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胴上げ

「ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ!」

一塊の群衆が、何者かを胴上げをしている。

「ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ!」

誰かが指をさして叫んだ。

「おい、あっちの方が新しいぞ!」

人々は振り返り、その先に、いかにも新しそうな感じの奴を見つけると、一斉に駆け出し始めた。

「担ぎ上げろ!」

たちまち、新しそうな感じの奴は群衆に取り囲まれ、空中に放り上げられた。

「ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ!」

暫くして、誰かが叫んだ。

「お前ら、いつまで古い価値観引きずってんだよ!」

人々は振り向き、新しい価値観を発見した途端、我先にと殺到した。

「ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ! 我らこそトレンド! 我らこそ正義!」

また、暫くすると誰かが叫んだ。

「おい、こっちにも価値観があるぞ! こっちの方が新しそうだ!」

人々は、後に続けと走り出し、その新しそうな価値観に群がった。

「ワッセ、ワッセ、ワッセ、ワッセ! 我らこそ時代を先取りする潮流!」

しかし、彼らの担ぎ上げている価値観は、前の価値観にちょっと飾りつけを足したものに過ぎなかった。

誰かが叫ぶ。

「こっちの価値観が新しそうだ!」

人々は、走り出し、それに群がった。

誰かが叫ぶ。

「こっちの方が新しそうだ!」

人々は、走り出し、それに群がる。

結局、群衆は同じ場所をぐるぐると回っているだけだった。



鑑定士は、そこまでを読み終えて、その本を閉じた。

「先生、その古文書はいつの時代のものなんですか?」

「紀元前400年ほど前のものだ。多分、その当時の詩人が書きしたためたものだろう」

「ホメロスですか?」

「いや、違う。名も無き詩人のものだ。しかし、よく現存していたな」






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