「10 -第ニ部-」 12話

【もう1人の】

「それで、ソラ君はこれからどうしたいんだ?」

帰りの車で助手席に座るミリッサに問われる。

「どう、とは?」
「我々と共に組織の協力者になるのか?」

『そういえば。全てを知ったということは、協力者になるということなのか』

ルリのことしか考えてなかったソラはポンと手を叩く。

「あ、はい。なります。ルリさ……ルリを助けるにはそれが一番なんで」
「お前、そんな軽さで」

ルリが呆れた声を出す。

「いいの。とにかくそのために頑張ってきたんだから」
「そもそもルリ君が何をしてるのかは知ってるのかい?」

運転席からマイトがもっともな疑問を口にする。

「え?知らないです。ルリ、何してるの?」
「今空いてるか?みたいに聞くな。ったく。最近ヤドのことを公表してヤドを解放しようって動きがあちこちで起こってるんだよ」
「そうなのか!そんなことしたら大変じゃないか!」
「そういう動き自体は昔からあったんだが、最近数が増えててな。軍の内部にまで協力者が出た。さすがに看過できなくなったので、姉上の命で私も動いてるんだ」
「それで軍の会議でルリの名前が出てたのか。アイツらがヤド公表派だったんだな」
「そういうことだ。まあ、そいつらも含めヤド公表の動きはだいぶ鎮静化したから、そんなに心配はいらなくなったがな」

はあーっとソラは感心する。

「ルリはやっぱり凄いんだなぁ」
「お前はもうちょっと後先考えて行動してくれ」
「どうせならもう一つの件も話したらどうだ。彼のことはソラ君も知ってるんだろう?」

ルリの動きが一瞬止まる。ミリッサはわかった上で言っているようだった。

「……そうですね。ソラ。アサギのことは覚えているな」
「ああ!中央に行けばアサギにも会えるんじゃないかと期待してたんだ」
「………そうか。確かに中央にはいるがそんな簡単には会えないぞ。アイツは今、教会本部のラボにいる」
「そうなんだ!やっぱりアサギは凄いね!」

ソラは友人の出世を無邪気に喜ぶ。対してルリは晴れない表情だ。

「ああ。アイツは私との約束を守って、立派な技術者になってくれた。ただ場所が悪い。今、教会内では武器開発の動きが活発化している」
「え?なんで?教会に武器なんて必要ないだろ?」
「今のヤドに代替わりして3年。地上が安定しだすと、多くの貴族が地上に上がるんだ。その隙をついて反乱分子が活発化する。その対処に追われる軍に恩を売るために、教会は武器の製造に力を入れるんだよ」

ソラはヤドや地上のことを知ってから1週間ほどだが、自分が知った秘密は世界に大きな影響を及ぼしていることを改めて感じた。

「でも、アサギが武器なんて」

おもちゃを直してくれた優しい笑顔を思い出す。いつだって人の役にたつ技術者になりたいと言っていた。アサギはそんな人だった。

「ああ。自分の作ったもので人が殺されたなんてなれば、アイツは耐えられないだろう」
「ルリ、助けにいこう!」
「………お前そんな簡単に。まあ私もそのために組織に協力してるんだが。同じ協力者に教会の人間がいる。その人に頼んでなんとか助けられないか動いているところだ」
「さすがルリ!で、俺は何をすればいいんだ!」
「…………」

車内に沈黙が降りる。ルリは気まずそうに咳払いをして、ソラの肩に手を置いた。

「まだ作戦を立てている段階だ。お前にしてもらうことが決まったら連絡する。ひとまずは待機していてくれ」
「わかった!」

元気よく返事するソラの前列で、ミリッサとマイトが笑いを堪えていた。


「じゃあな。まずは町を守る自分の仕事を頑張れよ」
「うん。ルリも頑張って。少佐も軍曹もありがとうございました」

アヤの町の入口でソラは車を降りた。ルリと別れの挨拶をし、ミリッサとマイトに礼を言って車を見送ろうとする。
すると、ルリが言いにくそうに呟いた。

「………助けに来てくれてありがとうな」
「ん?」

声が小さすぎて理解するまでに時間がかかってる間に、窓を閉めて車は行ってしまった。
それがルリからの感謝の言葉だったと気づいたソラは、嬉しさを噛み締めて家への道を歩きだした。

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