アスリートを守るのは、アスリートの連帯による力

我那覇さん。
もうあの一連の事件が15年も前になるのか。
まだ今でもその残骸が残っていることに、改めてドーピングの罪を現実的に感じさせられた。

特にネット社会では、どこかにフェイクな記録も残ってしまうため、事実を知らない人がその情報読み、また新たなフェイクが拡散される虞もある。
消えぬ痣となって。

ドーピングを意図的にやっているアスリートには厳罰が然るべしである。
一方で、そうでないアスリートが冤罪になってしまったら、ただでさえアスリートの栄華というのはそれ程長くない中、最悪競技人生を棒に振ることに繋がってしまう可能性がある。
しかし、自分自身に身に覚えがないとは言え、アスリートがいきなりアンチ・ドーピング規則違反という現実に直面した時に、身に覚えがないことを立証するために必要となる知識、情報、資金等を、急に準備することは現実的に難しい。
このような状況に陥ったアスリートが、最終的に哀しい帰結とならないためにも、周囲のサポートが非常に重要なファクターとなることは言うまでもない。

では、誰がそのようなサポートをしてくれるのか?

アンチ・ドーピングに関するサポートと言って、すぐに連想されるのが日本アンチ・ドーピング機構(JADA)や所属する競技団体等かと思う。
JADAや競技団体は、当然のことながらアスリートへアンチ・ドーピングに関する教育や様々な情報提供を行う立場にあり、実際に積極的にされている。
しかし、もしアスリートがアンチ・ドーピング規則違反の疑いとなった場合には、アスリートと相対する側に立たざるを得なくなり、アスリートのサポート側には立てない構造的な問題がある。

では、誰が担えるのか?

残念ながら現状では、そのようなサポートをしてくれる機関や、整えられた仕組みがないのが現状だ。
そのため、アスリートが自力で色々と調べ、専門家を探して協力を仰ぎ、資金繰りもしなければならない。
ある意味、孤立し、孤独な状況になってしまうのだ。

そのような孤立したアスリートの力だけでは、なかなか事実に沿った検証を十分に行えず、最終的にそのアスリートにとって不利な結論となる蓋然性が高くなってしまうというのが現実でもある。
そのため、このようなアスリートのサポート体制を作り上げることが急務、という認識が高まってきている。

ただ、ここで少し視点を変えてみると、組織体にはなっていないものの、サポーターとなり得る存在が実は身近にいることに気づく。
それは同じアスリートだ。
同じアスリートであるからこそ、リアルな現場の情報や、体験を伴った知見を持っている可能性がある。
また、アウトプットはしていなくても、世界の他のアスリートから聞いた情報を有している可能性もある。
そして、アスリートをサポートしてくれている専門家などにアスリートを通じて繋がっていく可能性もある。
このように、アスリート同士が繋がっていくことによって、有益な情報や実際のサポートに結びついていき、ネットワークが有機的に繋がっていくのではないかという発想が生まれてきた。

そのような観点から、「クリーン・アスリート・ソリダリティ」というアスリートによるアスリートのための連帯の枠組みが産声を上げた。

実際に、これまで競技種目を越えたアスリートの横のつながりというのは、アスリート個人間ではあったものの、一つのまとまりとしては存在していなかった。
そのため、実はそれぞれのアスリートが有益な情報を持っていたとしても、それが有機的に繋がっていくようなことがなかった。

「クリーン・アスリート・ソリダリティ」は、そこのネットワークを繋げ、アスリート同士による互助の仕組みを作ることが目的となる。
そして、まだ始まったばかりのこの輪を起点として、様々な専門家の方々と繋がっていき、ドーピング問題だけではなはく、様々なアスリートのサポートに繋げていくことが今後この連帯の目指す方向でもある。

現在、世界のスポーツ界においても、アスリートの存在感をもっと高めていこうという機運が高まってきている。
「スポーツはアスリート・ファースト」
これがうたわれて久しいが、まだまだ世界でもなかなか実現に結びついていない。
だからこそ、スポーツの中心にいるアスリートの声を組織の決定の場に届けていくことの重要性が様々な場面で言及されるようになってきており、アスリート側もその声を届けるために連帯を強化していくことの必要性が高まってきている。
また、最前線にいるアスリートだからこそ、お互いに共感しあえ、リアルな情報交換等を通じてお互いに支え合うことが可能であり、それによってさらに連帯の輪を広げていくことも可能である。

今後日本においても、アスリートがアスリートを守り、そしてスポーツを守っていく、そのようなアスリートの連帯の力が必要になっていくと考えられる。
そのような輪を広げていくことが、リアルなスポーツの未来には必要になっていくだろうと、そんな輪をどんどん広げていきたいなと、そんなことを思う今日この頃である。

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