○の中で勝手に増える」

このような言いぐさは、質問サイトなどで非常に多い。実際にドバミミズが容器の中で勝手にどんどん増えるのであれば、とっくに私はその方法を使って起業しているが、そうそううまくいった実験は今のところない。これは発信者(回答者)が「シマミミズ」というコンポストに使われるツリミミズ科のミミズの情報と、ドバミミズ(フトミミズ科のミミズ)を混同していることが原因で広まっている誤情報だと思われる。実際にはシマミミズと呼ばれるツリミミズ科のミミズ、ドバミミズと呼ばれるフトミミズ科のミミズは計500種以上が日本に生息していると考えられている。情報発信者(質問サイトの回答者)としてあまりに軽薄で最低限の文献調査が不足しているとしか思えない。こういうのは信用に足らない。


「ドバミミズは冬を越さない」


ネット上ではドバミミズは全て1年性であるなどの情報(というよりは、「ドバミミズ」が1種類しかいないと思っていそうな情報)が目立つが、ドバミミズといっても多くの種が存在し、冬を越すものと越さないものがいる。例えば秋に幼体、早春に亜成体や成体で見つかるような種は冬を越していると考えられるし、春に幼体しか見つからず、秋に成体しか見つからないような種は1年性であると考えられる。このような場合分けも行っていない、できていないのは考察が不足しているし、実験結果を公表するにあたっての最低限の調査が不十分で、単純化しすぎていて信用に足らない。


「ドバミミズは捕まえてきた場所の土でうまく飼える」


ドバミミズは捕まえてきた場所の土で長生きするとする情報が多いが、取ってきた場所の周辺環境や植生などについて言及がなく情報量が少なすぎて、情報を受け取った人が真似をするには再現性がなさすぎる。この言説がある程度事実なのは認めるが、偶然生きたミミズが入ったばかりで長期飼育に向くかどうかわからない環境もあるはずであり、言っている事は「自分はこれでできた」という限られた内容でしかなく、情報の受け手にとって有益性がない。情報を受け取った人が再現できる情報内容であるべきで、そうでないものは信用ならない。とってきた場所の土で飼うのはよいが、飼育方法を語るのであれば、その土の組成を調べ、考え、自分で作ってみて検証し、再現できる方法も併せて発信したいところである。

「小さなミミズがいたので、ドバミミズが繁殖した」

私はこれが飼育容器内で起こることを否定しているのではない。ただこのような情報のほとんどは、上述のような、自然環境からごっそり持ってきた土で飼育していた容器から小さなミミズが新たに見つかったというものである。これをもって「繁殖に成功した」と言い切っているものがあるが、「交接は確認したのか?」「卵胞は確認したのか?」「初めから土にミミズの卵胞やきわめて小さな幼体が混ざっていたコンタミの可能性はないのか?」といったことをすべてすっ飛ばしている情報である。このような状況のものを繁殖成功と言ってしまうのは情報発信者として乱暴すぎるのではないかと思う。

「市販の腐葉土に入れるとたちまちミミズが死んだ、変なものが混じっている」

これもよくある情報である。腐葉土などの発酵した植物を飼育に使う場合には「ガス抜き」工程があるのがペット飼育の世界では常識であるが、そのような可能性の検討、指摘もないものが多い。植物が発酵すれば何らかの気体(ガス)は発生するのだが、有毒なものでなくともそのガスが発生したことによって酸素分圧の下がった雰囲気中にミミズを投入すれば、皮膚呼吸のミミズが一瞬にして酸欠で死ぬのは当然である。腐葉土はほぐして大気に晒してガス抜きをするのがペット界隈では当たり前である。ガス抜き期間は、急激な発酵の終わった完熟発酵の腐葉土であれば数十分でよい。ペット用のものは発酵を途中で止めて滅菌密封されているものがあるため、再発酵による新たなガス発生の可能性を考慮して長めに数日間行うと良い。ドバミミズ飼育情報発信者には釣り人が多く、ペット飼育に長けているわけではない人が多いように感じる。開封直後の腐葉土を袋から掴んでミミズの入っている飼育容器に即入れて死なせているような情報は信用できないと言えるだろう。

まとめ

総じて、ドバミミズ飼育に関する情報には、事前調査不足とみられるものが多く見受けられ、断定口調で書かれていても基本的にそのような情報は断片的にしか信頼に値しない。信頼性の高い情報を提供するためには、最低限の文献調査を行い、異なる環境条件下での再現性を確認することが求められる。例えば、ミミズが1種類ではない事は当然として、釣り人の言う「シマミミズ」「ドバミミズ」はそれぞれ1種類でもないこと、などは情報発信以前に飼育するうえで確認したい情報だろう。市販品のペットに対する使用なども、事前に調べておけば注意点は分かるはずであるし、事故が起きた後にでも少し調べれば原因は分かるはずである。飼育方法に関する情報を発信するのであれば、飼育環境・条件に関する記述や、長期的な観察結果を基にした情報提供が重要だ。繁殖などの結果の確認においても、その結果が得られるために必要な過程の確認(繁殖であれば、交接や卵胞の確認など)を怠らず、初期のコンタミの可能性を排除することが求められる。これにより、ドバミミズ飼育における成功率を高め、飼育者が信頼できる情報に基づいて適切な飼育を行えるようになるだろう。

私の考える適用範囲の広い具体的ドバミミズ飼育方法は、2024年夏中の投稿を予定している。続きを待ってほしい。このシリーズ記事の次の記事はこちらだ。


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