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アルテオとエドガー: 正義の泥棒と追跡者の物語『月光の絵画』

夜の街に、月明かりが満ちていた。静かな路地裏で、アルテオ・リュネは次の獲物を狙っていた。彼はかつての王国の文化遺産を取り戻すため、夜ごと盗みを働く怪盗である。その目的は、没落した王国の博物館を再興させること。しかし、彼の行動は犯罪であり、彼を追う者もいた。

エドガー・ラヴェルは、アルテオの正体を突き止めようとする探偵だった。彼はアルテオの目的を理解し、時にはその行動に共感すら抱いていたが、探偵としての使命感から彼を追い続けていた。

今宵の獲物は、ある豪商が不正手段で手に入れた貴重な絵画だ。アルテオは、絵画の所在を突き止め、その盗みを遂行することを決意していた。一方、エドガーは、アルテオがいつ何処で現れるかを予測し、彼の行動を封じようと画策していた。


夜空に輝く月が照らし出す中、アルテオの目の前には、貴重な中世西欧以前の時代の絵画が掲げられていた。かつては王国の文化遺産博物館に収蔵されていたこの絵画は、美術史上の名品であり、その価値は計り知れないものがあった。

19世紀末、王国の没落に伴って、この絵画をはじめとする文化遺産は四散してしまった。それから時が過ぎ、現在では様々な人々の手に渡っているが、多くは悪意ある目的でその価値を利用しようとしていた。

今回の絵画の所有者は、裏社会で名を馳せる豪商、ヴィクトール・クレマンであった。彼は、この絵画を闇オークションで高値で売りさばくことを目論んでいた。ヴィクトールは絵画の美しさや歴史的価値を全く理解せず、ただ利益を追求するだけの冷酷な人物だった。

ヴィクトールは絵画を手に入れるため、競合相手を脅迫し、不正手段を駆使していた。その結果、彼は絵画を手に入れたが、その過程で多くの人々を破滅させていた。アルテオは、そのような悪意ある所有者から絵画を取り戻し、本来の持ち主である王国の末裔に戻すことを決意していた。

エドガーもまた、ヴィクトールの悪行を知りながら、彼の計画を阻止すべく、アルテオの動向を探っていた。それぞれの目的を胸に、アルテオとエドガーの戦いが始まろうとしていた。

アルテオはヴィクトールに予告状を送りつけることにした。彼の筆が紙に触れると、端正な字で、絵画を盗むことを宣言する言葉が書かれていった。「貴方が不正手段で手に入れた絵画は、明日の夜、私が手にするでしょう。」

ヴィクトールは予告状を読んで一笑に付し、あまり真剣に受け止めなかったが、警備の強化とエドガーに協力を求めることに決めた。エドガーがヴィクトールの豪邸を訪れると、ヴィクトールは誇らしげに新たに設置した警備システムを自慢し始めた。

「見てください、ラヴェル氏。この最新鋭の監視カメラは、暗闇でも鮮明な映像を捉えることができます。さらに、館内には赤外線センサーや振動センサーが設置され、侵入者の気配を察知するとアラームが鳴るようになっています。そして、絵画の周りにはレーザーセキュリティシステムが敷かれており、これを潜り抜けることは不可能でしょう。」

エドガーは無表情でヴィクトールの説明を聞いていたが、彼は警告した。「アルテオは非常に狡猾で技術にも長けています。この警備システムだけでは彼を阻止することは難しいでしょう。もっと用心すべきです。」

しかし、ヴィクトールはエドガーの警告を全く聞き入れなかった。「あなたは心配性ですね。この警備システムがあれば、どんな怪盗も近づけません。私の財産は完全に守られています。」

エドガーは内心、ヴィクトールの過信に苛立ちを感じながらも、彼の協力を得るため、何も言わずに立ち去った。その夜、アルテオとエドガーの戦いが始まることを、誰も予測できなかった。

夜が更け、予告された時刻が迫ってくると、豪邸の周囲には緊張感が漂っていた。ヴィクトールとエドガーは絵画の前で警戒態勢を取っていたが、アルテオの姿はどこにも見当たらなかった。しかし、突然、アルテオの独特な笑い声が響いた。

「予告どおり頂戴しに参りました。」

アルテオは天井から垂れ下がる縄を使い、見事にレーザーセキュリティを避けて絵画の前に降り立った。彼の手には、特殊なガラス切り器が握られており、一瞬で絵画のフレームからガラスを外した。

ヴィクトールとエドガーは驚愕のあまり、一瞬動けなくなってしまった。その隙に、アルテオは絵画を巧みに抱え、縄を使って再び天井へと昇り始めた。エドガーがようやく我に返り、アルテオを追いかけようとするも、彼はすでに屋敷の外へと姿を消していた。

アルテオは屋根の上を華麗に駆け抜け、隣の建物へと飛び移った。そして、地上へと降り立ち、影に紛れながら瞬く間に豪邸から遠ざかっていった。彼の軽快な足取りは、まるで風のように忍び寄り、風のように去っていった。

ヴィクトールは絵画が盗まれたことに激怒し、エドガーに対して怒りをぶつけた。しかし、エドガーは冷静に告げた。「私はあなたに警告しました。アルテオを侮るべきではありません。」

絵画を失ったヴィクトールは、悔しそうに頭を抱えながら、アルテオの名前を呪った。しかし、その一方で、アルテオはすでに次の目標に向かっていた。彼の正義の泥棒としての活躍は、これからも続いていくことだろう。

エドガーは事件の詳細を綴ったレポートを書いていた。彼の筆は、アルテオの華麗な手口とその正義の心を、事実を基にして丁寧に記述していった。レポートが完成すると、彼はそれを封筒に入れ、ICPOへと提出した。エドガーは、今回の事件が厳重に保管されることを知っていた。彼は内心、アルテオの活躍を評価していたが、表立ってそれを認めることはできなかった。

盗まれた絵画が本来あるべき壁に掛けられた。静かな夜の博物館には、アルテオが戻した絵画が美しく輝いていた。絵画の持ち主は、アルテオの正義に感謝の涙を流し、その価値を改めて認識する。

こうして、アルテオの活躍により、貴重な文化遺産は元の場所に戻され、真の持ち主に返還されることができた。しかし、アルテオはまた新たなターゲットを見つけ、正義のために泥棒を続けることだろう。その影には、彼を追いかけるエドガーの姿がある。

二人の猫とネズミのような戦いは、これからも続いていく。それぞれの正義を掲げ、時には協力しながら、彼らは次の物語へと向かうのであった。

(第一話 終)

5月4日、アルテオとエドガーについて加筆しました。冒頭の三段落です。