「10 -第ニ部-」 13話

【それぞれの立場】

「ルリ様、動かなくなっちゃいましたよ〜。どうしましょう」
「う〜ん。どこか壊れたんだろうか」

14年前。アサギが5歳の頃。教会のおつかいの帰りに声が聞こえたので見ると、2人の子供が顔を突き合わせて困っていた。1人は泣きそうな顔をして、もう1人は手に持った何かをあちこち調べている。

「どうかしたの?」

声をかけると驚かれたが、泣きそうになってた子が人懐っこく事情を話してきた。

「ルリ様のおもちゃが動かなくなっちゃったんだ。飛んでる時にそこの木にぶつかっちゃって」

もう1人の子の手を見ると、鳥の形をしたおもちゃを握っている。

「あの……僕、機械直すの得意だから見てみようか?」

おもちゃを握ってる子は少し警戒しているようだったが、もう1人の子にあと押しされておもちゃを渡してくれた。
アサギはいつも持ち歩いてる簡易の工具で調べてみる。

「あ、ここが外れてるんだ。ほら。直したついでに外れにくくしとくね」

説明しながらテキパキと修理をする。直ったおもちゃを飛ばすと、2人から「おお〜」という感嘆の声があがった。

「ありがとう!ルリ様、良かったですね!」
「ああ。ありがとう。父上が送ってくれた物だったから、壊れてしまって困っていたんだ」

2人が嬉しそうな顔でお礼を言ってくる。アサギは機械を触るのが好きだが、こうやって喜んでくれることが何より好きだった。


教会の本部。ラボの一室でアサギは空を見ていた。飛んでいる鳥を見て昔の記憶を懐かしんでいる。

『2人は元気かな。会いたいな………』

友人の顔を思い出しながら、手元に視線を落とす。そこには上層部からの通達が書かれた紙が握られていた。

『武器開発部門への異動………僕が武器を作るなんて………絶対したくない。でもどうすれば………』

悩みに歪んだ顔で再び空を見る。鳥はいつのまにか姿が見えなくなっていた。


ニセのルリ救出作戦から3日。ルリと再開できたソラはすっかりこぎげんで昼食をとっていた。

「相変わらず大きなおにぎりねぇ。背が大きい分、たくさん食べないといけないものね」

ヒワがどんどん消えていくおにぎりを感心しながら見ている。

「はい。それだけ大きくなってくれたら食費を払ってきた甲斐もあると両親に言われました」
「はは。ソラのご両親は楽しい人だね」

クレナはソラが素直に育った理由が何となくわかる気がした。

「ごちそうさまでした」

きちんと手を合わせるソラの後ろにリンドがやってきた。

「あんた、午後からは事務所待機でしょ。射撃の訓練するわよ。隊長、いいですよね」
「うん。いいよ」

ソラの返事を待たずにリンドは首根っこを掴んで引きずっていく。「またこのパターンかぁ」と思いながらソラはされるがままに任せた。


「どうしても右肩があがるわね。意識して下げなさい」
「はい」

リンドの指示は的確だ。言われたからといってすぐ直せるものではないけれど、自分のできていないところをしっかり教えてもらえるのはとてもありがたい。

「一回休憩にするわ。水分しっかり摂りなさいよ」

リンドと並んで休憩する。決して覚えの良いほうではない自分に根気よく付き合ってくれるリンドに、ソラは感謝の気持ちを伝えた。

「あの、リンドさん。ありがとうございます」
「いいのよ。ソラが強くなることはこの町のためにもなるんだから。それに、まだやるべきことは終わってないんでしょ」

全てを見透かすようにリンドがソラを見る。

「なんでわかるんですか?」
「あんたは分かりやす過ぎるのよ。ほら。やるべきことがあるならもっと鍛えないと。休憩はもうおしまい」

再び銃を構えるように指示するリンドに、「はい!」と元気に返事をしてソラは訓練を再開した。


その頃、ルリはスーツ姿の男性と会っていた。

「ご足労いただきありがとうございます、ロウさん」
「いや、武器開発への対処は急務だからね。一ヶ月後にはかなりの人数が開発課へ移動させられる。君の幼馴染もその中に含まれているよ」
「やはりそうですか」

ルリがはぁっとため息をつく。

「例えば君の友人をラボから連れ出す、というだけなら簡単にできるんだが。君たちの目的はそうではないんだろう」
「はい。アサギは自分だけ助かっても喜ばないでしょうし、武器の開発そのものを止めないと意味がない」

ルリの回答にロウは満足したようだった。

「武器の開発を止めるとなると、需要をなくすのが一番だろうね」
「そうですね。貴族が地上に上がることによる治安の悪化をどうするか。姉上と対策を模索中です」
「地上に上がる人数は減らせないのかい?」
「バカンス目的なら規制はできますが、物資の輸入など必要な目的もありますので。無理に地上行きをやめて食糧不足でも起きれば、元も子もないですから」

ルリがアゴに手を当てる。考え込む時の彼の癖だ。

「ある程度の対策ができれば、組織の力で教会は黙らせられるんだけどね」
「ヒスイ君ですか。できれば彼の立場は使いたくないのですが」
「優しいね。彼は覚悟の上だと思うけどね。まあ10年で効果の切れる保証に頼るよりは、根本的な対策を講じた方が建設的か」

ロウは自分に言い聞かせているようだった。

「まあここからは君達、貴族の仕事だ。検討を祈るよ。私で力になれることがあればいつでも言ってくれ」

ルリの肩をポンと叩いてロウは去っていく。1人残され、ルリはずっと考え込んでいた。

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