現在進行形
「ねえ、もう三日経ってるんだけど・・」
妻がリビングの戸口に立ち、テレビを見ながらソファーで寛ぐフミオに言った。
「何が?」
「何がじゃなくて、あなたの書斎に封筒置いたんだけど」
「ああ、あれか・・・」
「この前、二人で話し合ったじゃん。これ以上は無理だって」
フミオはテレビを見つめながら、妻と目を合わせないようにしていた。
「ああ・・」
「ああじゃなくて、さっさと印鑑押してよ。私が届けるから」
「ああ・・」
妻はリビングに入ってくると、リモコンを取ってテレビを消す。
「ねえ、聞いてんの? 封筒の中見たんでしょ? 昨日、見るって言ったよね」
「ああ・・あれは・・か・・確認中だから・・・」
「確認中? 何言ってるの。見たの、見てないの、どっち?」
「いや、だから確認中だって・・」
「何、確認中って? 封筒に離婚届入ってるからって言ったよね?」
「確認しないことには、印鑑は押せないから・・・・」
「私、言ったよね? 明日、役所に行くからって」
「分かったから・・今、確認するために動いてるから・・」
「何、さっきからその変な言い回し? 動くって封筒を開けばいい話だよね」
「なるべく早く印鑑を押せるように、こっちでも動いているから」
「だから、何、その組織で動いてますみたいな言い方。あなた以外に誰が動くの?」
妻は鼻息荒くリビングを出ていくと、暫くして戻ってきた。
「はい、離婚届! 今から役所行くから」
「確認しないことには・・」
妻はソファーに座ったフミオの前に立つと、フミオの顔面、わずか10㎝ほど正面にその紙を両手で広げて見せた。
「はい、確認終了!見たよね」
「いや、まだ・・・・」
「もういいからそういう時間稼ぎ。これ、私の印鑑、ここにあなたの印鑑を押して」
「今?」
「そうよ、早くして!」
そう言いながら妻はフミオの印鑑と離婚届をテーブルに置いた。
フミオは渋々印鑑を手に取ると、念入りに朱肉を押し当てた。
「何モタモタしてんの、貸して!」
苛ついた妻はフミオの手を払いのけ、朱肉を片づけた。
「早く、押しなよ!」
フミオは印鑑をつまんだまま、離婚届の前で固まっている。
「ほら、何してんの? 早く!」
「ちょっと待ってくれ・・今、捺印中だから・・・」
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