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読書譚(2) 「多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」

キーワード:読書譚。どくしょのーと。その2。上の画像は「いらすとや」。

感想

いやー、面白かった。ひたすら「多様性」あるいはその意義について書かれている。なぜCIAは失敗したのか。なぜ著名な登山家が失敗したのか。なぜドイツの暗号の解析は成功したのか。平均値で見えるものと見えないものとは何か。「くどい」という書評も見受けられたが、個人的にはくどいくらいがちょうどいい(=理解しやすい)ので、腑に落ちるところも多かった。

この本について話るときに、我々が語るべきこと。

本書を読んで考えさせられたことは次の3点。

(1) 組織としての多様性の大事さ

p.67とp.78の図を比べてみるとわかるが、賢い個人が一人いても、また同質の人々がたくさんいても、組織としてはまずいことがわかる。人を雇用する際、組織は優れた個人を採用するが、多様性もまた重視することが肝要だ。本書を読めば、実はこのことは二項対立として捉えるべきではなく、同時にバランスを取って満たすものととして捉えるべきだと分かる。しかし、その採用にすらバイアスが存在する可能性も本書で指摘されている。このことで真っ先に思い浮かべるのは、男女比の問題だが、昨今では医学部の入試の女性排除の問題や、議員の女性比率の少なさが論じられてきた。この本を読めば、組織としての多様性の意義について理解でき、現在進行形としても、たびたび話題になるクオータ制の概念自体の意味について考えるヒントとなるのではないかと感じた。同じ指向性をもった人々の集団(イエスマンばかり周りにいる状況も然りである)では、思考の盲点が存在することになり、時としてそれは致命的になるからだ。また硬直化したヒエラルキーが強すぎる組織もまた問題である。個人的には、そのような組織において個々の発言を促す雰囲気を作り出せるリーダーや、ヒエラルキーの強い組織において空気を読まない個人、もっと端的に言えば、昇進や昇給は犠牲にしても、空気を読まずに発言できる個人の存在の大切さがわかった。また、組織として多様性を重視することの意味の例として掲げてあったグッチとプラダの成功と凋落の話は興味深かった。

(2) 個別最適化へのヒント

結構、後半の最後のあたりに出てくるが、p.268からのダイエットに関する第6章も大変興味深かった。ダイエットになぜ諸説でてくるのかという点について、血糖値を例にして説明がある。標準化された食事をとることの問題点が明らかに述べられている。納豆は体に良いといわれても、自分自身の体に良いかどうかは調べてみないとわからない。DNAの多様性がある中で、同じ療法をとってもその成功率は個人によって異なるのは当然である。よく考えればそれは確率の問題でしかないのだ。では、どう考えれば良いか。答えは本書に譲るとして(ほとんど書いてしまっているが)、この部分も大変興味深かった。端的に言えば、結局は平均値と分散を見るべきという話ではなく、標準化が常に正しいという見方を疑うべきということだ。そしてそれに加えて、環境の話になるのが面白い。例えば、p.306あたりにオフィスの話が出てくる。機能性を重視し、個人的な写真や絵、植物などが完全に排除された「無駄を削ぎ落とした環境」と、壁に絵などが飾られ、植物などが置かれた「豊かな環境」、そして個人的な好みを反映させた「個人的な環境」の3つで生産性を比較した研究である。生産性がどの程度どのグループが高かったかは、本書p.309に書いてある。ここでのレッスンとしては、やはり個人が自分にあわせて、環境を整えたり、療法を選択したりすることが正しいだろうということだ。

(3) 教育への示唆

個別最適な学びというキーワードが現在あるが、これについてはpp.301-303に書かれている。フィンランドの例が出ており、高い学習効果をもたらす要因の1つとして適応学習が述べられている。また学校のカリキュラムに柔軟性が求められることも書かれている。これを端的に示すのは次の一節だが、読んで驚く教員も多いのではないだろうか。

[フィンランドの学校で]宿題を出すときは、レベルの異なる課題を通常少なくとも5つ用意している。これにより生徒は各自のレベルにあったゴールを目指せる。

「多様性の科学」p.302

最後まで本書を読んで感じるのは、結局は「個別最適な学び」というときの主語ではないかと感じる。個別最適な学びについて先生方が語るときに主語は「私たち(=先生たち)は」であることが多い。しかし、個別最適化を図るのは、動機づけにおける選択の重要性が示されている通り、子供であるべきだと考える。教員ができることはそれに応じられるように、選択肢を用意するということだ。その意味で、フィンランドの5種類の宿題というのは納得である。

星の数

この本もまたそのうちまた読み返してみたい一冊となった。星レベルは★★★★☆(1/2)。これは、人によっては長すぎると思われそうなため、1/2減らした。ではでは。


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