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マンデラ小説「M.e」EPISODE2 第3話「ロンドン動物園」

【「兄」インディ・ホワイト編】


■201☓年5月 イギリス・ロンドン■

「J」が開発したメガネは驚異だ。

Smart Glassと呼ばれ、スマホと連動しメガネのガラスをモニターとして使えるシステムだ。

発売は、まだ先だが新興企業のGoogle社に製造委託したようだ。

世間では、そのGoogle社が開発中という事になっているが、全てが「J」のアイデアであり彼が「安く楽に作りたい」と言う笑い話のような本当の話でGoogleにいる知り合いと作ったようだ。

結局、俺達が使うメガネは無料になったようだ。

「J」は物凄いお金持ちなのに「無料」と聞いて子供のように喜んでるのはおかしかった。

数年後には市販予定のGoogle Smart Glass。

それは、廉価版で本来の性能の5%も満たない。

そりゃそうだ。

未来のオーバーテクノロジーだからだ。

5月のロンドンは思ったより温かい。

どんよりした雲空。

匂いも湿っていた。

俺は高級な滑革のライダース風のジャケットとハンチングを被り、キャメル色のパンツとジョンロブの革のレースアップブーツを履いている。

正確に言うと、隣街のソーホー街にある「J」のアジトで着替えさせられたのだ。

全く面倒だった。

石畳の風情のある街角。

コンクリート作りの2階建ての倉庫のような所。

小さく区切られ並んでいるお洒落なショップの1つ。

装飾品を扱っているショップがアジトだった。

買い物客のように入る。

試着室のカーテンを超えるとバックルームがあり店内より大きい。

アジトには時間差で入り、個別に着替えて出ていった。

俺が最後だ。

「ブリティシュカジュアルなんか知らない!」って言っただけでスタイリストが呆れやがった。

格好なんてアメリカもイギリスも関係ないじゃないか。

怒りに任せて鏡も見ずに表に出た。

リーダーのエースが、ドアに持たれ腕組みをし苦笑いしてコチラを見ていた。

俺は鼻をこすりながらエースを横目に表に出た。

気持ちを切り替えて待ち合わせ場所に向かっていた。

メイフェア街のベイカーストリートの信号待ちで立ち止まり、メガネを外し、片手で持って空に掲げてみた。

青空とは言えない曇り空。

イギリスに来たと言う感じはする。

風の匂いが重い。

「普通のメガネだよな」

透かし見ても変哲もない。

しかし、このSmart Glassの性能には驚いた。

メガネの右側テンプルの認証スイッチを触るとパソコンのモニターになる。

しかも3Dで本来の視界を遮る事なく映画館で字幕を見るよう自然だった。

骨伝導か?声で指示をするとモニターが変わる。

暗視用か?周波数が何段階かに色ごと変化する。

声の指示で写真や動画が撮れたりする。

本体の電力は人のエネルギーを利用するらしい。

つまりかけている時は無限に使えると言う事だ。

理屈は知らされてないが、体温を利用したモノではないかと俺は推測していた。

信号が青に変わり歩道を渡る。

すれ違う観光客が多い。

異国の外国人が溢れてるのでイギリスのカジュアルの格好は必要なのか?

毒づき舌打ちをした。

ベイカーストリートを歩いてみて驚く。

アパートに囲まれた街並みに、空気がひんやりしていた。

前文明の遺跡の建物が本当に存在していた。

近くのアパートの壁にそっと手を置いた。

感動する。

「J」に教えて貰うまで、近代的な建物だとばかり思っていたが実物を見て確信した。

アパートを見上げる。

全部ではないがオリジナルは一目見てわかる。

他のアパート等はソレを模倣しているに過ぎない。

周りを見回しながらゆっくり歩いていた。

先程から、通り過ぎる観光客の視線がおかしい?

すれ違う全員が俺を見て笑顔で返してくれる。

変ったところは服装だけだから、イギリス風のカジュアルも悪くはないかもしれないな。

鼻を軽くこすって笑う。

革のジャケットからスマートフォンを取り出した。

そして指にはめてあるスマートリング。

メガネと3点セットで稼働している。

GPSも「J」が持つ月の衛星を利用している。

俺達専用の周波数を使用するので他人が探知する事は出来ない。

このスマートフォン。

これも驚くべき技術だった。

勿論「J」のアイデアで作られたモノだった。

IBM社の友達に依頼して作らせて型を造ったのはこれまたGoogleだった。

Google社はこれこら世界的な企業になるに違いない。

何と言っても「J」が関与してるからな。

スマホの画面を触らずとも指揮者のように空中を指でなぞるだけで操作できた。

空中でなくともポケットの中でも問題なかったのは驚いた。

メガネに集合地点と時間のカウントが投影された。

リージェンツ・パークに入りアウター・サークルを歩く。

木漏れ日が少し出てきた。

新緑なのか、空気が一変し気分が高揚してくる。

今日のミッションで編成された人数は5人。

旧エブリィ・ワンのメンバーだ。

しかし今回が海外での初ミッション。

以前からやっていたスパイハッカー時代のミッションと変わりないはずだ。

が…今回のミッションはやはり緊張感が凄い。

「J」とエースが言っていた「本当の敵」を知る現場だ。

気持ちが高揚していた。

苛立ってソーホーのスタイリストに悪い態度を取って事を謝らないとな。

鼻をこする。

集合地点に急いで歩いた。


【■並行世界■ 200☓年3月 フロリダ州米軍キャンプ】

エプスタイン島の事件から俺達エブリィ・ワンは解散した。

初のミッションだったのだがニールが先走ってしまった。

そして、友達でもあり仲間のニールが酷い目にあったんだ。

絶対に、このままでは済まさない。

借りは返す。

俺達は本格的に「Q」と共に行動をする事になった。

「J」は世界各地に赴いていて米国では主に「Q」が指揮を取っていた。

以前に俺達は「Q」は女性ではないか?

と言うオモシロ半分の話がでていた。

「Queen」の略称では無いのか?

何より「Q」に実際に誰も会った事がないからだ。

ある時に、ネズミ部屋で仲間のランディが直球で【女性ですか?】と問うてみた。

「Q」が即答した

【Am i human?】

「私が人間だと?」

「Q」は直ぐに冗談だと笑っていたが俺達は誰も笑えなかったのだ。

それ以降「Q」の事は、正体不明の未知なる者として「アンノウン/unknown」と言う言葉を俺達は捧げた。

ちょうど、俺達はエブリィ・ワンを解散し集う為の呼び名が必要だった。

「Qアノン」

それが「J」の下に集う、このグループの呼び名となった。

「Q」は抵抗したが「J」がノリノリで承認した。

「don't call me anon」

俺達に釘を差すのが精一杯。

俺達は、それからロンドンの初のミッションを経て、その世界線から姿を消したのだった。

別の世界線の並行世界にスライドした。

それも数年過去に飛んでいた。

それは「J」の持つオーバーテクノロジーである。

フロリダ州の米軍キャンプ。

ニールがいつも先頭を走る。

デビィヴィドとマイケルとアランが続く。

ランディと俺はビリ争いだ。

パソコン作業をやりすぎてすっかり体力が落ちていた。

「Qアノン」グループの「ブートキャンプ」だ。

こちらの世界に移動してからは、俺達は「J」のコネクションを利用し米国海軍の軍事キャンプの訓練を受けていた。

俺達のチームは10名。

今月は海軍のキャンプで鍛えて貰っている。

「Qアノン」のメンバーは「J」がスカウティングしてきた。

おかしな事に初対面でも全員と馬があった。

馴染みと言うか昔からチームを組んで行動しているかのようで彼らといると心地よかった。

心から繋がっている不思議な感じだ。

俺達の所属は「Qアノン」の攻撃チームになり、表向きには「セキュリティ会社」の社員だった。

キチンと給料もでた。

年俸制で一度に大金を貰えた。

しかし俺達は誰も金に興味がなかった。

それぞれの家族に全額を送金する者、施設に寄付する者、要らないと突っ返されて「Q」が困っているのが皆で笑ったよ。

俺は家族に保険金と称して「Q」から払ってもらっていた。

そうなのだ…俺達はこの世には存在しないのだ。

そして俺達の身元は「J」が用意した別物だ。

バックグラウンドチェックしても何も出ない。

俺達は飯も食えるし寝床も提供されている。

全員に会社のカードが支給されているので身の回りのモノはそれで済ましている。

それより俺達の望みはこれから大事なミッションを成功させる事だった。

その為に鍛えに鍛えるのだ。

ロンドンの初ミッションで思い知った。

夜になり、キャンプの宿舎でベッドに横になり、天井を見ながら是迄の事を振り返っていた。

アーミーブーツにカーゴパンツにグリーンのTシャツ姿だ。

この宿舎は将校用を借り上げていた。

開けた窓から心地良い風が入る。

5人一組の部屋。

俺以外は、食堂で珈琲でも飲んでいるんだろう。

考え事をするには一人がいい。

ふいに

「こんばんわ、博士はお元気ですか?」

後頭部に組んだ両手の肘に冷たい感覚。

びっくひした。

エースが笑いながらミネラルウォーターのボトルを押し付けたのだ。

「Hey、エース」

座り直し、笑顔でボトルを受け取り一気に飲んだ。

彼はこのキャンプの指揮官でもあり俺達セキュリティ会社の責任者でもある。

エラそうな感じは無い。

最初イギリス系アメリカ人かと勘違いした。

身長は、6フィートくらいで俺と同じか。

英語が母国語ではないようだ。

会話には困らないがニュアンスがお互いにトンチンカンだった。

エレメンタリースクールで教えるようなバカ丁寧な話し方になっているのに気付いていない。

感情と言葉がまるで一致しなくて最初、戸惑ったが本人は気付いてないし、何より愛嬌があってちょっと可笑しい。

現役の軍人の中でも訓練ではトップだし怪物のような体力と超人的な格闘技の技術を持っている。

現場での判断にも迷いがなかった。

そんな俺達の完璧なリーダーが、英語が苦手でバカ丁寧な喋りをするのがちょっと抜けていて和んで皆に好かれていた。

現場では驚くほど怖いけどな。

俺は鼻をこすって笑った。

エースは俺のベッドに腰を掛けた。自分の分のペットボトルを飲む。

俺も起き上がり立ち上がった。

扉が開いている窓枠に腰を寄せてペットボトルを飲み干す。

対峙する格好になった。

「ここは随分暑いですね。貴方達は慣れましたか?」

たぶんキャンプの訓練の事を言ってるのだろう。

「誰かさんにしごかれてるからな」

びっくりしたような顔をして周りを見渡すので、エースの顔を指して笑ってやった。

「でも、あのロンドンのミッションがあっからこそ俺達のやるべき準備が分かったんだ。

感謝しているよ」

エースはペットボトルを持ち上げ笑う。

「大変申し訳無い。まさかあんな事態に陥るとは思ってみませんでした。サワリだけを体験して頂く予定でした。
大事になり驚かせてしまいましたね」

俺は首を降って答えた。

言葉遣いに和む。

「いや、俺達、みんな本当に感謝しているんだ。戦う相手の正体がハッキリしたんだから…」

「あ…エース!あのハンチングの件は絶対に忘れないからな」

空になったペットボトルをふざけてエースに投げつけた。

エースは、手の甲で軽く叩いて空中に飛ばし、降り際にスパッと掴んだ。

俺は思わず口笛を吹いた。

エースは子供のような無邪気な笑顔を向けた。

窓から気持ち良い風が部屋に流れてきた。

【201☓年5月ロンドン動物園】

集合場所はリージェンツ・パークの一角にある動物園だ。

俺達は時間差でソーホーのアジトから出発し、別々の入口からパークに入っていた。

チーム全員がSmart Glassを掛けるのだが、Ray-Banのサングラスタイプやメガネの形がそれぞれ違ったりしていた。

メガネからの映像情報は「Q」のパソコンに一括される。

「Q」が情報を精査しエースや俺達に指示を出してくれる。

全員が情報を共有している。

今回のミッションは動物園にいる情報提供者の保護だった。

ヘルプしてくれる別働隊も待機しているようだ。

対象者を指定の場所まで送り届けるのが今回の役目だ。

敵側の人間らしく、簡単に言うと逃げてきた。

アイツ等が始末すべく付け狙われてる筈だった。

警戒は怠らない。

そして俺達は別方向でそれぞれ歩き、メガネを通して公園の周りや人を撮影した情報を「Q」に送った。

「Q」は集めた情報を精査し指示を送るのだ。

だから俺達は地元民や観光客の衣装に着替えさせられたのだ。

事前のブリーフィングでエースは細かい事は俺達には言わなかった。

俺達が過去にやっていスパイハッカーとしての能力を確認したいのだろう。

簡単そうなミッションこそ難しいと分かるのでみんな緊張していたのだ。

動物園に向かっていると、2分後にニールと出会うのがメガネのモニターに出た。

ニールはあの事件から笑顔が消えている。

落ち込んでいる様子では無いが、従姉妹の事もあり背負っているモノのプレッシャーを日々感じているのだろう…。

レンガの低い壁が並ぶ三叉路に出た。

両サイドは緑に囲まれていてた。

観光客は殆ど歩いてなかった。

空はまた曇天だ。

ニールが近付いてきた。

白色をベースにしたブリティシュカジュアル風で様になる。

さすが元チームの広告塔だな。

と、

ニールが俺を見て突然、両膝を路面に付いて下を向き震えだしていた。

「ヘイ!ニール!どうした?」

下を向いてこちらを見ないニールに声掛けした。

体調不良か?心配になり駆け出して近寄った。

ニールは…笑っていた?

腹を抱えて笑っていた。
 
遠くにいる観光客のグループも俺達を見て何故か微笑ましく笑っている。

何が何だか分からないがニールが笑っているのは本当に久しぶりに見た。

胸が熱くなった。

「くるな!インディ!」

俺を見て涙を流して大笑いしていた。

来るな?

俺は苦笑いしながら困惑した。

膝をつきながら、ニールが笑いながらスマホで俺を撮った。

「?」

するとメガネのモニターに俺の全身画像が全員に共有されていた。

あれ?何だこれは?

ブリティシュカジュアルの格好した俺。

黒色の革ジャケットにキャメル色のパンツと全く問題はない。

が、ハンチングがいつの間にか子供用の「白色」の変なハットに変わっていた。

まるでピエロのような格好をした俺がモニターに居た。

【何だ?その格好hahahahaha】

【ちょwww おまwwww】

【ミッション壊す気満々hahahahaha】

【インディがhahahahホワイトhahaha】

【ホワイトがハットhahahahaha】

今回のミッションメンバーである旧エブリィ・ワンのデビィヴィド、ランディ、アランがニールの投稿した俺の姿を見て笑い出したのだ。

メガネのモニターがhahahahaだらけだ。

観光客がやたら俺を笑顔で見ていた意味も分かった。

顔が真っ赤になる。

ハットをむしり取る。

ソーホーのアジトの出口でエースが俺のハンチングの被り方を訂正したのだ。

「あの時かすり替えたのかよ…」

怒るよりもニールが笑顔になったのが物凄くうれしかった。

指のSmartリングを操作して俺もコメントを返す。

【俺がインディ・ホワイト・ハットだ】

ドッと受けた。

モニターが祭りになった。

エースがすまんと謝った。

エースの狙い通り皆の緊張感が無くなったが…ミッションは大丈夫だろうか。

心配になった。

「Q」の反応が無い…

よかった…「Q」は冷静だった。

変な反応はしなかった。

当たり前か、ミッション中だから怒っているかもしれなかった。

【貴方達のチーム名は「ホワイトハット」と決まりました。これはQアノン組織からの決定なので異論は認めません】

何でもこい。

ちくしょー。

後日、「J」の秘密軍隊の名称が本当に

【ホワイトハット】

に決定してしまった。

動物園の薄暗い地下室。

凄い衝撃で吹っ飛ばされた。

暴風に巻き込まれたようだ。

油断した。

地面に投げ出された。

土の湿ったような重い匂いが鼻から入ってきた。

血は出ていない。

ゴーグルは吹っ飛んで無くなっていた。

棍棒か何かで殴られたようだ。

手をクロスにして衝撃から保護し、背中を丸めて転がりながら受け身を取れた。

「さがれ!」

「外に走れー!」

エースが怒鳴りながら指示をだす。

俺は転がりながら方向を転換して出口に走り出した。

ニールがいつの間にかドアを開けて待っていた。

ドアに向かって駆け抜けた。

事前の指示通り躊躇無く動いた。

湿った匂いのする暗がりの地下坑道を走り抜ける。

壁は古く歴史ありそうなレンガ貼り。

幅が狭い割には高さがある坑道だ。

明かりは俺達が転々と置いてきた小型ライトが足元を照らしてくれた。

200メートルくらい走り抜ける。

その間に研究室のような古びたドアが左右にいくつもあった。

行き止りのちょっとした広場にでた。

上から明かりが差していた。

1階のマンホールに抜けるハシゴに手をかけて登る。

このハシゴは俺達が用意した物だ。

アルミのヒンヤリしたハシゴを素早く登る。

一気に光に包まれた。

動物園の研究施設の一室に出られた。

ランディが俺の手を引っ張ってくれた。

それまでの重い嫌な匂いが一変して日常の馴染みある匂いに戻った。

「アイツは一体何なんだ」

俺をふっ飛ばしたヤツ。

人の力では無い。

それよりエースは大丈夫か?

肘で鼻をこすった。

マンホールから出て四つん這いの状態。

「インディ、さがって」

ニールが俺の腕を引っ張った。

マンホールを塞いでいた俺を誘導する。

別働隊がいつの間にか部屋に待機していた。

シルバー色を基調としたごっついボディアーマーと見たことの無い銃器を装備していた。

ヘルメットのデザインも変わっている。

きっと「J」が大きく関わっているオーバーテクノロジーだろう。

これならあの暴風のようなヤツも制圧出来るかも知れない。

5人組の別働隊が俺達の代わりに潜入した。

マンホールから一人ずつ素早く驚くほどスムーズに降下した。

最後の一人が俺にサムズアップをして降りた。

素早い連動した無駄の無い動きに感心していた。

今の俺達では装備も体力的にも経験も足りない。

「俺達も続くぞ」

ランディが叫ぶ。

ゴーグルモニターからの「Q」のGOサインだ。

保護対象者とエースがまだ中に残されていた。

■■■■動物園潜入前時 

まだ涙笑いの残るニールを引き連れ2人で目的のロンドン動物園に着いた。

動物園の従業員用駐車場に「Qアノン」の古い大型バスが停めてある。

さすがロンドン。

例の2階建てバスのお古を使っている。

深緑を貴重にした外観でセンスがいい。

バスのデッキに手をやり周りを見渡す。

動物園の裏側なので木々が多く、曇り空がより暗く感じた。

俺の乗車を待つニールが後ろでニヤつく。

ヤツの頭には白色のハットを被せてある。

しかし、イケメンは何でも似合うから腹が立つ。

緊張感もすっかり抜けてリラックスした俺達は古いバスに乗り込んだ。

エースが2階へと誘導する。

1階のバスの中は外見通り古い座席達がある。

しかし真ん中から半分は違うスペースに改造してあるようだ。

鉄製のしっかりしたドアがあり、中は広いスペースがあるようだった。

トントンと軽い足取りで2階に上がる。

空気が違う。

内装もアルミ製か?近代的な作りで上下からLEDで明るく照らされ秘密のパソコンルームの様だった。

ちょっとワクワクしたがバレないように平静を装う。

エースはパソコンエリアを通り過ぎ、奥にあるドアを開けた。

ランディ、ディビッド、アランが先に来てチェアーの無い銀製のテーブルを囲んでいた。

一斉にこちらを見た。

ハイタッチ。

「Hey!White hat!」

バスの中でチームの「ホワイトハット」の歓迎セレブレーションでニールの笑顔が弾けて嬉しかった。

しかしエースの指示で空気が変わった。

俺達はバスの中でまた着替える。

くすんだ青色の古い作業着。

今日は動物園の休館日だ。

それを利用して清掃員として動物園に潜入する。

薄いボディバッグにスマホをいれ肌身につけた。

メガネやサングラスの代わりに作業用ゴーグルを掛ける。

先程のメガネと違い、少し簡易的なタイプだった。

俺達は黙々と着替える。

エースが簡単にブリーフィングをする。

保護対象者はロンドン動物園の研究施設の中にある一室に隠れている。

ここの動物園の秘密は全員既に知らせれている。

1800年代初頭に科学施設として誕生したと言うが本当はもっと古い。

悪魔のような施設だった。

研究施設とは名ばかりの実験施設。

動物園の中にあるのでは無く、実験施設の上にロンドン動物園を造ってカモフラージュしているのだった。

四六時中に変な声を上げても誰も疑問に思わないからだ。

気分が悪くなる。

ロンドンはそんな変態野郎達の巣窟だった。

現在はもう使われなくなったので保護対象者が隠れて避難しているようだ。

着替え終わって、俺達はそれらしい道具を抱えてバスを降りた。

動物園の裏口。

空はまだ曇天だった。動物園特有の匂いは少なかった。

エースを先頭に6人で従業員通用門を通る。

それぞれ、手にはバケツや清掃道具等を持っていた。

従業員用とは思えない綺麗な施設だった。

空はまだ曇天だ。

匂いも重い。

施設の入口の、ゲートにジャンプスーツを着た従業員が1人立ってこちらを見ている。

入館のチェックだ。

思ったより年老いた従業員だった。

緊張感もなく、つまらなそうな顔をして先頭のエースにノートに記入を促していた。

エースが記入し簡単な受け答えを愛想よくこなしていた。

俺達に手招きする。

俺達はワザとだらだらと歩いて会釈だけして施設に入る。

相変わらず従業員はつまらなそうな顔をしていた。

動物園の従業員用の通路を歩く。

裏側も想像したより清潔そうでとても綺麗だった。

誰も喋らない。足音と何か動物や鳥の声が俺達を包んでいる。

俺達はモニターで会話しているからだ。

おかしいのは皆、Smartリングを使う際に人差し指を指揮者のようにくるくる回すので改めて見ると滑稽だ。

良い歳をした大人達が、隊列を組んで無言で指だけをくるくる回している。

可笑しくて鼻をこする。

前を歩くランディが振り返り眼の前で指をくるくるして茶化す。

皆、同じ事を思っていたようだ。

エースは歩きながら通路や曲がり角に市販品のジュース缶を置いていく。

これは通信アンテナだ。

原理はビックリする程簡単だ。水と塩が入れてあるだけだ。

これで地下でも何処でも電波を送られるのだ。

市販品の缶にしてあるのは、不測の事態や拾われても不審に思われないからだ。

中身もただの塩水だから。

「Q」は俺達がゴーグルから送る映像を情報にし指示を出しているので迷いがない。

どんどんと古い通路に入った。古い建物塔に入ったようだ。

匂いが一気に重くなる。

そうして俺達は、何の変哲もない真っ暗な古い用具室に入った。

思ったより室内は大きかったが何もなく空っぽだ。

用具室とは名ばかりで使われてないのか埃っぽい室内と湿った匂いに変わった。

天井は驚くほど高く灯りはない。

持参した自動折り畳み式のLEDを床に放り投げた。

あんなに小型なのに光量の調整も凄いし1週間くらいは電力が持つなんて。

何より此方からのリモートで光量やオンオフが出来る。

凄い技術だった。

部屋が明るく照らし出された。

俺達は持参した用具を床に置いて其々持ち物を用意し始めた。

黙々と行動する我が仲間達の洗礼した動きにニヤつき鼻をこすった。

ちょっと誇らしかった。

バスケのチームメイトでもあるから息はぴったりだ。

モニターの「Q」からの指示通り、床のねずみ色の汚い大きなマットを3人掛かりで移動させ、隠れていた古い錆色の四角のマンホールを露わにさせる。

ホコリが舞った。

長い間使われてないようで開けるのに苦労した。

アランとエースがマンホールを移動させる間にランディとニールがアルミ製の伸縮ハシゴを穴から地下に延ばす。

高さは3メートルくらいか?

ディビッドが例のLEDを放り投げた。

床穴から明るい光が灯る。

エースがいつの間にか地下に降りて状況確認しGOサインをモニターに投げた。

続いてニールと俺が入る。

アランは用具をもって古い建物棟の入口に。

ランディとディビッドは用具室で待機していた。

地下の坑道は、全面茶色のレンガ貼りであった。

幅は2メートルくらいあり、天井はやはり高く違和感があった。

壁のレンガを触ってみたが粉落ちが無く、劣化が少ないのに驚いた。

湿気があるはずなのにレンガな端々にカビた様子もない。

土の湿った匂いがキツくなり、少し頭が痛くなる…気圧のせいか?

エースはアンテナ缶とLEDを配置しながら先頭を歩く。

坑道全体の下側が薄明るくなる。

モニターは周波数を変えて暗視用になるのに使うことは禁止されていた。

少し歩くと左右にドアがある。

使われていない感じが見て取れた。

古く錆びた頑丈そうな金属製だ。

覗き窓があるので此処が実験室と言うのを理解した。

胸クソが悪い。

それらを通り抜け「Q」からモニターからの指示通り保護対象者が隠れている1室の前に来た。

「Wait」

と、共にモニターに部屋の間取り図がオレンジ色のラインで映し出された。

2部屋で構成されていて入口の部屋は大きく広そうだ。

奥にある小さな部屋に保護対象者を点滅ランプで知らせていた。

エースは扉の前で屈んだ。

一瞬大きな光と焼ける匂いがした。

鍵を開けたのだ。

頑丈そうな鉄製のドアの鍵穴が綺麗な丸い穴で簡単にくり抜かれていた。

俺はどんな技術なのかは考えるのは辞めていた。

エースとニールが先頭で入り素早く奥の小部屋のドアまでたどり着いた。

この部屋はLEDを配置せず暗いままだった。

俺は部屋のドアの横で見張り待機だ。

ドアは閉めてある。

ドア横で壁に背中を付けて部屋を見渡している。

また頭痛が襲ってきた。鼻の奥がきな臭くなり視界もぼやけてた。

武器になるものは持たされていない。

せいぜい、モップの柄が軽量で硬い高価なステンレス製が唯一の武器になりそうだ。

モップを外しステンレスの柄を両手で持っていると、鍵を壊すのか?部屋の奥から一瞬光った。

その瞬間に背筋が冰った。

目線が部屋の奥に集中した。

何もなかった壁際。

何故かだか分からないが、モップ柄を握り直す。

暗がりの部屋の壁際に物凄い圧力が発生した。

何かいる。

暗さがより真っ暗になるような圧力を感じる。

暗く、ひんやりした部屋なのに壁際から暴風のように熱が広がる。

暗がりで闇しか見えないが大きな影の塊がそこにいた。

何もなかった筈なのに暴力的な暴風を纏った何かがハッキリとそこに存在している。

手の甲で鼻をこする。

構えたまま動けない。冷や汗が止まらない。

「Q」の指示はない。

確認できないのか?

その時

奥の部屋から明るさが指した。

扉を開けてエースとニールが保護対象者を連れ出てきたのだ。

刹那

その大きな闇の暴風の塊が意思を持ちハッキリとした殺意をそちらに向けた。

ゆるりと動いた。

エース達は気づいていない。

咄嗟に身体が動いた。

俺は全身の体重を乗せてステンレスのモップ柄を暴風の塊に向けて飛び込んだ。

【エピローグ】

「日本植民化計画書」

俺達エブリィ・ワンの会合で使っていたネズミ部屋で、いきなり「Q」が提出した秘密文章。

とても古そうな資料だった。

1800年代に発動したミッションである。

遡る事、1600年代にイギリスの偵察隊が植民地としてアジアに侵出していた。

ロンドンはアイツ等の本拠地である。

アメリカの支配も世界の支配もヨーロッパに巣食うアイツ等が仕組んだ。

そして戦争を利用して世界中にアイツ等が侵入したんだ。

「Q」が提出する資料はいつも俺達を驚かさせられた。

この世の全ての常識とされる物事。

歴史から科学技術まで…全ては「改竄」されたニセモノの歴史でニセモノの常識であった。

俺達が住んでいる地球環境の常識は全て嘘で誤魔化してあった。

唯一、アイツ等を打ち負かした国がJapanだった。

江戸時代と呼ばれたある年に、日本に戦争を仕掛けたのだ。

周波数を利用したレーザー等近代を越える武器を用いたアイツ等に勝てる国はなかった。

だが加護のある国Japan。

資源豊かな日本は、それらを凌駕する武器と日本人の精神性を全面に出し果敢に戦ってアイツ等を追い出した。

それは封印された隠された歴史だ。

「第0次世界大戦」

とアイツ等に呼ばれた戦いに勝利したのは日本だったのだ。

敗北したアイツ等は、水面下で「日本植民化計画」を発動したのだ。

俺達「Qアノン」のホワイトハットチームの次のミッションは日本だった。

■■■■■NEXT

EPISODE2第4話
https://note.com/bright_quince204/n/n4896d26ed9aa

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