見出し画像

「祈りの夜明け」 シリーズ:刻の狭間の物語

Merry Christmas, Mr. Lawrenceを聴きながらお楽しみください。

祈りの夜明け

戦火の中、竜之介は一時の安息を求め、山間にひっそりと佇む小さな古寺へと足を運んだ。桜の花が舞い散る中、春のせせらぎがやさしく響き渡る。疲労と飢えに身を任せながら、彼は寺の中へと足を進めた。

寺の奥、静謐な空気に包まれた本堂で、彼は観音像を見つけた。時の流れによって覆われたほこりを優しく払い、像を正しい位置に戻す。その瞬間、観音様の優しい眼差しは竜之介の心を温かく包んだ。

夜が訪れると、竜之介は夢の中に引き込まれた。夢の中、彼は川辺に立ち、彼の知る顔々が向こう岸に並んでいた。彼らは竜之介を呼び寄せる。しかし、川上には猛々しい熊がいて、川下には轟音を立てる滝が見えた。彼は正面から川を渡ろうとするが、川に足を踏み入れると、水面が鎌のように足を切り落とした。

痛みに目を覚ました竜之介は、自らの足を確認する。足は無事だったが、観音像が倒れていた。彼は急いで像を正しい位置に戻し、深く頭を下げて謝罪した。

竜之介は本堂で瞑想にふけった。戦の意味、生と死、彼自身の存在の意義。多くの思考が彼の心を駆け巡った。やがて、瞑想を通して、彼は戦の虚しさや、人の命の大切さを感じ取った。

新たな日が差し込む中、竜之介は、甲冑を脱ぎ捨て、小さな古寺を後にした。その背中には、戦を避け、人々の平和を求める新たな決意が刻まれていた。
「涅槃寂静!」
之介の顔には疲れも恐れも感じられず、瞳にはただ未来への希望だけが宿っていた。