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道立小黒内高校 3年イ組「小黒内高校、底辺の英雄たち」

「小黒内高校、底辺の英雄たち」

体育館に響き渡る授業開始のチャイム。そして、その音とともに教室の扉が開き、井上大助という名前の体育教師が顔を出した。「授業を始めるぞー。なんだ今日はこれだけか?」彼が見たものは、体育の授業に出てきた生徒がわずか四人だけという珍しい光景だった。

山本大地は、例によって眠そうな顔をしていて、まるで自分がここにいること自体を忘れてしまいそうだった。吉田賢二は、普段から控えめで、体育の授業ではただ一人、遠くから見ているだけの静かな存在だ。鈴木浩二は、いつもと変わらず無口で、今日もなにも話さないだろうと皆が思っていた。そして松本美紀は、授業よりも本の世界が好きで、体育の授業で体を動かすことより、自分の好きな本を読むことを選ぶことが多かった。

しかし、井上はそんな生徒たちの態度には気に留めず、授業を始めた。四人の生徒はそれぞれ好き勝手なことをしていたが、授業は平穏に進んでいった。そして、授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、山本が言った。「先生、今日俺達出席になるんだよな。」

井上大輔

井上は深く頷いた。「もちろんだ、お前らの態度は感心しないが、授業に出てきただけでも評価に値する。」

山本はにっこりと笑って「ラッキー」とつぶやいた。それを聞いた松本が「ところで先生、他のみんなはどうなるんですか?」と尋ねた。

井上は当然のように答えた。「欠席に決まってるだろ。誰も顔すら見せなかったんだからな。」

すると、松本が言った。「でも先生。今日の体育の授業は体育館だからってみんな、出ていきましたよ。1時間くらい前に・・」

井上の顔が一気に青ざめる。「・・・・・」て彼は突然走り出し、体育館へ向かった。空っぽの教室には、驚きのあまり固まったように立ち尽くす四人の生徒と、微かに残る井上の残像だけが残されていた。

体育館へ駆けつけた井上は、そこに全員集まっている生徒たちと他の教員たちを見つけた。彼らは体育の授業を真剣に受けていて、井上が教室で授業を進めていたことにはまったく気づいていなかった。そしてその中心には、井上を見てにっこりと笑う校長の姿があった。

戻ってきた井上の顔は青さを増し、彼はただぽつりと「今日は体育館で授業だったのか・・・」とつぶやくだけだった。

そしてその日、道立小黒内高校3年イ組の生徒たちは、体育の授業で二重に出席点を得た。四人の生徒たちは、その事実を喜び、他の生徒たちには内緒にしていた。それは彼らにとって、この底辺高校での数少ない小さな勝利だった。

それからというもの、井上は授業の場所を確認することを絶対に忘れないようになった。そして彼は、その日を境に、自分の教室にいる生徒たちをもっと大切にすることを誓ったのだった。

これが、道立小黒内高校3年イ組の日常である。平凡な日々の中に、笑いと驚き、そして友情が溢れていた。それは、この底辺高校で過ごす彼らにとって、とても大切な時間だったのだ。

「底辺の英雄たちの悪戯」

マドンナ先生、森田桜子は保健室で生徒たちの身上書を眺めていた。その時、突然彼女の前に現れたのは、大きな蜘蛛。恐怖にかられた森田先生は驚きのあまり、手に持っていた身上書を全て空中に放り投げてしまった。「きゃあ!」と叫びながら後ずさりする森田先生。しかし、その蜘蛛はただのプラスチック製のおもちゃだった。どうやら生徒たちが、彼女をからかうために仕掛けたイタズラだったようだ。「まったくもう。」という森田先生の姿は実に可愛い。


森田桜子