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22歳の地図④(September 1984〜)

September 1984

横浜駅のホームで高校の同級生とばったり出会った。
デパートの経理部で働いているという。
彼女はこんな話をした。
「私はお茶を入れるのが好きなの。
 自分の仕事が忙しいとよけいに意地になって
 お茶を入れちゃうの」
「なぜ?」と僕。
「お茶を飲んでる人を見るとうれしくなるから」

世のため人のためになるような仕事をしたいと思っても
その目的を果たすまでの過程には
多かれ少なかれ
不純な行為を犯さねばならないことが予想される。

一人前の社会人って
鬼か公務員だ。

みんな
殴り合いながら
切り合いながら
差し合いながら
生きている。
許せ、と念じながら。
みんな、
血まみれ。

半年もあればマスターできる仕事を
5年、10年かけて覚えていく。
たとえば寿司職人。
たとえばCMディレクター。
世の中のしくみ。

近ごろの僕はやる気喪失。
与えられた仕事だけをそつなくこなし
それ以外の時間は、
てきとうにサボるようになった。
不思議なことに社内での僕の評判は
良くなりつつある。

少なくとも日本では
年が若いということは大きなハンデだ。
20歳代ではなかなか一人前のビジネスマンとしての扱いを受けられない。
30歳を超えたらアホでも
それなりの扱いを受け
それならの仕事を仕切るようになる。
30歳まで待つのか___。
30歳になったら仕事が楽しくなるのかもしれない。
あと7年もある。

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October 1984

新入社員が5月病を乗り切るのが
この時期だという。
彼らはどのような自己変革により
社会に順応し
目標を設定したのだろう。
企業の価値体系を受け入れたのか、
無気力になったのか。
僕の友人は
前者が8割
後者が2割。
僕自身はたぶん後者に近い。

「おまえもそのうち笑えなくなる」
と言われた。
何を言いたいのかは分かる。
でも、僕は思う。
苦しくなればなるほど
汚さに巻き込まれるほど
笑いたくなる機会は増えるだろう。

他人を裏切ってもかわまないと
思っている人は、
きっと他人から裏切られる。

他人の喜びを自分の喜びとして
どこまで捉えられるか。
他人に喜んでもらうのが
人の喜びだと思う。

「お互いずるいもんどうし、
 表だけでも丸くおさめましょうよ」
が世の大勢だけど。

仕事をする人が目指すべきは、
自分の利用価値をどこまで高めるか。
仕事の人間関係は利用し合う関係。
はっきり割り切らねばならない。

仕事上で人と会っているとき
「こいつとは仕事以外の場所で
 知り合いたかった」
と思うことがよくある。

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己は結果で勝負して
他人の過程は大切にしてやる。

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ウソの海。
真実の飛び石。

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老後、夫婦で4,000万円必要だそうだ。
老後のために生まれたわけじゃないんだけど。

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判断能力を持たない学生が
就職先を自分で決める。
そして、その決定は取り返しがつかない。
そんな終身雇用制度は納得しかねる。
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大学生のころ、
慶応大学のマリンヨットクラブに所属している友人が
「メジャーじゃなきゃ、やっぱりダメなんだよ」
と言っていた。
思いだして、なるほど、と思う。
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November 1984

大きな山。
小さな山。
子どものころは
大きな山を見ていた。

おとなになると、
小さな山のてっぺんばかり見つめるようになり
ついには大きな山の存在さえ忘れてしまう。

瞳の輝きがなくなるのは
夢がなくなるから。

「みんながおまえをつぶそうとしてるし
俺もおまえをつぶそうとしている」
と、彼は言った。
勝手にしたら。

企業と社員の関係は
男に対する女の関係に似ている。
自分に力があれば
独立性が保てる。

見栄っ張りの女と結婚しないほうがよい、
というのは、つまり、
亭主が見栄を張らせてあげられる経済力が無い、
ということ。
金があれば幸せになれる
のかもしれない。
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営業部 M先輩のセールストーク
「◯◯さん、頼りにしてますから。
 寄りかかりはしませんけどね。
 寄りかかりはしませんが、
 ◯◯さんは頼りにしてますよ」
うまいな—。

頭の中で考えているときには
何の価値もないことが、
実際やってみると
新しい何かが見つかることがある。

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一流の打者は自分のストライクゾーンを持つ。
同様に人も善悪の判断基準を持つべきだろう。
くさい球はファウルする。

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人は後ろめたさがあると
他人を説得するパワーが削がれる。
だから、
普通の悪いやつは、
かえって底が見え透いてしまうので、
成功しにくい。
が、悪を犯しているにも関わらず、
自分が正義だと思いこめる人は強い。

本当に社会通念上の「善」だけで
ビジネスできるか?
難しいと思う。
ビジネスの世界では一般の社会通念と
ある程度、善悪の基準ラインが異なる気がする。
商慣習の中では
社会通念上の「悪」でも
必要悪とし許容される部分、範囲がある。
商人として商慣習のルール(許容範囲)を
ギリギリ超えないところまで「悪?」を駆使する。
それがビジネスマンだ。

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December 1984

学生の世界はもう別世界。
うらやましいとも思わない。

「負けたことを誇る人間」にだけは
なるまい。

街の風景は刻々と変化して
物理的にさえ原形をとどめなくなっていく。
そのような流転の中でも
僕と過去の共通体験を持つ人たちは
僕に対し変わらないでいてくれる。
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May 1985

学生、正しいよ。
でも、正しいからって通用しない。
あまい。
通用しないものに価値はない。

5月26日 一世を風靡した六本木のディスコ「ナバーナ」が閉店した。
ホール&オーツ「マンイーター」
ウェザーガールズ「ハレルヤ•ハリケーン」
トロピカルドリンク。
レイヤードのJJガール。
この店で僕は生きた。

「ファイナル・ナバーナ」と印刷された
パーティーチケットを手に
僕より5歳は歳下の世代が集う。
昔、栄華をきわめた時代おくれのディスコが
閉店するから。
彼らは西麻布の常連らしい。
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自分の意志に反して
やらなければならない悪が多すぎる。
はたして、できるか。

物事は、できるだけたくさんの人に
メリットがある方向に運ぶのがセオリー。
でも、すべての人にメリットがあることなんて
ないんだ____。

生きることの悲しさを知った人たちが
街にあふれ
生きることの悲しさを知った人たちを
傷つけている。

自分に「何もできない」ことがわかっても
漠然とした虚しさがあるだけで、
以前のように
追い詰められた気持ちになることは無くなった。
目先の充実を求めて生きている。

今まで引きずってきた数々の夢、意地、理想、
もう、いつのまにか
遠くに置いてきてしまっている。

「何もできない」ことに
慣れてしまえば
大人になれる。
楽になれる。
…. 慣れてしまえば。

僕は東京が嫌いだ。
駆け引きの匂い。
策略の予感。
おびえながら生きる人たち。
そんなことにも無感覚になってしまった人たち。

ボーイズ・タウン・ギャング
「君の瞳に恋してる」
のイントロがかかった瞬間、
ディスコの表情は一変する。
あの季節をともに駆け抜けた。
最後に君と会った1985年、春。
君は25歳だった。

Can’t take my eyes-off you.










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