「10」第34話

【未来を見る】

翌日、俺たちは隠れ家でソワソワと来客を待っていた。昨日の結果を直接伝えたいと、大佐がここに来ることになっているのだ。

「お茶とお菓子これでいいかな?甘い物より辛いもののほうが好きかな?」
「クキ、お茶会にくるんじゃないぞ」
「だって粗相があって協力者の件が無くなったらイヤじゃない」

ミリッサを迎える時はこんなに緊張してなかったのに、やはり地上への協力がかかってるとなるとみんな緊張している。
そうやってバタバタしていると玄関がノックされた。

「ミリッサだ。大佐をお連れした」

俺が扉を開けに行く。ようこそと言いかけて、視線がどんどん上に上がった。

「君がヒスイ君だね。私はベリアだ。よろしく」

デ……デカい。ミリッサの後ろには見上げるほどの大きな女性が立っていた。鍛えられた筋肉は逞しく、彼女の作る影に俺がすっぽりおさまるほどだ。

「………あ、失礼しました。ヒスイです。よろしくお願いします」
「はっはっは。そう緊張するな。取って食ったりはせん」

豪快に笑いながら肩を思いっきり叩かれる。女版グライみたいな人だな。


「さて、改めて。今回は黒山羊の残党狩りに協力いただき礼を言う」

挨拶も済んだところでテーブルに移動して本題に入った。ミリッサとベリアが並んで座り、トーカと俺は向かいに座っている。クキはお茶の用意をしにキッチンに行ってしまった。

「こちらこそ、協力者の件に名乗りをあげていただき感謝しています」

トーカが大人モードに入っている。なぜ普段からこんなふうにシャキッとできないのだろうか。

「その件だが、喜んで協力させてもらうよ。ミリッサとマイトの報告を聞く限り、なかなか根性のある少年じゃないか。我々の力が必要な時は遠慮なく言いたまえ」
「ありがとうございます!」

ベリアが力いっぱいの笑顔で承諾の意を伝えてくれた。横ではミリッサが「良かったな、ヒスイ君」と微笑んでくれている。

「時に、マイトの報告にあったジンと君との関係はなんなのかね」

ベリアが先ほどとは変わって真剣な表情になる。

「関係………ですか?」
「ああ。疑ってるわけではないんだ。マイトからの報告で仲間ではないことはわかっている。ただ君に異常な執着があるように見えたと言っていたのでね」
「………わからないんです。なぜ俺にこだわるのか。優しいねと仲間に誘ってきたり。テラスタワーについて聞きたかったらいつでもおいでと言われたり。ヤドについては何も知らないみたいなんですけど」
「我々もあの男については調べているが不可解な点も多い。何をしてくるかわからないヤツだ。充分気をつけたまえよ」

トーカが俺の首に下がっている袋をチラッと見た。

「ありがとうございます」
「うん。ではそろそろ退散させてもらおうか」

ベリアが席を立とうとすると、ちょうどキッチンからクキが出てきた。せっかくお茶を用意したのに〜と悲しむクキに笑いながら、ベリアはもう一度椅子に座った。


「そういえばマイトが君の動きを褒めていたが、誰かに師事しているのかね?」

お茶を飲みながら世間話をしていると、ベリアにこんなことを聞かれた。

「はい。格闘技など色々教えてくれる師匠がいます」
「そうか。いい笑顔だ。きっと良い師なのだろうな」
「褒めてもらえてアルアも喜びます」

ベリアの手が止まる。不思議そうな顔をしている。

「アルア?君の師はアルアというのか?」
「はい?そうですが?」
「もしかして、5年前まで軍にいたのではないか?」
「はい。そう聞いてます」

途端にベリアが大笑いしだした。

「はっはっは。そうか。あいつの弟子か!どうりで強いわけだ!」

ベリアの反応を見て思い出す。たしか大切な友人が軍にいるってアルアが言っていた。

「あなたが………アルアの大切な友人?」
「なんだ?私の事を話していたのか?あいつとは同郷でな。一緒に軍に入ったんだ。互いに切磋琢磨してな。怪我で軍を辞めてからもしばらくは連絡をとってたんだが、なかなかお互い忙しくてな。そうか。あいつ、こんな弟子を育ててたのか」

面白くて堪らないといった感じでベリアは笑い続けていた。アルアが友人のことを話した時の顔を思い出す。お互いにただただ相手のことを想っている顔だ。
なんだか無性にイッカとウノに会いたくなった。


ひとしきり盛り上がり、いよいよ帰るかとなってベリア達を玄関に見送りに出た。

「いや、思わぬ嬉しい話が聞けて良かったよ。ありがとう」
「こちらこそ、アルアに会ったらベリアさんのこと話します」
「……君は不思議な少年だな」

ベリアがまっすぐに俺を見てくる。

「アルアは軍を辞めて未来を失ったようだった。だが今、君という未来を育てている。私との縁も再び繋いでくれた。君は人と何かを繋ぐ不思議な力があるのかもしれないな」

ありがとうともう一度礼を言って、ベリアは去って行った。

「……俺にそんな力があるなら、ナズが望んだサカドって人との繋がりをもう一度結べるかな」

ポツリとでた本音だった。

「そうだね。大丈夫。きっとお前は金貨を届けに地上へ行けるさ」

トーカが優しく肩に手を置く。
これで協力者は2人目。少しずつ地上に近づいているのだろうか。

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