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3つのお題で小説を書く

 こんにちは。今日はイベントで無配した短編を公開します。よろしくお願いします!

 その鳥居は、通学路の外れにひっそりと立っていた。少し奥まで歩かなければ見つからないので、大抵の者はその存在を知らなかった。
 ある日、道端の猫を追いかけて迷い込み、路地の奥に隠れるように立っている古ぼけた鳥居を見つけた。その隣は、毛むくじゃらの妖精が潜(ひそ)んでいそうな、小さな森みたいになっていた。
 誘われるように入っていくと、コテージのような小さな家がある。こっそりと近づいて窓から覗(のぞ)き込んだ。そこには小人のようなおじいさんとさっきの猫がいた。彼らの様子をじっと見ていたら、ふと彼が顔を上げる。私はさっと隠れたけれどバレバレだった。

「この辺の子かい」
 彼がドアを開けて聞く。私はもじもじしていたが、中へ入るか聞かれ、好奇心にかられてコクリとうなずいた。
 中には、見たこともない装飾品やステンドグラスのランプ、鹿の頭や何かの動物の剥製(はくせい)、額縁で飾られた帆船(はんせん)の絵などいろんなものが置いてあった。置き時計はアナログで骨董品(こっとうひん)のようだ。ローマ数字で文字盤が書かれ、文字盤の上と下に天使のようなものが座って互いに見つめ合っている。
 暖炉(だんろ)もあって、実際に使えるのかどうか分からなかったが、そんな物は初めて見たのでとても驚いた。私は一つ一つに近寄って、その輝きや重さを確かめる。

「ここは大通りから離れているからほとんど人が来なくてね」
 おじいさんがニコニコしながら私を見ていた。
「お客さんは三十年ぶりだよ」
 そう言うと、美しい花が描かれているティーカップでお茶を出してくれる。端と取っ手は金色に縁取られ、中の液体はルビーのような色でキラキラと輝いていた。

 私は時々そこへ行って猫と遊んだり、おじいさんに学校で起こった事や友達について話したりした。彼が途中でいなくなる時もあったが
「好きなだけいていいよ」
と言われ、一人で置物をずっと眺めたり、帆船の絵を見ながら、あれが動き出して冒険へ旅立つことができたらなどと夢想した。

 私は大きくなるにつれ、その家へ行かなくなった。路地にも寄り付かなくなったので、彼らがその後どうなったかも知らない。
 けれど、あの家は今でも心の中にあって、疲れたりぼんやりしている時に思いを馳せる。そして、一つ一つの調度品の煌(きら)めきや質感を思い浮かべるのだった。
                    了

 三つのお題で小説を書く
 『鳥居、装飾品、時計』


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『もしも僕がリンゴの木を植えなくても』

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