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透明ネコ

ある夜、僕が仕事で疲れて帰宅すると、何やらウチの猫の様子が変だ。

こちらの呼びかけを完全無視してずっとニヤついている。

よく見るとその傍には『透明になるための222の方法』という胡散臭い本が開かれている。

しかもかなり読み込んである様子……。

どうやらウチの猫は自分が透明になれたと思い込んでいるようだ。

疲れていたけど、僕は一応、ウチの猫が透明になっているテイでそのあと過ごした。

企業CMに出てくる社員さんみたいな驚き方で、ウチの猫のイタズラにいちいち反応していたら、会社にいる時よりも疲れてしまった。


完全に見えてるけど、見えてないテイで顔面に猫パンチを受けながら、夕ご飯を食べたりした。

少し僕が飽きてきて、リアクションが薄くなってくると、透明気分のウチの猫は今度は僕の動きを先回りしていろいろしてくれるようになった。

食器を片付けたり(洗ってはない)、洗濯物をたたんでくれたり(毛はいっぱいついた)、洗った髪の毛をタオルで拭いてくれたり(やっぱり毛はついた)、歯を磨いてくれたり(爪が痛かった)、耳掃除をしてくれたり(尻尾では無理だと思うぞ)と、驚かそうとするあまり、いつになく親切になってしまっている。まるで猫らしくなくてそこがとてもかわいい。もちろん、ワオーって驚いてあげながら甘んじて受ける。

ウチの猫は僕の行動パターンは全て頭に入っているから、とても楽ちんだ。ずっとこのまま透明のテイも悪くないなと思いながら寝る準備をして、ベッドに横になった。

明日も早いのだ。

余談だけど、透明な生き物が出てくる物語のルーツは古代ギリシャまで遡れるんだそうだ。

きっとその物語を書いた人も猫を飼っていたんだろう。

「さて寝よっかな、ウチの猫さんは透明で見えないから、夜ゴハンはいらないね、おやすみー」

僕がわざと聞こえよがしにそう言ってから電気を消そうとすると、

フツーに「にゃー」って鳴いてて笑ってしまった。

もちろんゴハンをあげましたよ。



                      終

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