「10 -第ニ部-」 11話

【対等】

「こんの馬鹿!馬鹿ソラ!なんでこんなところまで来てるんだよ!」
「………へ?」

やっとルリまで辿り着いたと思ったら、ルリは壮絶不機嫌な顔で自分を罵倒してきた。ソラはわけがわからなくて言葉を失う。

「お前を巻き込まないために、屋敷を離れて地上に行く時も何も言わず別れを告げたのに!危険に近づかないように、中央でもわざと突き放したのに!なんで地上のこともヤドのことも全部知ってノコノコ助けになんて来てるんだ!」
「え?え?あの……すみません」

物凄い剣幕のルリにソラはただ謝るしかなかった。

「謝って済む問題か!お前もう戻れないんだぞ!あの町で静かに暮らしてれば一生平和に過ごせたのに!私の努力を全て無駄にして………あー、腹が立つ!」

こんなに激昂するルリは見たことない。目の前の人物は本当に自分の知ってるあのルリなのか、ソラは不安になってきた。

「は〜スッキリした。やっとお前に文句が言えた」

散々怒りをぶつけてきたかと思えば、急にケロッとしてルリは普通の顔に戻った。

「さて、そろそろみんなを止めないとな。ほら。お前も行くぞ」


訳がわからないまま、ルリに続いて部屋を出る。外ではいまだ激しい格闘が続いている………ように見えるが、よく見るとみんな楽しそうに手合わせしている。

「みなさん、ありがとうございます!もういいですよ!」

ルリの声に「なんだ?」「もういいのか?」と、殴りあってた人達が次々と手を止める。

「ルリ、話したいことは話せたのか?」
「ああ。とりあえず言いたいことは言えたから、あとは落ちついて話す時間を作るよ」

駆け寄ってきたヒスイにルリが笑顔を向ける。ずっと頭にハテナの浮いているソラをほったらかして、ルリは集まってきた人達に礼を言っていく。

「こんな個人的なことに手を貸してくださりありがとうございます。グライさんにもよろしくお伝えください」
「はい。伝えておきます。でも我々も久しぶりにやりがいのある人達と手合わせできて楽しかったですよ。ジンさんの仲間はみなお強いですね」

敵だと言われていた屈強な男の1人が礼儀正しくルリのお礼を受けている。話しかけられたジンは名刺を出してきて男に渡した。

「ありがとうございます。うちはコイツらと貧民街の子達と一緒に何でも屋をやってるんでね。こういった荒事だけでなく掃除洗濯、店の手伝いからおでかけの荷物持ちまで。連絡をくれればいつでも駆けつけますよ。ルリさんとソラさんも名刺をどうぞ」

流れるように渡されて名刺を受け取るルリとソラ。ルリは鮮やかな営業に思わず笑ってしまった。

「今回はありがとうございました。姉にも宣伝しておきますよ」
「それはありがたい。ぜひお願いします」
「ジンはすっかり商売人になったね」

ヒスイがしみじみ言う。

「理想だけでは子供達を食べさせていけないないからね」
「お前が言うと感慨深いものがあるな」

ジンの反応に、トーカはなんとも言えない表情を浮かべていた。


「さて、私ばかり怒りをぶつけるのは不公平だ。ソラの話も聞こうか」

みんなに礼を言って帰したあと、ルリはソラと2人で広間に残った。ちなみにミリッサとマイトには車で待ってもらっている。

「いや、俺の話と言っても、ただ俺はルリ様に会いたかっただけで」
「それだけのために世界の秘密まで抱えるなんて、どんだけ馬鹿なんだお前は。本当に昔から要領が悪いと言うか、考えなしというか」

はぁっとため息をつくルリに、なんだかソラはムカムカしてきた。ルリに会うためにここまで頑張ったのに、やっと会えた本人の口から出るのがこれでは報われない。

「バカバカ言いますけどね!ルリ様が何も言ってくれないからでしょ!軍の会議で取り上げられてたら、そりゃ心配になりますよ!」
「私がお前に心配されるような人間に見えるか!どんくさいお前の世話をしてきたのは私だぞ!」
「いくつの時の話をしてるんですか!もう俺はあなたの背だって追い越してるんですからね!」
「うるさい!背ばっかり大きくなりおって!なんで私がお前を見上げなきゃならんのだ!あとルリ様ってのやめろ!敬語もだ!ケンカにならんだろ!」
「ああ、やめてやるよ!お前なんかルリで十分だ!どうせお上品な貴族のぼっちゃんはケンカなんてろくにしたことないだろ!………ケンカ?」

『あれ?俺、ルリ様とケンカしてる?あのルリ様と?』

売り言葉に買い言葉で話していたが、ソラはルリとこんなに激しく言い合ったことなんてない。ふと我に返り自分のしていることに驚いた。

「………私と対等になったんだろ。ならケンカの一つくらいするだろ」

ルリがフッと笑う。ソラはサーっと青ざめてルリに謝り倒した。

「わああああ!ルリ様すみません!俺、なんてことを!」
「だからルリ様をやめろって」
「しかし……」
「私と対等になって、私を助けるためにここまで来たんだろ。なら、敬語も様付けもいらない。お前はもう私に手を引かれる子供じゃないんだから」

見上げてくるルリの楽しそうな顔に、ソラはやっと相手が望んでいることがわかった。

「はい。………えっと、ルリ」
「うん。それでいい。しかし私を坊ちゃん呼ばわりとはお前も偉くなったもんだな」
「それは………」
「はっはっは。これからどんどんお前の弱点をついていくからな。私と対等になったことを後悔するがいい」

笑いながらルリが車へ向かう。ソラはどうしてもこれだけは言いたくて、追いかけながら大声で伝えた。

「後悔なんてしないからな!絶対しないから!」

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