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90秒でわかる国家の“旬”|Essay

日本が老いた国として報道されるようになって久しい。街を歩く若い人が少なくなった/閉鎖される学校が増えた/バスや鉄道の便数が減ったなど、それを感じる機会はさまざまある。コロナ禍での自粛生活やGDP成長率の低さ、最近の物価上昇で、日本の退行ムードは抜き差しならないところまできている感がある。

日本の中位年齢は48.4歳(2020年統計)だという。これは48歳以上の世代と48歳以下の世代が同数ということを意味する。48歳といえばもうオッサンであり、オッサン以上が人口の大半というのは、「超高齢社会」という消費しつくされた感のある言葉以上にインパクトがあるんじゃないだろうか。学校で習った人口ピラミッドを思い出してほしいが、48歳が中位ならもうピラミッドは瓦解して、立っているのがやっとといういびつな形(ひょうたん型)になっている。

対して、アジアの国々は概して若い。フィリピンなど25.7歳で、26歳以下が人口の半数もいるということになる。人口ボーナス(人口に占める生産年齢人口の上昇期)が2060年頃まで続くといわれている。ただ、若すぎる弊害なのかわからないが、貧困世帯の児童労働が多く、学校に通いながら働く子どもの数はもっと多い。以前にフィリピンのカラミアン諸島を旅行したとき、チャーターした釣り船でガイドをしていたのは中学生くらいの年頃の2人だった。でもさすがにガイドとしての腕はなく、案内してくれるポイントはことごとく魚が不在だった。

ベトナムは32.5歳だが、道路にはおびただしくバイクが群れをなし、その多くが若者世代なので、若さが街にあふれ出ているという印象を与えている。象徴的だったのが数年前のホーチミンでの出来事――その日は満月だった。ホーチミン人民委員会庁舎から南東にまっすぐ伸びるグエンフエ通り広場の夜8時半は、暴力的な暑さもなんとか通り過ぎ、食後に散策するにはちょうどいい時間帯だった。ふだんからイベントが多いメインストリートのようだが、平日だったので夜店はほぼ出ておらず、涼風を楽しみながらのんびり歩いた。

お土産を物色しようと近くの建物に入り、いい具合にエアコンで身体を冷やして、また広場へと戻った。・・・ほんのいっときの間にかなり人影が増えている。それもほとんどが若い家族で、ベビーカーを押したりゴムボールを蹴りあったり携帯で写真を撮ったり、思い思いにそぞろ歩きを楽しんでいる。見る者すべてから幸せそうな笑顔がこぼれている。月もそんな家族たちを穏やかに見守っていた。

それは、行政に仕掛けられた精力剤のような日本の町おこしの人出とは違って、自然で自発的なにぎわいだった。平日の夜10時すぎに街で家族団らんを楽しめる――どんな経済指標よりも、こんな日常からにじみでる活気のほうが、国の若さや勢いを実感できた。と同時に、日本も高度経済成長期はこんな風景があちこちに充満してたんだろうなと思うと、それが過去形であることに寂しい気持ちになった。

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