「10 -第ニ部-」 14話

【息抜き】

「あれ?ルリ?」

休日の朝。玄関から声がするので出るとルリがいた。

「なんだその格好は。今何時だと思ってるんだ」

時刻は10時。休日を言い訳に惰眠を貪っていたソラはまだ寝巻きのままだった。

「いや〜。寝る子は育つって言うじゃない」
「それ以上育ってどうするつもりだ。でかけるぞ。すぐ支度してこい」

敬語や様付けがなくなってもルリはルリである。突然やってきて不躾に命令しても、ソラは「は〜い」と素直に応じるだけだった。


「お待たせ」

ささっと用意を済ませてソラが戻ってきた。食堂を営む両親は仕込みで店のほうにいるので、でかけることだけ伝えて家を出る。ルリに両親に会っていくか聞いたが「全て落ち着いてからゆっくり会いたい」と言うので、何も言わずに出てきた。

「で、どこに行くの?というか、何しに来たの?」
「………お前は気分転換する時、どこへ行くんだ?」

質問に質問で返される。ソラは特に気にせず休日の自分の行動を思い出していた。

「そうだなぁ。公園でのんびりしたり、お菓子を買いに行ったり」
「なら、よく行く公園へ連れて行け」

相変わらず命令ばかりのルリに特に嫌な顔もせず、ソラは近くの公園へ連れて行った。


朝の公園に男が2人。ベンチに座っている。1人は難しい顔をして、1人は訳がわからない顔でもう1人の様子を伺っている。

「あの………ルリさん?本当に何しに来たんですか?」
「………アサギのことでちょっと煮詰まっていてな」

アサギの名前にソラが敏感に反応する。聞きたいことは色々あるが、ルリの話を遮りたくなくてグッと堪えた。

「姉上との話し合いもなかなかいい案が出なくてな。悩んでいたら『そんな眉間に皺ばっか寄せていたら解決するものもしない。気分転換でもしてこい』と家を追い出されたんだ」
「シルビア様らしいな」

ソラはプッと笑いが漏れてしまう。ルリの姉のシルビアは豪快な人で、ソラもよくオロオロしていては叱咤されたものだった。だがソラは面倒見の良い彼女を慕い、弟のように可愛がってもらっていた。

「せっかくソラと再開できたんだから会いに行ってこいと。アヤへの切符まで渡されたんだ。たぶんずっと渡す機会を伺っていたんだろう」
「優しさと面倒見の良さは健在だな」
「ああ。相変わらず頭が上がらないよ」

そう言いながらルリは嬉しそうだ。

「で、アサギのことってのは俺は相談に乗れないのか?」

ルリが落ち着いて話ができそうになってきたので、一応聞いてみる。

「そうだな。………なあ、貴族の多くが地上に行ってる間に反乱が起きると言っただろう。それを防ぐにはどうすればいいと思う?」

急に地上の話が出て驚く。公園に人通りが少なくて良かった。でなければ、こんな話できなかっただろう。

「え〜と、地上に行かないようにするとか?」
「そうすると食糧や色々なものが足らなくなって、どちらにしろ反乱が起きる」
「あ〜、じゃあ貴族の数を増やすとか?」
「そんなこと急にできるわけないだろ」
「いや、貴族そのものじゃなくても、貴族の仕事をみんなで分担するとかさ。うちも時々引退した人に手伝ってもらったりしてるぞ」
「地上のことを知る人間は限られるんだ。そんな簡単に……」

言いかけてルリが止まる。どうしたのかとソラが覗き込むと、驚いた顔をしてアゴに手を当てていた。

「下級貴族か」
「へ?」

ルリは急にソラの肩を両手でバンバン叩きだした。

「そうだ!下級貴族達がいるじゃないか!地上のことを知らない人もいるが、もとは貴族!話がわからないわけじゃない!」
「ルリ!声が大きい!」

いくら人通りが少ないとはいえ、いきなり大声で話し出すルリにソラは慌てる。

「おっと。すまない。だが今のはいい案だ。すぐ帰って姉上と相談しよう。ソラ、助かったぞ。じゃあな!」
「え、あ、ああ。じゃあな」

そのままソラを置いてルリは帰ってしまった。ポツンと取り残されたソラは、どうしていいかわからずベンチから動けずにいる。

「まあ、ルリが元気になったならいいか」


「姉上!いい案が浮かびました!」

ルリは中央の自宅に戻るなり、大声で姉のところへ報告に来た。

「ルリ?もう戻ってきたのか?ソラ君に会いに行ったんじゃなかったのか?」
「はい!ソラのおかげでいい案が浮かんだので、すぐ帰ってきました!」

シルビアは額に手を当てて「ソラ君、可哀想に」と言っている。ルリはそんな姉の様子も気にせず興奮した様子で捲し立てた。

「下級貴族です。彼らの地位を回復し、貴族が担っている役割を分担するんです。そうすれば地上に大勢が行くことになっても、地下の治安が保てます」

ルリの提案にシルビアが真面目な顔になる。

「なるほど。たしかに彼らなら交渉の余地がある。だが争いに負け地位を奪われた彼らを、権力の中心にいる我々が説得するのだ。一筋縄ではいかないぞ」
「覚悟の上です」

真っ直ぐに自分を見てくるルリに、シルビアも覚悟を決めた。

「いいだろう。すぐに貴族のネットワークに連絡を入れよう。その後に連絡がつくだけ下級貴族に話をする。ここからは時間との勝負だ」
「はい!」

ルリはシルビアについて部屋をあとにする。その顔はやる気に満ちていた。

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