マンデラ小説「M.e」 第4話 「スライド」
朝の目覚めはよかった。
身体の快調さと裏腹に、頭の記憶がモヤがかかったようにスッキリしない。
記憶に違和感があり何かが可笑しい。
違った自分が2人いるような変な気分だ。
考えても仕方ない。
5時に起きてルーチンの腹筋腕立てのワークをこなす。
歳だからか素早くこなせなくもどかしい。
ウェアを着替えてランニングがてらコンビニで買い出しをした。
スパーリングウォーターは苦手だ。
叔父の海外バイトで必ず頼むのだが意味があった。
毒見みたいな物で炭酸が飛んでいたら飲まないし、発泡してたら安全だから飲んでいい、とか。伯父に習って飲んでいた。
これが国によって不味い。
いや、旨いものが無い。
嫌なイメージしかないから日本でも炭酸水は苦手だ。
わざわざ飲む意味がわからない。
こちらでは安心して飲めるミネラルウォーターの方が好きだ。
叔父の冷蔵庫には炭酸水ばかりなので買い出してきたのだ。
朝飯は適当にオニギリを買ってきた。
料理は出来るが、面倒で苦手だ。
洗濯も適当で今日の着替えも丸めて掘り投げてある。
叔父の家の奥から、昔に預けてあった自分のダンボールを取り出し着替えた。
今日やる事のシュミレーションは考えてある。
トシカズの安否とバッグの行方と能面警察官。
予感はある。
油断は絶対にしない。
これは叔父に叩き込まれた術だ。
インナーにバイク用のプロテクターを装着し愛用のMA-1フライトジャケットを羽織る。
レプリカではなく本物だ。
叔父の伝で米軍モノを新品から使っている。
パンツも米軍のカーゴパンツ。繊維が特殊で丈夫なヤツだ。
街中でも履けるようカーゴパンツと分からぬように少し絞り込んでありバタつかないように仕立ててある。
ジーンズはあまり履かない、ちょっとした衝撃で裂けてたり簡単に燃えるから使いのにならない。
貴重品は何時もの様にコンパクトに整理し、肌身に付ける。
米国で買った拳銃ケースのホルスターはこういう使い方が出来るので助かる。
勿論加工はしてある。
壊れたスマホからCIMを取り出し古いスマホに差し替えた。
身支度を整えて何時ものコンバットブーツを履く。
街中ではカーゴパンツを外側に出して厳つさを少しでもマシにする。
靴底はビブラム社製の特注に張り替えてある。
車のアクセルも繊細に出来るのが自慢だ。
見た目より柔らかくて履きやすい。
年代物だが死線を潜り抜けた相棒でもある。
叔父のレイバンのサングラスをチョイスし鏡でチェックし、笑う。
叔父も俺も顔立ちが濃く、堀が深く大柄だからかレイバンをかけると海外では英語で話しかけられたものだ。
家の鍵をロックしそのまま駅前までランニング。
今日の予定を復習する。
頭がハッキリしてきた。
しかし、なにか大事な事を忘れている気もするし…クリアで様々な忘れていた記憶も蘇る、と言う不思議な感じ。
30分走って駅前のレンタカー屋に着いた。
FRのセダンを借りる。
日本車の殆どが軽量のFF車が支流だ。
これだとフロントがやられれば走らなくなる。
海外で乗る車は絶対に4WDだったし、欧州のFRも何度かぶつけても走るので優秀だった。
乗車し被っていたキャップだけを助手席に乗せて走り出す。
レンタカーを、借りるのは昨日の事もあり叔父の車を使うのに躊躇ったからだ。
これから従兄弟のトシカズのマンションに向かう。
ヤツが留守でもメモを残せば自分で実家に連絡するだろうし、居れば昨日の事も聞き出せるだろう。
エアコンがまだ聴かぬ車内でステアリングを擦りながら軽い渋滞の甲州街道20号線をノロノロ走らせる。
昨日、世話になった「能面」と名付けた警察官の居た交番。
その横にパーキングを見つけてあったので車を停めキャップを被って歩き出す。
「昨日はお世話になりました」
交番を通りすがる際に警察官が立っていたのでレイバンをはずし挨拶をしてみせた。
「道案内してもらったので…ちょっと強面な方に…」
警察官は怪訝な顔をしながら
「そうですか。失礼しました。」
毅然と返される。
警察官を誂う輩と間違われたような対応だ。
すいません、と語気を下げ早々に退散する。
「失礼しました」と挨拶しながら交番内の警察官を素早くチェックする。
昨日の能面は居なかった。
あの無表情の感じ…昨日から違和感があったのはマスタングの頭のおかしい奴らによく似ていたからだ。
足早に歩く。
昨日に比べて刺すように寒い。
前日に、能面に案内され通った道筋を周りを確認しながら歩きマンション前に着いた。
着いたが、トシカズが住んでいたマンションが無い。
マンションが無い訳では無く、昨日の白く綺麗なマンションではなく、赤茶色の古いマンションになっている。
マンションの形も変わっていた。
冷や汗がどっとでた。
これは予想外だ。
確認するまでも無く直感でトシカズはココには居ない。
昨日のおかしな出来事が脳裏をよぎる。
そして過去の様々なトラブルが頭の中で交差する。
様々な記憶に自分自身に困惑した。
足早にきた道を戻り交番に入り
「すみません、昨日の警察官の方はいらっしゃいますか?」
真剣な顔つきに、先程の警察官は顔色を変え交番に招き入れてくれた。
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