私がメール恐怖症になって一人で対処方法を考えなければならなかった時の話。
先日、(株)サービシンクの名村さん(@yakumo)の、「誰がどう見てもそうとしか受け取れない文章術」のスライドを拝見させていただいた際、昔あった出来事を思い出したので、その時のことを書いてみようと思います。
これは、私が2000年代前半の頃、某有名ECモールに出店している店舗を委託されて管理・運営・制作の仕事をしていた時のお話です。
当時、私がやっていた仕事について。
2000年代の前半から半ばにかけて、私は地元のあるごく小さなIT系の会社に就職し、某有名ECモールに出店している取引先の店舗の委託管理・運営・制作を1人で対応しておりました(商品管理・発送・掲載企画立案までは、さすがに無理なので、そちらは委託先の対応です)。
当時は、現代のようにスマホはなくガラケー、チャットはありましたが誰もが知ってるツールまでには至っていません(もちろん、仕事上で使う習慣もありません)。PCでのメール、電話でのやりとりが主流でした。
その中でも、ECサイトからのお客様とは、メールでのやり取りをすることの方がほとんどでした。なぜかと言うと、理由は以下2点。
1.電話をかける場合は委託先に出向く必要があるため。
当然ですが、在籍していた会社と委託先の電話番号は違います。そのため、電話が必要な場合は委託先で電話をする必要がありました(相手が、携帯などの番号表示対応機の場合、ECサイト上で公開している番号とは違う番号からかかると怪しまれることを考慮)。そうすると、自分が業務で使用しているPC前から離れないといけなかったため、なるべく掛けることなく完結するようにしたかったのです。
2.ECサイトからの注文は、ほぼ県外からなので、電話をかけると、電話代がかかり、委託先に負担をかけさせてしまいかねないため。
特に私は瞬発力が必要な話が下手で、余計に時間をとってしまいかねないことを考えると、あまりやりたくなかったのはあります(注文はほぼ全国からありました)。
この2つの理由から、なるべくメールで完結するように、かつ、お客様からのご返答もないようにまとめてメールをお送りすることを心がけていました。
相手の顔が全く見えない状態でやりとりをするのは電話と同じですが、電話と違って返答時の瞬発力がいらない分、まだ文章を考える時間があったので、注文の内容や、備考欄にかかれているメッセージから相手を想像して、できる限り伝わりやすい返信の内容を書くようにしていました。
しかし、それがうまくできていたのも注文数が少なかった時の話。
頑張れば頑張るほど注文数が増えたのは良いことでしたが、その分、負担ものしかかってくるようになりました。
苦痛を感じた点。
1.やりとりに時間がかかる。
メールの最大の「欠点」とも言えるのがこれです。一度送信すると、返答までに時間がかかるんですよね(現代だと、「チャット」という即答しやすいツールがあるのでまだ気持ちが楽ですが、当時はまだ普及されておらず)。即答してくださる方は本当に稀で、簡単な受け答えでも、下手をすると丸1日かかっていることもしばしばで地味に精神的負担になってました。
2.一度送信してしまうと取り消しができない。
わかりますでしょうか。苦心の末にやっと書けた!チェックした!よっしゃ送信ボタン!と押した後に、間違っていたという時の落胆と絶望感…。
間違えていたからといって、単に「申し訳ございません」と書けばいいのかというとそうではなく、さらにお詫び文章を考える必要があります。こちらがこれで良い、と思っても、お客様によっては受け取り方が違ってくるため、そこも考慮しながら書く必要も出るので、さらに精神的負担がかかることになりました。
また、お送りする内容を違うお客様に、送信してしまうと個人情報流出問題と信用が落ちてしまうため、とにかく送信ボタンを押すのに非常に勇気が必要でした。
3.どう書けば相手に過不足なく伝わるか悩むことが多かった。
最初にも少し書きましたが、顔が見えない相手、しかも県外の方に対応するので、相手の心情を損なうことなく、かつこちらの意図が伝わるように書かなければいけないことも、実はかなり心理的負担でした。
4.個人的に電話が嫌い&委託先まで行くのが面倒だった。
個人的なことですが、幼少時にあったある事件がきっかけで、電話が苦手なのです(さすがに今は克服してますが、それでもできれば電話は極力したくないタイプ)。
あと、委託先での電話については上記で書いているので省略します。
5.相談に乗ってくれる相手がいなかった。
もちろん、上司に相談はしたのですが、「うまいことやってもっと稼いで」とかわされるだけ(この件だけでなく、当時の上司は物事が「炎上」にかなり近い状態にならないと行動に移さなかったことが多かったです)。
また、委託先のスタッフはというと、IT関係に強い方がおらず、依頼主である委託先の社長も、人員・人件費的な問題で、その時の担当さん以外にEC担当にはさせたくないというスタンス。
そして、当時の私は20代半ばで一番の下っ端。さすがに立ち向かえるわけがありません。私の悩みや訴えを聞き入れていただけるのはなかなか厳しい環境でした。
この結果、しばらくすると職場のPCに自体に向かうこと自体に抵抗を感じるようになりました。これに負けてはいけないと踏ん張りはしたのですが、無理をして向かおうとすると、今度は手が震えてしまうように。
誰も頼れる人がいない中、かなり悩みましたが、ひとまず離れて対策を練ることに。
私が考えた対策。
1.とりあえず逃げ場を作った。
まずは仕事のことを忘れて、一人で何も考えずに休める時間を作りました。
あと、メール対応だけでなく、制作の仕事も兼ねていたので、そちらに没頭することもありました。
2.内容別で分けて、返答しやすいものを先に返答した。
発送連絡など、いわゆる「テンプレート」に則ればOKなものから対応し、自分の中でウォーミングアップができてから、時間をかける必要があるものの対応をしました。
3.後は「根性」と「継続」。
対策を立てたのであれば、後は実行あるのみ。…といいますか、それしかないんですよね。なんだかんだで向かわないことには、いつまでたっても解消にはならないので。
「無事できたらよかった、できなかったら明日またがんばろう」。
そんなこなせるような気持ちで向かって対応しておりました。
4.自分ができないと思ったら他の人に甘える。
当然、自分では対応が無理な内容もありました。その場合は、委託先の担当さんに思い切って甘えることにしました。「相談する=能力がないと思われる=クビを切られる」という考えが根底にあったので、伝えるのは非常に勇気がいりましたが、担当さんも理解してくださった(むしろ伝えた方が良い注文もありました)ので、そこは大変ありがたく思いました。
そうこうするうちに、1ヵ月ぐらいかかって少しづつ恐怖感がなくなってくるのを感じました。仕事の状況で、稀にぶり返すこともありましたが、何度かこの方法を取ることによって少しずつサイクルが短くすることもできました(これは慣れもあるかと思います)。
とりあえず、この場は乗り切った…がしかし。
今度は管理と制作で限界が。今後を考えると、自分で解決するよりも人員を増やす方が良いと考え、上司にあしらわれながらも、それでも根気よく誰かお願いできる人をと懇願して、やっと人員が増えることになり、ようやく本当の意味で負担を減らすことができました。
言語化能力を身につけることは、自分を救うことでもある。
今考えると、「ほぼ会うことができない遠方の方と、文章だけのやり取りを何度も行った」経験は非常に大きいものだったなぁと思います。辛かったけど経験しといてよかったなと思ったのは、制作スキルを磨ける環境を求めて、松山の制作会社へ転職した時でした。
ECサイト管理運営と違って、顔が見えるお客様とやりとりをするようになったので、それは少し気持ちは楽になりました。しかし、その反面「これで通じて、対応してもらえて当然」といった、下手すれば丸投げと捉えられそうな文章や判断に迷うような文章が多く届くようになりました。
しかも、逆に私がECサイト管理運営で培ったスタイルでやり取りすると「お前の文章は長い」、そして上司・先輩からは「なんでメールを書くのにそんなに時間がかかるんだ」と言われるようにもなりました。
しかし、電話だけで済ますことはありませんでした。理由は以下4つ。
メールでやり取りすると、自動的に「メモ・指示書」の代わりになる。
他の仕事に追われて少々忘れてしまっても大丈夫。
他の人にお願いする時の説明書にも転用できる。
言った言わない問題が発生しない(「証拠」が残る)。
これらは、ECモール管理運営をしていたときに気づいたことです。
電話で済ますと、自分でメモをすることになりますが、何の作業の依頼があったかの「証拠」が残りません。聞き違いで「言った言わない」の水掛け論になってトラブル発生、ということも生じます。なので、なるべくしっかり書くように心がけました(ちなみに、このやり取りのおかげで、濡れ衣トラブルから何度か救われたことがあります)。
転職先の仕事は、とにかくスピード対応を重視されており、私がやっていることは評価されづらいことではありましたが、それでも続けた結果、今こうして文章だけのやり取りで完結できるようなスキルを培えたのは本当に良かったと思います。
当初からお客様とすぐ会える距離であれば、すぐにお会いしてやり取りをしたかもしれませんが、遠方で連絡手段が限られているとなると、その分どのようにすればより良く伝えられるか考える必要があります。
かなり精神的にしんどい経験だったと思いますが、今思えばその経験をしていたおかげで、自然にわかりやすい書き方を考える癖が備わっていたので、それは良かったなと思います。
自分と人との考え方・感じ方は違う。
実は、私の信条は「自分と人との考え方・感じ方は違う」。それは職場の人、同業者、家族、子どもなど身近な方であっても同じです。身近だからと言って伝わるとは限りません(この信条に至ったのは、母との関係が理由ですが、説明すると長くなるのでまたの機会に)。
対面・電話(現代だと「ZOOM」はじめとしたビデオ会議ツールも含む)でも声色で「空気を読む」といった事で補える部分もあると思いますが、メールやチャットといった文章でのコミュニケーションでは通用しません。すべて「言葉」に置き換えて、相手が理解できるようにする必要があるのです。
現在、テレワークやリモートワークでの仕事をされている方も多いと思いますが、さて、騒動が収束されたあと、それらも減少していくか…というと、私はそうは思っていません。もしかすると将来的に「出社する」ことが「当たり前」ではなくなってくるのではないかと思ってます。
そうとなると、言語化スキルは今以上に必須度・重要度が高いスキルになるのではと予想しています。
改めて、最初の名村さんのスライドの話に戻しますが、読んでて「ああーそうや、こういうこと一人で考えながらやったわぁ」など、いろいろしみじみ思い出してしまいました。私は当時わかりやすい文章に整える、ということが苦手だったので、まとめることをしないまま今の歳になってしまいましたが、こうしてまとめていただけると、非常にわかりやすいし、見直し・復習のためにもありがたいですね。
「どうすればわかりやすく書けるようになるか」が、噛み砕いてわかりやすく書かれておりますので、文章能力が足りてないと既に感じている人はもとより、できていると思っている方も、この機会に一度見直しをしてみることをおすすめします。
補足)私の現在のやり取りスタイル
現在は、基本的にはやり取りスタイルをとってます。
今後また、どのようなコミュニケーションツールが出てくるかはわかりませんが、特性を生かしてより良いやり取りしていければと思ってます。
お読みいただきありがとうございます。ご支援いただけると大変ありがたいです。