SL搭乗記
生まれて初めてSLに乘った。
埼玉県にある秩父鉄道には観光列車としてSLが走っている。
熊谷から三峰口間を一日往復、片道2時間40分で結ぶ。特に桜が咲く春、紅葉の秋は周辺の景色とマッチして美しい。
SLパレオエクスプレスといいC58形蒸気機関車を使用している。国産車両で戦前から戦後にかけ製造されて1973年引退まで全国で走り続けたという。
なかなか美しい車両だ。
私は家族と乗車した。全席指定のため熊谷発には予約出来ず、長瀞からの帰路乗車することができた。
この時期の長瀞は紅葉が美しい。
長瀞という地名に馴染みない他県の人のために簡単に説明すると、荒川の上流に位置し、荒川の流れで浸食された結晶片岩が川沿いに広がっている。岩畳といわれ、国の名勝・天然記念物に指定されている渓谷でライン下りも有名。
私達は熊谷を普通列車で出発した。スタンプラリーもあり、旅行気分もおのずと高まる
各駅停車で50分かけて長瀞に到着した。
最初に荒川沿いの岩畳に行くことにした。小さな商店街を抜け5分程で到着。観光客で溢れていた。
私達は人の流れに従って岩畳を歩き始めた。岩畳の上は思ったよりも広い。
大きな岩の上でお弁当を食べている人、犬の散歩をしている人もいて、皆思い思いに楽しんでいる。
私達は先へ先へと進んだ。行ける所まで行こうと思った。
だが、どこまで行っても終わりそうもない。それ程広いのだ。
私達は少し休むことにした。
岩の上に座っているとライン下りの舟が下っていく。舟には船頭さんが二人いて、先頭と最後尾にいて、急流を巧みに舟を操りながら進んで行く。
私達が手を振ると舟に乘っている人も手を振り返す。
紅葉であるが、この辺一体は紅色というよりも黄色が多い気がする。
それでも十分に美しい。
お昼になったので私達は商店街に戻り昼食をとることにした。
数軒を覗いてみて気になるメニューを見つけた。それは「胡桃そば」だ。
店の前には既に行列ができている。私達も行列に加わり待つことにした。
20分程たって店員さんが店内に案内してくれた。すでに注文メニューが決まっていたので、席に着くや否や胡桃そばを注文した。
蕎麦は細めんで胡桃だれに付けて食べる。甘めのたれに付けると胡麻の香りが立ち美味しい。最後にそば湯をたれの器に入れて全て飲み干してしまった。初めて食べた味ではあったが、十分に満足できる味であった。
お腹が満たされたところで次の目的地に向った。
長瀞には宝登山がある。標高500メートルに満たない低山ではあるが、山麓には秩父三神社の寳登山神社があり、山頂にはロープウエイで登れる。
私達は長瀞駅から歩いていった。
駅からすぐ国道沿いに大きな鳥居がある。その大鳥居を抜けると緩やかな坂道が続いている。
1km程歩くと寳登山神社に到着する。
神社の手前の急な坂道を登るとロープウェイ乗り場に着く。
当初の計画ではロープウェイに乘ることにしていたが、休日ということもあり、観光客が多く長蛇の行列ができていたため、ロープウェイは次の機会に譲ることにして私達は神社に向った。神社の手前にある鳥居をくぐり社殿に進む。
寳登山神社の創立は古く、約1900年前ときく。彫刻を施した権現造りの社殿は美しい。私達はお参りし帰路に着いた。 いよいよ人生発のSLに乘る。長瀞駅に着き乗車券を見せホームに向った。既に多くの人が待っている。SLを遠くで見たことはあったが、こんなに身近で、しかも乗車することは初めてで気分がおのずと高揚する。時間が近づくと遠くで警笛が聞こえてくる。カメラを構えて待っているとSLが蒸気を吹上ながらホームに入ってきた。
黒光りする蒸気機関車の迫力に圧倒された。むき出しの大きな車輪の持つ力強さは他と比べようもない。見事な車体だ。石炭の匂いも心地良い。
私達は客車に乗り込んだ。全席指定のため席を捜した。座席について改めて車内を見渡してみると、通常の車両に比べ広い。窓には飲みものを置けるカウンターがあり、色も赤茶色ベースでレトロな雰囲気を醸し出している。
出発の時刻になった。列車はゆっくりと滑るようにホームを動き始めた。
ホームにいる乗車しない人達が一斉に手を振ってくれる。私達もそれに応え手を振り返した。とても心地よく、人っていいなと思った瞬間である。
列車は観光列車らしく、ゆっくりと走っていく。
車内からは紅葉真っ盛りの山々が見え美しい。
沿道にいる人達は皆手を振ってくれる。線路と平行している国道を走る車の中からも手を振ってくれる。窓を開けているため、時折車内に入ってくる煙の匂いも心地良い。
車内販売のワゴンが通路を進んできた。私は車内販売限定のジェラートを頼んだ。
丸い蓋を見ると蒸気機関車の前方部分をデザイン化したもので車体番号も入っている。私は蓋を開け口に運んだ。ラムレーズンの香りが鼻孔をくすぐる。
寄居を過ぎる頃、周辺の風景も変化してきた。山とお別れし関東平野を走る。終点の熊谷も近い。やがて風景は田園からビルが多くなり車内放送も終点が近いことを告げていた。
そして、滑るように熊谷駅のホームに入っていった。
列車から降りても私達はしばらくホームに佇んで蒸気機関車を眺めていた。
最新の電車にはない重厚さ。その美しい姿はいつまで見ていても飽きることはない。
今回のSLの列車旅は思っていた以上に楽しかった。
蒸気機関車は言うに及ばず、周辺の風景、非日常ともいえる人々が手を振りあう姿。ここに旅の醍醐味を知った気がする。
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