幕元

30歳。港区で働いています。あったこと、ないこと書き連ねています。

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【短編小説】今日、この街のバーカウンターで #恵比寿

 ふと、思いつかなくても良いタイミング、たとえば食事中、単調な作業中、出なくても良い会議出ている時、あの人は、と想い出すことがある。学生時代の友人、バイト仲間、会社の同僚、仲がよかった取引先、付き合っていた女性。そう想ったら思わぬ形でその人から連絡がきたり、その人の近況を知れたりする。会いたいと思う時には連絡はないのに、熱が収まった頃に連絡がくる。つくづくタイミングが悪いと、大野尚哉は思う。  尚哉は待ち合わせの15分前に家を出た。新茶屋坂通り沿いを恵比寿駅方面に向かって歩

    • note1ヶ月やってみて【カテゴリトップ3作品】【公式マガジン追加4作品】

      いつも作品をご覧いただきありがとうございます。幕元と申します。 作品を投稿し始めて1ヶ月以上経ちましたが、多くの方に見て、反応いただきありがとうございます。励みになっております。 #広尾を投稿してから1ヶ月で1911PV、スキを199件もいただくことができました。反応いただきありがとうございます。 カテゴリトップは3作品 #横浜中華街#表参道#広尾でいただくことができました。 公式マガジン追加は#新宿#渋谷#有楽町#恵比寿を選んでいただくことができました。 このよう

      • タワマン文学#12赤坂見附

        「私、やっぱりワーカーホリックなんだなって思った」 桜子は自分が無意識に言ったのだと思って、口を押さえた。目の前には右手でピルスナーグラスの縁を弄っている椿子が頰杖をついている。椿子から返答はない。 「え、聞こえなかった?」椿子はグラスを傾けた。 桜子があ、ごめんねと伝えると、小さく咳払いをして、 「私さ、やっぱりワーカーホリックなんだなって思ったんだよね、最近」 椿子が言った。桜子は同意をする前に、やはり姉妹だと、スープを飲んでいるようにじんわりと暖かさが広がった。

        • 【ショートショート】僕の頭の中の店#横浜中華街

           僕にはもう一度食べたい、訪問したいと思う店が1つある。  その店は横浜中華街にあって、大通りにある派手な、異国情緒あふれる店構えはしておらず、むしろ店と店の間の細い、他の店の電灯に照らされている細い路地に入って、一見、築年数が経った民家のような出立ちで小さく看板が出ている店だった、ような気がする。  気がする、というのは、その店に行ったのは経験か、想像か、妄想か、聞き耳か判断できないからだ。菜緒が連れていってくれたその店は、住所も分からず、店名も分からない。ここまでくると

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        【短編小説】今日、この街のバーカウンターで #恵比寿

          タワマン文学#11青山

           煙草を吸い始めたのはいつからだっただろうか。6Fのこの部屋のベランダから青く光るスカイツリーは小指の先っぽくらいの大きさで見える。最後の一吸い、切れかけた蛍光灯のような音。くしゃくしゃのアルミホイルに短くなった煙草をおしつけた。  7月になったばかりなのにひどく暑い。6月は梅雨、7月から徐々に暑くなってきて、8月上旬がピーク、それ以降は残暑で徐々に下がって行くという幼少期の記憶とは異なる天候になっている。週末は貴史の結婚式だ。この気温でスーツを着なくてはならないのは気が重

          タワマン文学#11青山

          ほろ酔いの夜

           僕には好きな夜がある。ほろ酔いでの帰り道だ。特に終電逃してタクシーに乗って帰宅する時なんて、煌めく東京を見ながら思春期に憧れた東京にいるんだと、悦に入る。  会社の同僚と仕事の愚痴、将来の不安、夢を語ったのち、同僚の可愛い子は誰か、や最近出会った女は、と低俗と高尚な話を繰り返して、いや、ずっと低俗な談義を続ける。  行きつけのバーで10年来のマスター、常連さんと、新しく入ったウイスキーの話、最近行ったバーの情報共有、映画、文学、漫画の話で時々常連さんが、いや常連さんの熱

          ほろ酔いの夜

          #ほろ酔い文学の中で

          いつも作品をご覧いただきありがとうございます。 幕元と申します。 投稿を開始して約2週間ですが、多くの方にご覧になっていただき、 反応をいただけていること、励みになります。 私の書きごとのテイストをカテゴリ分けすると#ほろ酔い文学が適切かと思いながら書いているのですが、#数5,000を超える中で #ほろ酔い文学congratulations 2作品:広尾、表参道 #ほろ酔い文学公式マガジン追加 2作品:有楽町、渋谷 をいただくことができました。 ご覧になって頂いている

          #ほろ酔い文学の中で

          タワマン文学#10 新宿

           笹川綾はバーが得意ではなかった。  まだ数えるほどしか行っていないが、ハイチェアは疲れるし、カウンター席で横並びで目を見て話をしない男は気障だし、カクテルにせよなんにせよ名前が多すぎる。おすすめは、と聞いても、メニューは置いてないので、気分やテイストを仰っていただければ、といった質問に質問返しする場所。でも一番苦手なのはジャズが流れる静かな雰囲気。 「バーでの会話は心の内側の話。だから話す時は秘密を話すように、小声で話すのがマナー、いや暗黙の了承ってやつかな」うっすらと顔

          タワマン文学#10 新宿

          タワマン文学#9 表参道

          「年下のどこがいいの?」  暑さもだいぶ柔いだ季節の土曜日、聡美は桜子と表参道のCICADAのテラス席にいた。会うのは2ヶ月ぶりなので、夕方からそれぞれの予定まで近況報告をしようという話になり、桜子の通っていた大学の近くで「作戦会議」をすることになった。作戦会議のメンバーも減っていた。2人は総合商社の新卒同期だった。3年前まではここに怜と希美もいたが、2人は結婚し、子育て、家事、妻としての顔を持つようになり、なかなか会えなくなっていた。1年くらい前に怜の旦那さんが出張と聞き

          タワマン文学#9 表参道

          タワマン文学#8 新橋

          「優秀な経営者には名参謀がいることが多いんだって。隆太は経営者になってくれよ。俺が名参謀としてお前を支えるからさ」 哲弥は4杯目のハイボールを飲み干した。いや、この店でハイボールが4杯目だっただけで、さっきの店で飲んだ杯数は覚えてないが、俺たちはほろ酔いから酩酊の橋を渡ろうとしていた。  俺は経営者になりたいとは思っていなかった。ただ、上司の無能さや、建前と本音の使い分け、社内政治にうんざりしていた。  早稲田を出、大手IT企業に入った。それ以降はヨーイ、ドンで年次を重ねて

          タワマン文学#8 新橋

          タイミングを逃した自己紹介

          いつも作品をご覧いただきありがとうございます。幕元と申します。 noteを開始するときに決めた「まず1週間毎日投稿」ができました。 名前:幕元 年齢:30歳 仕事:営業→マーケ→PM 住んでいるところ:23区内 よくいるエリア:港区、渋谷区 名刺がわりの10冊(2023年夏ver) 小川洋子:人質の朗読会 ゲーテ:ファウスト サリンジャー:ナインストリーズ 伊坂幸太郎:アイネクライネナハトムジーク 小川糸:喋々喃々 金城一紀;レボリューションNO3 村上春樹:ス

          タイミングを逃した自己紹介

          タワマン文学#7 有楽町

          西片美佳はいつも予定を入れていたい。 スケジュールアプリには3週間先まで予定が入っている。会社後輩主催のお食事会、孝一さんとのイタリアンバル、陽くんとのカジュアルフレンチ、定期的なヨガ教室、有名映画の3作目、ゴルフレッスン、前職の女友達との代々木公園のピクニック。有楽町駅で降り、先週ローンチしたサービスの打ち上げ会向かいながら今週セットできた予定を眺め、満足していた。  美佳は、やっと東京で暮らしていると思った。大学生時代、ディスニーランドの通過地点、スカイツリー、テレビ

          タワマン文学#7 有楽町

          タワマン文学#6 下北沢

          「人間の細胞って7年で入れ替わるんだって」 郁美は文系に似つかわしくないことを言いながら、井の頭公園沿いのカフェでテイクアウトしたカフェラテを一口飲み、カップを夕焼けにかざした。僕はホットコーヒーを左手にもち、手持ち無沙汰な右手をポケットに突っ込んだ。陽が暗くなるほどに肌寒さを感じる季節になっている。僕らはベンチに座って目的もなく、ただ時間の流れに身を任せていた。 「どうしたの、急に」 「私、情報と生命ってクオリアとかテロメアとかアポトーシスとか、圭一が好きそうなワードがアタ

          タワマン文学#6 下北沢

          タワマン文学#5 外苑前

           私にはマイルールがある。 必ず朝ご飯は食べること。誰かに抱かれた朝は外苑前の店で朝食を味わうこと。  今日、目覚めたのは恵比寿の2LDKだった。6時10分。0時を超えて飲んでもこの時間に起きてしまう。習慣の力は恐ろしい。右側に男の存在を感じる。下半身は何も身につけていない滑稽な姿ですやすやと寝ていた。会うのは2回目だった。   昨晩はウェスティンホテルの鉄板焼きを味わいながら、男と女のテンプレートな会話をした。どんな仕事、どんなライフスタイル、最近嵌っていること、恋愛観、

          タワマン文学#5 外苑前

          タワマン文学#4 渋谷

           長野雄司は自分のことを金でしか見ていない女に辟易していた。  先週の金曜日はつきうだに行った。先々週は確か夕月に行った。一緒に行った女はLINEに表示されたena、Akariで漢字も名字も知らない。出会ったのは、長く付き合っていた彼女に浮気された恵太が気晴らしのために開くようになった西麻布の飲み会だった。どこで出会ったは分からないがCA、大手広告代理店の広報担当、秘書などルックスが非常に良い女たちだった。そこから雄司は顔がタイプで話が合いそうな子を選び、彼女たちが行きたい

          タワマン文学#4 渋谷

          タワマン文学#3 銀座

           うちの会社の異動連絡は直前すぎる、と喫煙所で隣の課長がぼやいていたのを思い出した。  今朝、上司から電話が掛かってきた。電話自体は1分もない。出ると今電話しても大丈夫かを確認された後、咳払いをし「斉藤篤殿、9月1日より福岡支社への転勤を命ずる…ということで直前だけど許してね」と辞令とお詫びをセットで伝えてきた。8月24日の事だった。  大学入学と同時に坂戸の実家を出てきて8年。大学時代に住んでいたアパートを就職のタイミングで引き払い、借上の社宅に4年住んでいる。大学時代

          タワマン文学#3 銀座