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母の笑顔とトマトのカレー


#元気をもらったあの食事

もし、自分が芸能人で「番組が総力をあげて探し出しますから!」
とスタッフさんに言われて「もう一度食べたいお店の味はなんですか?」
と聞かれたら、私は迷わず
「『どんぐり』の”トマトのカレー”です!!!」
と答えると、学生の頃から決めています。
(※芸能人になりたい願望がある訳ではなく、あくまでも『もしも』の話です。(^▽^;))

『どんぐり』とは、先天性心疾患を患っていた私と姉が子どもの頃通院していた国立小児病院という病院の地下にあった、小さな喫茶店の名前です。
その喫茶店は子ども病院の中に構えている事もあり、子どもの好きなメニューがたくさんありました。
が、私と姉は好き嫌い&食わず嫌いの多い子どもだったので、『どんぐり』で注文したメニューの種類は、ごくわずかでした。
私自身、食べた記憶のあるメニューはたった2種類です。(^▽^;)

1つはミートソーススパゲッティ。
子ども向きの、甘めのミートソースが美味しくて私は大好きでした。

そして、もう1つが・・・
この記事の冒頭に名前を出した、『トマトのカレー』です。
本当はハヤシライス、と言うべきメニューなのですが、私達親子の間では何故か『トマトのカレー』と呼んでいました。

このトマトのカレーも先に出したミートソーススパゲッティと同じく、甘くて美味しいという事も大好きな理由の1つなのですが、それよりもなによりも好きだった1番の理由としては、母からの「受け止められ体験があった」からです。

私の母は心理的虐待親でした。
どんな事をされたかと言えばきりがないので、この記事のテーマである『食事』ごとで言うと・・・
まず、母は仕事から帰って来て早々ビールを飲み、悪酔いしながら食事を作ります。(食事を作ってくれる事には感謝しています。(^-^))
そして、そこから夕食の時間に渡って仕事仲間の悪口、子どもの私が聞いても「それは間違ってる」と判断できるような母独自の教育論(母は小学校教師でした)、そして私達の友達の悪口や私達の行動への文句や束縛発言・・・。
そして真っ赤な顔をした母は愚痴という名の毒を吐きながら自身のお茶碗に色んなおかずをポイポイ入れて、それらをぐちゃぐちゃに混ぜて食べます。
そこから中盤にさしかかると、普段は「それを食べるなんか信じられない」と言っている私達のお菓子を食べ、最終的にはトイレで口に指を突っ込んでゲーゲー吐く・・・。
それに対して父は、「あいつは頭おかしい」というジェスチャーをして「気にしないの」と、この夫婦の共依存関係を崩すような真似(他言するなど)をするなよ、という念(命令)を笑顔ながらも鬼のような目で子どもに送ります。
(※共依存関係とは…お互いに依存しあっている関係性の事です。)

この食卓が毎晩です。
いくら物心のついていない幼い子どもでも、嫌になります。

そんな食卓を日々過ごす中での月1回の『どんぐり』は、私達にとって楽園でした。
甘くて美味しいご馳走を食べ、私達が「おいしい!」と言ったら
母はニコニコしながら「良かったね。(⌒∇⌒)」と言ってくれる。
その時だけは、母は私達の気持ちを受け止めてくれていました。

私達はすっかりトマトのカレー改め、ハヤシライスが大好きになりました。
好き嫌いでいつも残していた保育園の給食でも、ハヤシライスが出ると
「あなた達(私と姉は双子なので同じクラス)どうしたの!??!」
と、先生達がビックリするくらい何杯もおかわりをしました。

しかし、私達が小学5年生になった頃に東京都世田谷区太子堂にあった国立小児病院はなくなり、国立成育医療センター(現在は国立成育医療研究センター)という名で東京都世田谷区の大蔵に移転されました。
と、なると同時に『どんぐり』もなくなりました。
国立成育医療センターには広くてきれいなレストランがあり、オムハヤシという料理がメニューにあったのでさっそく最初の通院時に食べてみました。
…とっても美味しい!
そのオムハヤシもとっても美味しかったです。

だけど、心の奥では「あのトマトのカレーが食べたい」と思う自分がいました。
大人になってから、子どもの頃に食べた想い出の料理に似た味と出会う事は多々ありましたが、あの『どんぐり』のトマトのカレーと似た味だけは未だに再会出来ていません。

現在私は親元を離れ、虐待の後遺症である精神疾患と闘いながら
大きな自由と責任と、小さな幸せをかみしめながら暮らしています。
姉とは仲たがいをし、10年ほど口をきいていません。
母は、現在がんを患い闘病中です。

国立小児病院の地下の喫茶店にあった私達親子の風景は、もう2度と再現されることはないのです。

けれど、私の心には温かい表情をしてトマトのカレーを食べる姉の顔と、優しい声で話しかけてくれる母のにこやかな顔が今でも残っています。

どんなにさみしいミライ(現実)が待っていたにしても、昔国立小児病院があり、そこにどんぐりという喫茶店があり、そこのメニューにトマトのカレーがあったという事は変わらない事実で、
そこで幸せな気分で大好きなお母さんとお姉ちゃんとでトマトのカレーを楽しく食べていた想い出は、消える事はないのです。

私はその温かい想い出を胸に抱きながら、これからもあの懐かしい味を求めて色んなハヤシライスを食べていこうと思います。(^_^)


…さーて、
今夜はハヤシライスにしよっかなー!(^^♪

貴重なお時間を割き、最後までお読みくださいましてありがとうございました。

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