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水槽の彼女〜カバー小説【5】|#しめじ様

しめじ様のnoteのカバー小説を継続しております。

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✥前回のハイライト✥


(おい、よく考えてみろ・・・)


これは下手したら、【未成年者誘拐】になってしまうんじゃないのか?



―――まさか、ネットニュースになる訳じゃないよな。



職場の同僚や上司の顔を浮かべながら、ちょっと冷や汗を掻き始めている自分がいた。



彼女が売り場から振り向いて、笑顔で僕の顔を見た。買うものが決まったんだろう。



そのときの顔には、papaから離れたいと言ったときの剣呑さや、車中での翳りのある気配は見られなかった。普通のハイティーンだ。



(―――もし話したがらなかったとしても、やっぱり彼女の事情をきちんと確かめなければ駄目だな・・・)



何やかやと所用を済ませていると、日が暮れかけてきた。


家で食事しても良いが、これから食べるとなると食材もこれと言って無いし、持ち帰り弁当か、Uberが関の山だった。そして、じっくり向かい合って彼女から話を訊くには、この夕飯どきが最も適しているように思えた。


モールから出て、信号待ちをしながら、彼女に問いかけた。


「夕飯なんだけど・・・」

相変わらず彼女はずっと無口だった。
窓からこちらを振り返った。

「ちょっと早いけど、居酒屋みたいなとこでいいかな?」

彼女は特に何の表情も浮かべなかった。

「・・・何でもいい。好き嫌いは、無いの」

「そうか。・・・じゃ、知ってるとこへ行くよ」


そのときは既に、勝手を知った庭のような街に入っていた。


ハンドルを細かく切りながら、雑々とした賑やかな通りの雑居ビルに、僕たちは向かった。



雑居ビルの二階にある、大手の居酒屋チェーン店に着いた。其処を選んだのは、個室があるのを知っていたからだ。


―――


「―――鶏だったら、何か食べられるものがあるよね」


個室に案内され、おしぼりで手を拭きながら、堀炬燵ほりごたつ式の窪みで運転に疲れた足を伸ばした。


「・・・・」


彼女は黙ってラミネート加工されたメニューをめつすがめつ見ていた。ちょっと困っているようだった。


結構、遠慮する性格らしい。

「ビールとかは駄目だから、ソフトドリンクを決めて?・・・あとは、じゃ適当に頼もうか」



飲み物と、注文した鶏料理―――焼鳥盛合せ、シーザーサラダ、鶏の刺身、一品のつくねの皿など―――がテーブルに並べられた。


「何かありましたらお呼び下さい」とお運びのスタッフが軽く礼をして個室を出て行った。


「―――さ、じゃ食べよう」と、体勢を整えながら無口な彼女に明るく声を掛けた。


「・・・いただきます」
割り箸を手に持ち、手のひらを合わせて、彼女は子どもっぽい声で言った。

(結構・・・ちゃんとしてるんだな)


もう僕は食べ始めていた。

このあと本格的に質問する心算つもりでいたから、前のめりになっていたのかもしれない。





訊きたいことは山ほどあった。
まず、依頼されたことから訊くのが順当だろう。


「―――で・・・
何であのpapaから、離れたかったの?
DV、されてたとか・・・」


串から外した焼鳥を酒のつまみに箸で取りながら、プレッシャーにならないよう、目を合わせずに尋ねる。


「・・・乱暴は、されてないわ・・・」

彼女も目を合わさず、シーザーサラダを取り分けていた。

「立ち入った話を訊いて悪いけど。
君を連れ出したのは僕みたいなもんだから・・・」

僕は今度は彼女を正視した。

「あの人は、君の何なの?」

真剣な声色にはっとした顔で、彼女もこちらの目を見た。


そのときの瞳は、collapserコラプサーみたいな空洞の黒ではなかった。野良猫が威嚇されて驚いたときに似た、少し怯えた色を帯びていた。

「私の、義理のpapaよ」



そこから、彼女は過去を語り始めた―――。





通訳をしていた実のmamaが、世界的な画家のpapaと仕事を通じて知り合ったこと。


ふたりが結ばれ、papaは日本に在留することになり、りらという子どもが産まれたこと。


そのとき彼女は、中学卒業を控えた年頃だった。


ある日、mamaは赤ちゃんの診察で産婦人科病院へ行った。そのとき、彼女は中学校から帰宅して、家にpapaとふたりきりになった。


papaの才能は尊敬していた。papaから、「絵のモチーフになって欲しい」と言われた。


アトリエでポーズをとっていくうち、肩をあらわにし、背中のラインをさらし、髪を寄せて首筋を強調し・・・


裸に白いシーツを巻き付けながら、脚を組んで椅子に座っていたとき、mamaが病院から帰ってきた。


mamaはりらを抱いたまま、悲鳴を上げた。


そして、狂ったような奇声で何か叫びながら、りらを置いて家から飛び出した。


―――待って、これは、と言いたかったけれど、自分の姿も裸だったし、すぐに追いついて行けなかった。


mamaは・・・飛び出したときに、通りかかった車に衝突して即死した。


―――


「だから・・・私は、疫病神なの。
私がいなければ、mamaもpapaもりらも、幸せに暮らしていたのよ。


papaはずっと、罪悪感に苛まれているわ。りらは小さいから、私をmamaだと信じているの。


でも、もうすぐりらもすべてを知る時が来る。
私はもう、何もかも誤魔化しながら、生きていけないわ・・・」

彼女の告白を聴きながら、僕は喉の奥に何か異物を入れられたような息苦しさを感じ、どうしていいか分からなかった。



【continue】





▶Que Song

断面/Dios




はい、今日はここまでです。


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また、次の記事でお会いしましょう!



🌟Iam a little noter.🌟



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