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大切な事を教えてくれた「天人唐草」

山岸凉子先生の「天人唐草」を読んだ。
ヒロインの岡村響子がいきなりクライマックス満載で登場するため、トラウマ漫画と呼ばれているが、読んでみての感想は「もっとはやく読めばよかった」。それくらい大切なことを教えてくれた漫画だった。
なぜか沢田さんのほくろを思い出す。
道徳の教科書にいれたいくらい名作。

響子…

戦犯クソ父に反発できていたら、いや、反発できずとも「父さんは古いわ!でも言い返してお小言言われるのも嫌だし黙っとこうっと」と思えるくらいだったらよかった。
しかし悲しいことに、響子は父親の言うことは心から絶対だと思い、「自分の意見」を思うことすらできなかった。
それどころか響子の行動原理は「父親に褒められたい」「上司や男性に褒められたい」だった。

幼い響子に、自分の考えを押し付け、怒鳴り付け、支配する父。
何も助けてくれない母。
全部皆のせいだった?響子には何も救いがなかったのだろうか?
実はそうではなかった。
響子には、変わるチャンスは確かにあったのだ。

響子は、自分で考えることを一度もしなかった。

響子は自分に似ているので、あえて厳しめに言おう。
高校時代に男子との教科書の貸し借り失敗してからはもう教科書の貸し借りしない!となるのわかるよ響子!
教科書わすれたの?どうぞ(にっこり)とイメージしながらもできなかったから自己嫌悪に陥るのめちゃくちゃわかるよ!
でもそれは「理想の自分を演じられなかったから嫌になり逃げる」だけなんだよ!
他人は「素敵で完璧な響子」なんて求めてないよ!
求めてるのは戦犯クソ親父と、響子自身なんだよ!

そして社会人になった響子。
そこで変わるチャンスは確かにあった。
一人目は派手なメイクとイケメンチェックに余念のない青柳さん。アベレージヒッターだが選球眼は微妙と見た(新井さん酒乱そう)。

「誰か私たちのお茶いれてくれない?」と令和になら炎上しそうな上司の頼みに頑張ってお茶入れる響子。
頑張ってお茶を入れた響子に、上司が「君のお茶ぬるいんだよねf(^_^;」と苦笑い。

沈めるぞハゲ。

しかしここで青柳さんの見事な流し打ち。
「ぬるいなんてぜいたくよねぇ」
「やだーそんなこと適当でいいのよー」

自由にフォローしてくれてる!
しかし響子は、ハゲ上司の言葉だけ聞いて深く傷つき、青柳さんの話はまともに聞いてない。
何故なら、青柳さんは父親が否定するような自由で派手な女性だから。

響子よ、サボり癖はあるが一番マトモだぞ青柳さん。

まさに「聞きたいことだけ聞く」状態の響子。

そして、面倒くさいとかやりづらいとか疲れるとかさけられる響子(響子の扱いひどすぎない?)に真正面から向き合ってくれた佐藤さん。

「うまくやれないってことがなんでそんなに大変なんだい?」


普通の少女漫画だったら佐藤さんがグイグイ来たはず…

「なんでもうまくやれるすばらしい女だ!とあんたいわれたいんだよね 誰かに…」

「だれかにそう見てもらいたい それが みえ なんだよ」
「他人の目を…他人の評価を気にしすぎるんだよ」

めちゃくちゃいいこといいましたよ佐藤さん。

響子は一見「人のいうことを聞かなきゃ」「人に迷惑かけないようにしなきゃ」「頑張らなきゃ」
と、他人のことばかり考えて生きているように見えた。
でも実はそうではなく、父親に支配され続けた結果「褒められたい」「すばらしいと言われたい」という独りよがりな考え方になってしまったのだ。
クラスメイトの男子や新井さんと会話が噛み合わないのも、そのためだった。
相手の話を聞かず、自分が何を言うかばかり考えていた。

響子に必要だったのは、正解不正解ではなく、「自分で考えて、自分の価値観で判断すること」だと思う。

響子は頑張っていた。沢山我慢して、沢山苦しんで、沢山努力した。
ただ、努力の方向性が間違っていただけだった。
それを佐藤さんは教えてくれたように思う。

響子には本当に、幸せになってほしかったな、と思いました。


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