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マンデラ小説「M.e」EPISODE2第2話「記憶」

【 「弟」ジャック・ホワイト編】

202☓年1月

1月のダラスは他の地域に比べて温かく風も心地良いんだ。

スイスアベニュー通りにあるのが僕の家。

ガレージには車が2台にバイクが1台納まってる。

緑色のガレージは、休みの時に僕と父さんと一緒に塗った合作なんだ。

1日掛かりで塗ったんだけれど、最後は母さんが参加してワイワイと楽しかったんだ。

DIYが好きな父さんとは、よく一緒にモノ作りをやるんだ。

そしてガレージの屋根の直ぐ上に見える2階の窓が僕の部屋だ。

いつも朝の日差しが降り注いでいて気持ちいいんだよ。

だから寝坊はしにくいんだけれどね。

冬でも日差しがさすと本当に温かい。

今、僕はベッドから部屋の天井を眺めてる。

1つ深呼吸して

大きく伸びをして身体を起こした。

どうやら二度寝をしたようだ。

いつも起こしてくれるApple Watchも役立たずさ。

欠伸をする。

時計を見て、今日の約束の時間には十分に間に合いそうで安心したよ。

ベッドの上で胡座をかいて頭をぐるりと回して体調を整える。

「よし」

ベッドを飛び降りた。

寝間着のシャツとパンツを脱いで着替えを探す。

お気に入りの靴下がない。

片方を手に掴みグルグル回しながら相棒を探す。

僕の家のルールでは、洗濯は母さんがやってくれるんだ。

でも、畳まずに木で編んだ洗濯カゴにドサッと入れてくれて部屋の中に置いてくれるんだ。

畳んでボックスに仕舞うのは僕の役目…僕の洗濯物だから当たり前なんだけれどね。

でも、昨日は洗濯カゴに入れたまま片付けなかったから3日分の洗濯物の中から靴下を捜索する羽目になった。

あった。

Tシャツの中に入ってた。

笑いながら着替えを済ませる。

ジーンズにTシャツは2枚重ねをする。

2枚重ねは結構クールで気に入ってるんだけれど、母さんには不評なのは解せないんだ。

ぐしゃぐしゃになった僕のベッドのメイクをしながら、昨日の裸のチアリーディングを思い出した…。

本当にコントみたいで可笑しかったんだ。

クスクス笑っているとドアにノックがあり母さんから朝ご飯の誘いがきたんだ。

自分の食べた分の食器を洗い終えた。

赤いジャンパーを羽織る。

僕は、2階の自分の部屋からバイクのKeyとヘルメットを手に取りリビングに駆け下りた。

母さんがテーブルで珈琲を飲んでいる。

「行ってくるよ。母さんの作るのエッグスクランブルはいつも最高だよ」

ヘルメットをソファに投げて母さんをハグしながら頬にキスをした。

「気を付けてね。あの子達によろしくね」

行き先と用事は、朝ご飯の時に話してある。

今朝も母さんの朝食は絶品だった。

僕の腕をトントンと叩いて笑顔で見送ってくれた。

壁に飾ってある、写真立てを横目に見て玄関を出たんだ。

外も気持ちいい。

木々の澄んだ匂いがする。

昼下がりの時間になっていた。

朝ご飯というよりブランチだよね。

ペロッと下を出しながら、ヘルメットを被りガレージからバイクを引っ張り出した。

今どきなのに、キックでエンジンを掛けるバイクはクールで好きだ。

温かい日差しを受けながら走り出す。

けど、スピードを出すとヘルメットの中の顔が寒さで少し痛みを感じるんだ。

太陽と緑の匂いが感じられた。

兄さんのお下がりの日本製の赤いオフロードバイクは快適に通りを走り抜ける。

アカード通りに通じる道に入る。

この辺りになると車も増えてきて慎重に運転するんだ。

ダラスの南アカード通りにある僕達の溜り場「Coffee Roasting Studio Alpha」

珈琲ショップの「Alpha」。

幼馴染で今でも仲間の「アーサー」「アミラ」「ポール」と落ち合うんだ。

「アーサー」は、身長が一番高くてスリム。色白で赤毛なのが彼の自慢で長髪にしていて髪をいつも結んでいる。運動が苦手なのに車の運転はクールなんだ。
いつも遅刻してくる陽気なヤツさ。

「アミラ」は紅一点のクール女子。金髪のおカッパ頭で格闘技は有段者なんだ。
好奇心旺盛でいつも先頭を切ってくれる頼れるヤツなんだけれど、誰よりも心が優しい素敵な女性。

「ポール」はおしゃべりなんだけれど笑いの沸点が低くて何でも笑える才能の持ち主。そしてイケメンなんだ。僕と1、2を争うんじゃないかと思ってる。変なイラスト入りのTシャツが好きなんだ。

そして僕、ジャックは身長が185センチで結構筋肉質。ヘアスタイルは勿論、ジャック・バウワーと同じくスタイルにしてあるんだ。スマホの着信音は「CTU」の電話音さ。クールだろ。

珈琲ショップ「Alpha」の赤レンガのクールな外観が近付いてきた。

兄さんのバイクを赤レンガの壁際、いつものスペースに停める。

日差しが遮りちょっとひんやりしていた。

ここのショップはお気に入りなんだ。

開放的でおしゃれだし、何より珈琲が美味いんだ。

アミラの親戚が経営していて彼女もたまにバイトをしていた。

だから僕達の座るテーブルは特別に作って貰ってる。

オーナーのマイクが長時間居座る僕達用に用意してくれたスペシャルな場所なんだ。

貰ってる、と言うより壊れかけのテーブルと僕達が持ち寄ったチェストがお店の隅の方、パーテーションで囲われた、ほとんど物置のような場所が僕らのスペースでありアジトなんだ。

とても雰囲気があってクールで好きな場所だ。

秘密基地にしてはFUZZYだけれども僕らの居場所だ。

実は僕達専用のWi-Fiも内緒で設置してあるのは秘密だよ。

バイクのスタンドを掛け、Keyを抜いて太いチェーンロックをかけた。

ヘルメットを腕に通してお店に入った。

珈琲の優しい匂いが鼻を一杯にした。

「Hey!マイク!」

カウンターで忙しくしているマイクに声をかけた。

彼は笑顔でジェスチャーして返してくれた。

誰かが先に来ているようだった。

■■■■

兄さんが創った凄腕ハッカー達のチーム。

「エブリィ・ワン」

行方不明になった兄さんの捜索に、両親が四方八方手を尽くしたんだけれど、手掛かりは全く掴めなかった。

僕は「エブリィ・ワン」に全てを託して始めて接触をしたんだ。

パソコンのモニター越しのチャットでの会話で、僕は裸で踊らされひっくり返って笑われたんだ。

悪い気はしなかったよ。

兄さんの仲間達に暖かく迎え入れられた気がしたんだ。

そして彼等が行っている経緯や仕事を教えて貰ったんだ。

彼等は僕の質問に真摯に向き合ってくれたんだ。

「HERO/J.com」や「Q」と言うリーダーの指示で世界を救う大きな仕事も聞いた。

HEROって名前がクールだ。

不思議なサイトらしく誰も見る事も出来ないそうなんだ。

僕はそんなにパソコンが詳しくないから笑顔でやり過ごしたよ。

ネズミ部屋の事も聞いた。

そして彼等の困難なミッションの事も教えてくれた。

兄さんが、生きているって事が分かっただけで勇気が湧いたよ。

でも両親には兄さんと2人、秘密を誓ったから話す事はできないし…どうしようかと悩んだんだ。

僕も何かお手伝いしたい、と申し出たんだけれど断られた。

【それは、いつか君に訪れる】

【明日には君達に平和がやってくるよ】

【私達に任せて】

【裸で寝るなよ】

【Good Luck】

裸で踊るミームな僕が、あまりにもしつこいので笑ったよ。

夜も遅いから早く寝るように彼等に言われた。

僕の気持ちは暖かくなり心配もなくなったんだ。

でも、両親が心配だから下に降りて早くハグしたかったんだ。

キーボードに打ち込んだ。

【Thank You VeryMatch】

【Good Night】

そうして、兄さんのパソコンを落として部屋の明かりを消したんだ。

父さんと母さんには、その事は決して言えないけれど、希望の光が見えたんだ。

チグハグに着ちゃった服を見て笑う余裕もでた。

その格好のまま下に急いで降りた。

父さんと母さんに飛びついたんだ。

■■■■

翌朝、僕は声を上げた。

兄さんの状況の進捗が気になって、早くに起き兄さんの部屋に入ったんだ。

「エブリィ・ワン」からの連絡が入ってるかもしれなかったから。

ほら?パソコンオタクって夜中に活動するだろ?

僕の部屋の向いにある兄さんの部屋に入る。

思ったよりヒンヤリしていたのにビックとしたよ。

大きな窓から薄く太陽の光が指して気持ちいい部屋だった。

…だったんだけれど

部屋が違う!?

正確には模様替えしてある?

配置換え?

一晩で?

父さんか母さんが部屋の中を動かしたのか?

僕はTシャツにスウェットを履いて裸足姿だった。

その格好のまま、ヒンヤリした部屋の全てを見回し歩く。

昨日までの兄さんの部屋ではなくなっていた。

一晩で動かしたようなモノではなく、昔から存在してかのようだったんだ。

昨日使っていたパソコンのデスク自体から見当たらない。

僕達の好きなアメリカンフットボールのポスターやらグッズや飾りも全て無くなっていた。

無言になる。

代わりにバスケットボールのリングが壁に設置されボールが飾られていた。

目を疑ったんだ。

なんだこれは?

まるで知らない家のハイスクールの学生部屋だ。

バスケットボールの意味が分かった。

壁に貼られた僕と兄さんの写真を見て驚いたんだ。

近寄ってみた。

僕達はアメリカンフットボール選手ではなく2人ともバスケットボールの選手の格好をしていた。

写真を見ても意味がわからない。

誰だ?これは?

写真の中でNBAのチームTシャツを着て笑ってる、幼い頃の自分の顔を指でなぞったんだ。

覚えがないぞ。

鳥肌が立つ。

両親の部屋は僕の部屋の隣だ。

思わず叩き起こして、この不思議な状況を問いただしたかったんだけれど…。

兄さんが行方不明になって、落ち込んでいる父さん母さんを考えるとソレは絶対に出来ない。

先ずは、僕が落ち着いて状況を確認しないといけない。

僕が両親を守らなければいけないんだ。

兄さんの部屋の天井を眺めて大きく深呼吸した。

そんな時に閃くように突き動かす衝動を感じたんだ。

その衝動に任せて、僕は自分の部屋に急いで戻った。

床から感じる裸足の寒さは気にならなかった。

ドアを開けてみてソレを確信したんだ。

身体が震えたのを感じた。

■■■■

「Hey!ジャック!」

「元気?ジャック」

「遅いよ」

笑顔で迎えられた。

皆が先に到着していたんだ。

「Hey!ポール」

ハイタッチした。

「君も元気そうだね。アミラ!」

手を上げて挨拶した。

「アーサー!」

いつも遅刻するアーサーには、彼に向って拳銃を撃つ真似をした。

彼はハートに手を当てて戯けた。

本当に気持ちいい仲間だ。

全員同い年でハイスクール時代の同級生でもあった。

大学も同じなんだ。

皆、この街が好きだからココから離れた大学には誰も行かなかったんだ。

そして4人で作った大学の研究会のメンバーでもあるんだ。

今日はその研究会の重要な会合だった。

ヘルメットをいつもの壁のフックに掛けて自分のチェアに座る。

デスクには3人の珈琲カップが置いてあり、随分と前に3人とも着ていたのが伺えた。

「あれ?僕、時間を間違えたかい?」

寝坊したからな…と思いながらバツの悪い顔をして頭をかきあげた。

アーサーが笑いながら

「問題ないよ。君が来る前に3人で話さなきゃならない事があったから時間通りだよ」

僕を拳銃で撃つ真似をして戯けた。

他の2人はデスクにそれぞれ置かれていた紙の資料を読みふけっている。

僕はアーサーに撃たれたフリをして戯け返した。

今日は、彼等には予定を変更して大事なお願いをする予定なんだけれど…どう話していいか戸惑っていた。

予定とは…僕達は、来月から大学を1年間休学する事になっている。

そうして、僕達の研究会でやらなければいけない重要なミッションを行うんだ。

その内容で僕だけ違う行動を取りたい許可を貰いたいんだけれど、いったいどうやって説明すればいいか未だに悩んでいたんだ。

■■■■■

足音を立てないように自分の部屋に戻った。

父さん母さんが起きる前に確認しなければいけなかった。

素足のままドアを開けて部屋に入る。

予想した通りだ。

僕の部屋も変わっていた。

もう驚かなくなっていた。

僕が持ってない筈のパソコンがデスクに鎮座していたんだ。

パソコンのモニターを撫でてみた。

不思議な事に使い覚えや、これまでの記憶が蘇ってくる。

部屋を見渡す。

やはり、兄さんと揃えであったアメリカンフットボールのグッズ達も無くなっていて、代わりにバスケットボールのグッズが溢れていた。

兄さんと僕はバスケットボールのクラブに所属していたんだ。

不思議な事に、どれもコレも馴染んでいる気持ちになる。

昔からそうであるように。

兄さんの部屋のデスクに置いてあった、母さんが書き残した日記をみて確信したんだ。

202☓年1月のいま現在。

兄さんが1ヶ月前に行方不明になった筈だった。

昨夜、兄さんの創ったパソコングループ「エブリィ・ワン」の人達に助けを求めた。

兄さん達の状況も理解したし安否がわかったのも救いだったんだ。

今日から兄さんの捜索をする体制だった。

しかし、母さんが残した日記に書いてあったのは…

今から10年前、201☓年。 

兄さんは17歳。

彼は所属するバスケットボールクラブのバスで会場に向かう途中。

交通事故にあって亡くなっていたんだ。

10年前に兄さんが亡くなっていたんだ。

ショッキングだった。

昨日までの出来事は何だったんだ?

エブリィワンとのやり取りは覚えてるし、パンツを足に引っ掛けてひっくり返った時に出来た膝のアザも残ってる。

下を向いて足のアザをみた。

葛藤していると、忘れていた残された全ての記憶が勢いよく僕の頭や身体に流れ込んだんだ。

身体に電気が走るとはこの事だ、こんな時に不意に感じて笑ったよ。

やっぱりそうだ。

僕は2つの世界を知っている。

今いる世界は並行世界のような別世界だ。

凄くクールな出来事だ。

握っていた両拳を開いて手の平をみた。

急に頭痛がして何だか身体が重くなり、僕はそのままベッドに倒れ込んだんだ。

気持ちいい。

そうだ、今日は出掛ける予定なんだよな、と思い出したが瞼が重い。

頭を傾けてみると、朝焼けの日差しがカーテンの隙間から見える。

それを目の端で確認して眠ってしまった。

■■■■■

珈琲ショップ「Alpha」の僕らのアジトスペースはいつもの様に賑やかではなかった。

僕の様子がおかしいのに3人は気が付いたようだった。

そんな時に、立派なヒゲを蓄え、立派なお腹を突き出しながらマイクが珈琲を持ってきてくれたんだ。

僕専用のマグカップ。

ドラマ「24」の記念のカップさ。

「Hey!皆、どうしたんだい?お通夜みたいだぞ。若い時は何時でも笑ってるもんだぜ」

僕のために持って来た珈琲をマイクかグビッと飲んで眼の前に置いた。

笑顔でサムズアップして格好をつけて出ていった。

僕達にドッと笑いが起こった。

珈琲が熱すぎてマイクがパーテーションの裏で

「あちーーーい」

と叫んでいたからだった。

格好をつけて格好がつかない…いつものマイクだね。

お陰で気が抜けてきて楽になったよ。

マグカップを持ちながら、この世界での僕の歴史を振り返っていた。

僕は兄さんが亡くなった時にバスケットボールを止めた。

そうして、11歳の僕はパソコンの世界に飛び込んでいたんだ。

それが使命だと言わんばっかりに兄さんと同じハッカーをやっていた。

その世界では割と有名になった。

僕のパソコンネームは本名のままの

「Jack」だ。

ハイスクールに上がった時に気の合う仲間のアーサー、アミラ、ポールと4人で研究会を創ったんだ。

世の中の嘘の歴史、隠された真実、不思議な出来事を追いかける研究会。

チーム名は

「エブリィ・ワン」だ。

【エピローグ】

今日の「エブリィ・ワン」会合の議題は1年間休学してチーム皆で決めた目的であるミッションをこなす事だった。

でも僕はそれを覆す提案をしなければいけなかった。

僕が2つの世界を生きていた事。

こちらの世界に今日やって来た事。

兄さんが交通事故で亡くなっていなかった事。 

本物の「エブリィ・ワン」の話。

そしてこの1年間を利用して僕は兄さんを探す旅に出たいと言う提案だった。

テーブルの上で両手を組んで下を向いて深刻な表情をしていたら

気配が変だ。

どうやって話を切り出そうか思案していたのに…。

僕の顔を見ながら3人とも探るような眼差しと口元がニヤついているのに気が付いた。

彼等の手元には、とても古そうな黄ばんだ蓋を開けた封書と手紙があった。

ポールが僕にその古びた手紙を差し出した。

手紙を読んで鳥肌が立つ。

「ウソだろ!!!」

大声を上げて立ち上がった!

■■■■■next

EPISODE2 第3話
https://note.com/bright_quince204/n/n0723c673774d

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