「10」第42話 【完結】

【この10年をともに】

地上での目的を果たし、俺たちは無事に地下に帰って来た。
今回のためにたくさんの人が力を貸してくれた。俺とトーカはお礼と無事戻ったことを伝えにみんなの所をまわった。


ラボのみんなは地上に上がる箱がきちんと機能したことを喜び、プティさんが更に改良版を作ろうと目を輝かせるのをサリさんが止めていた。
ノーマには武器を整備してもらいながら今回のことをずっと話していたら「うるさい!」と部屋を追い出された。
みんな相変わらずだ。


フォーラは念の為サカドに危険が及ばないか、しばらく地上で過ごして見張らせると言ってくれた。
お礼を伝えると「このことをぜひグライ様に話してくださいね」と言われた。ちゃっかりしている。


そのグライさんは俺のことが気に入ったらしく、自分の部隊にこないかと誘われた。けどトーカとグリーズが全力で反対してこの話は無しになった。


マイトはあの任務の後うちの協力者になったらしい。ミリッサやマイトと一緒に仕事ができる日がくればいいな。
ベリアとアルアは連絡をとりあうようになったらしく、時々会って食事したりしているそうだ。


ハイルは少しずつ心を取り戻しているらしい。最近は時々、育った孤児院に行って子供達の相手をしているそうだ。
この話をするロウさんは嬉しそうだった。


ジンは仲間たちと人助けの道を探って色々動いているらしい。うちの組織との関係も良好だ。
赤い玉を返しそびれたので、時々連絡をとってジンとたわいもない話をしている。


クキはすっかり隠れ家に定住してしまったらしい。アジトに帰ると言うと寂しがられた。

「寂しい!寂しいよ〜。帰らないでよ〜」
「お前、ずっと一緒にいたんだから少しは我慢しろ。また仕事で会えるだろ」
「絶対だよ。絶対また来てよ!」
「大丈夫だよ。絶対また来るから。色々ありがとう」
「美味しいお店探しとくから一緒に行こうね!約束だよ!」
「いや、仕事をしてくれ」

あまりに寂しがるので可哀想になったが、アジトに帰らないわけにもいかない。お店探しといてねと約束すると、ぎゅーっと抱きしめて「元気でね!」と言ってくれた。
ああ、クキのこうゆう所にずっと助けられてきたんだな。


そして、アジトに帰った俺にはもう一つ嬉しいことがあった。


「コトラ⁉︎」
「久しぶりだね、ヒスイ」

アジトに帰るとなぜかコトラがいた。

「トリ家の後片付けが済んだら市民街で静かに暮らそうと思っていたんだけどね。トーカから学校の先生のアシスタントをしないかと誘われて」

トーカをキッと睨む。いつものニヤニヤ笑いがあった。

「なんで言わないんだよ!」
「地上に行く前にアジトに行かないかって言ったのに、ジンのことを気にして断っただろう。あの時に言おうとしたんだよ」

残念〜とわざとらしい顔をされて、ますますイライラする。

「コトラ君が来てくれて助かっているよ。子供達も彼に懐いているし」
「コトラ兄ちゃんやさし〜よ〜」

ソアラと子供達が嬉しそうだ。たしかにコトラは穏やかだし教えるのもうまそうだ。

「そうそう。コトラは何でも知ってるから俺達も喜んでるんだぜ」
「一緒に遊んでくれるしね〜」

聞き慣れた声がする。嬉しくて声の方に駆け出した。

「イッカ!ウノ!」

思いっきり2人に抱きつく。
2人は全力で抱きしめてくれた。

「やっと帰って来たな!」
「ずっと待ってたんだよ〜」

ごめんと謝ると「心配かけた罰だぁ」と2人に髪をクシャクシャにされた。

「よし!気もすんだし、まずはこれをしないとな」
「ほらほら、みんなも一緒に」

みんなで俺とトーカを取り囲む。イッカが「せーの!」と言うとみんなで一斉に声をだした。

「おかえり!」
「……ただいま」

俺は今、たくさんの笑顔に囲まれている。それはとても幸せなことだった。


その日の夜、アジトの外に出て夜空を眺めていた。
地上の空は綺麗だったけど、俺はみんなと過ごすこの空のほうが好きだ。

「………ナズ。守ってくれてありがとう」

空に向かって話しかける。返事はない。それでもどこかで聞いてる気がして話を続けた。

「なあ、ナズ。俺はこれからもお前が守って良かったと思える世界にできるように頑張っていくよ。見ていてくれ。そしてもし……」

言葉に詰まる。でもこの先は絶対に言わないといけないことだ。

「………もし俺がお前に守られていることに驕って、世界を、お前を傷つけるようなことをしたら………その時は俺を殺してくれ」
「じゃあ、相棒の俺も連帯責任だねぇ」

後ろから急に声がする。振り返るとトーカがヨッと手を上げて立っていた。

「いつのまに!」
「ん〜。ありがとうくらいからかな」
「最初からじゃねぇか!」

まあまあと笑いながらトーカが横に並ぶ。見上げた顔はなんだかいつもより晴れやかだ。

「水臭いじゃない。1人で全部背負おうとするなんて」
「それは……」
「間違ったら2人で償えばいいって言ってくれたのはお前だよ。今更俺だけ置いてくなんて、まだ俺は信用ないのかな」
「わかったよ。悪かったよ」

わかればよろしいとトーカは笑顔になる。

「なあ………」
「なんだい?」
「………あの時、連れ出してくれてありがとう」

あの日、トーカと一緒に廊下から飛び出して世界が変わった。世界がこんなにも優しさで満ちてるなんて知らなかった。

「どういたしまして。じゃあ俺は、信じてついてきてくれてありがとう。だな」

トーカがニッと笑う。隠し事もごまかしも何もない、心の底からの嬉しそうな顔だ。

「………どういたしまして」

笑い声は2人分。夜空に溶けていった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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