尾瀬


さき さなえ
 
 
人生100年の時代となった。誰かが、自分は100歳です、と言っても、もうそんなに驚かないのだから、考えてみれば、大変な時代になったものだ。
 
私は若くはないが、まだ100歳までは当分ある。
 
誰にとっても、健康上の問題さえなければ、長生きは素晴らしいことだと思う。
70歳になり、80歳になっても、気持ちは若い時とそんなに変わらないし人は、生きてきた年数だけ、経験を積んでいるわけだから、その経験から多くを学ぶ。
若い時には理解できなかったこともわかるようになるし、失敗が少なくなるし、物事を俯瞰できるようにもなる。健康でさえいれば、長生きは、人生を実り豊かなものにしてくれる。
ただ経験から何も学ぼうとしない人は論外である。
 
私は、毎朝必ずラジオ体操、自己流の準備体操、西野流呼吸法、気功を行う。そして、一日5千歩は必ず歩く。5千歩が七千歩、8千歩以上になることはざらだ。幸い、私の住まいは自然に囲まれているので、ウオーキングに出かけるのはとても楽しい。
毎日、新聞を読む、本を読む、物を書く、音楽を聴く、NHK・BSテレビ番組・火野正平さんの「こころ旅」は欠かさず見る。
 
「私は後期高齢者です」と言うと、たいてい、非常に驚かれる。年齢より若く見えるらしい。
でも歩き方にしても、やはり年齢だなあ、と自分では思っている。歩き方、歩く速度、意識しない限り、さっそうと歩けない。
若い時は、7キロの愛犬を小脇に抱きかかえ、とても重い大きなバッグを肩にかけ、階段を二段ずつ飛び越して駆け降りていたものだが、よくあんなことができたものだ。今考えると恐ろしくなってくる。
 
現在の私が、自分の年齢を強く意識せざるを得ない時があって、
それは「度忘れ」!
その頻度は少しづつ増えている。認知症ではないのです。単純に「度忘れ」
更に、昔のことで忘れてしまっていることのなんと多いことか!
 
ただ救われるのは、幼少の頃であっても、その時、とても感動したこととか、強く印象に残っていることなどは、忘れることなく、はっきり思いだすことができる。これは嬉しい!
 
私は昔から旅行が好きだった。中学時代、高校時代、私は、趣味欄にはいつも決まって同じことを書いた。読書、音楽、旅行……と。
 
これまで色々なところを訪れた。もう一度訪れたい場所はかなりある。その中で断トツ一位は、尾瀬ガ原!
 


19歳の時、私は親しい友人と二人で尾瀬に行った。二泊三日の旅。
多くの人に親しまれている江間章子さんの歌「夏の思い出」は、私も大好きで、6月になるとこの歌をしょっちゅう口ずさむ。
 
夏が来れば思い出す
はるかな尾瀬遠い空
霧の中に浮かびくる
優しいかげ野の小径
水芭蕉の花が咲いている
夢見て咲いている水のほとり
しゃくなげ色にたそがれる
はるかな尾瀬遠い空
 
私は、この尾瀬の旅から帰ったあと、日記に次のように記している。
 
 
 
おそらく私の一生を通じて、尾瀬を訪ねた思い出が、一番大きく、一番美しく、且つ楽しい出来事になるのではないでしょうか。
すべてがあまり美しすぎて、しまいにはマヒ状態となり、あまり美しさにピンとこなくなってしまったことが楽しく思い出されます。
清楚で可憐な水芭蕉の花、遠くから呼びかけるカッコウの声……。
夢よもう一度。私はもう一度、ぜひ尾瀬へ行きたい。日本全国で、尾瀬ほど美しく、神秘的なところは絶対にないだろうと確信しています。
 
尾瀬に魅入られた19歳の私のほほえましい感想である。
 


その後、かくも長く生きてきた私は、日本には、私がまだ訪れたことはないけれども、尾瀬に負けず劣らず、とても美しい場所がいっぱいあることを知っている。
 
しかし尾瀬に対する私の憧憬は、今でもまったく変わらない。尾瀬の風景は、あの頃と大差ないのではないでしょうか。
 


 
美しい夢として、あの思い出のまま、そっとしておきたい気持ち……。
 
人生を終えるまでに、願わくば、出来ることなら、あの時の友人と二人で、もう一度尾瀬を歩きたい、という気持ち……。
 
でもその時は……
 
よぼよぼと、二人、杖をつきながら、よたよたと………
尾瀬を目指す……のでしょうかね!!!

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