櫻坂46 4th ARENA TOUR 2024 新・櫻前線 -Go on back? 感想
※ネタバレあります
今までの人生ベストライブは2009年サマーソニックのAphex Twin,2010年Sense of WonderのBoredoms、2015年渋谷O-nestのLightning Boltである。
ジャンルは様々だが1つ言えることはライブでしか見ることのできない異世界空間がそこにあったことであり、家でのリスニングとはまるで別個の体験をしたことである。
櫻坂にそのような片鱗が見えたのは櫻坂46「2nd TOUR 2022 “As you know?”」東京ドームだった。
ペンラ消灯を促されたオープニングから"流れ弾"までのブロックと、ラストの"摩擦係数"における鬼気迫る眼差しは、いわゆる「熱の入ったパフォーマンス」という形容を超えた、ライブならではの異空間が広がっていた。
ただ、逆に言えばそれ以外については今までのライブの域を出ているというほどではないとも言えた。
そこから3rdツアー千秋楽の"Start Over!"での藤吉夏鈴の自由なパフォーマンス
3rdアニラでのラストブロックでのそれぞれの曲の高次元での表現
小林由依卒コンでの曲自体のリミクスや世界観を壊さない映像を挟むことでのシームレスな演出
というように、2023年にかけてだんだんとその表現/演出/パフォーマンスのレベルを上げていった上での、櫻坂46 4th ARENA TOUR 2024 新・櫻前線 -Go on back?
そこにはまさに「ライブでしか見ることのできない異世界空間」が繰り広げられていた。
全体的な特徴としては、いわゆるMC/レス曲(観客とのコミュニケーションをする場面)が極端に少なかったことが挙げられる。
また、いわゆるバラード("五月雨よ"や"偶然の答え"など)やポップな曲("それが愛なのね"や"なぜ恋をしなかったのだろう?")もほぼなく、リズミカルかつハードな曲がほとんどだった。
それに呼応するように会場の音がかなり大きく、かつ曲間にも絶え間なく映像や音楽が流れている状況で、一気にその世界へと引き込んだまま離さない状態で本編1時間半を駆け抜けるようなものだった。
以前であれば曲数の問題もありどうしてもコンセプトの違う曲を差し挟まざるを得ず、そこで一度空気が変わってしまうこともあったが、4年間の歩みを経てある程度曲のストックが出来て、ライブ全体のコンセプトを一貫して提示できるようになったということだと考える。
またもう一つ現場で鑑賞して感じたのは、メンバー全体の身体性の向上である。
シンプルにダンススキルという話だけではなく、むしろ演劇やミュージカルのように、表情や体全体でその曲を表現する能力の進歩と言える。
私は今回ステージ右そばの2階席で、アリーナ/正面ではないもののかなり近くでパフォーマンスを見ることが出来たが、(抽象的な表現になるが)上から見て明らかにダンスを「踊っている」だけではなく、その曲を「表現する」というところまで出来ているメンバーが増えていたと思う。
それはただのスキルアップという意味ではなく、「ライブでのコンセプトに観客を引きずり込む」という今回の価値に寄与しているのは間違いない。
その点で更に言及すると、今回ステージが特殊な形状をしており
そのせいか"BAN"や"Cool"などで原曲の振りとは全く違うダンスをすることになっていた。
ライブバージョンもあることから今までやっていた振りを踊るだけではない曲が多くを占める中、あくまで全体で身体性を損なうことなくパフォーマンスできていたというのは、今までのような表情や一部メンバーのテンションだけで持っていくようなものではなく、2023年の櫻坂全体のレベルアップによるものだと断言できる。
その中でも特筆すべき曲を挙げるとするなら
まずは"何度 LOVE SONGの歌詞を読み返しただろう"。
スモークが炊かれたセンタステージにMVでも出た学習机がある。
そこにゆっくりと村山美羽が現れる。
その手にはラブレターのような紙があり、彼女はそれを読む。
そこから周りの3期生が登場し、イントロが流れ、曲がスタートする。
照明は白を基調とした簡素で舞台演出もセンターステージなので多くはない。学習机を使った3期生のパフォーマンスのみとすら言える。
それでも彼女らはこの曲を完全に表現、いや別レベルのものに昇華させていた。
MVの複雑な動きをライブで損なわずにやり切り、それだけではなく「恋に憧れる少女」というコンセプトに完璧に入り込み成り切る。
センターの村山美羽はそれだけではない複雑な感情を表現する。踊りは誰より振り切っており、それでもなお全く表情に強みはなく、むしろたおやかに微笑んでいる。
1サビ終わり白い照明とスモークの上で全体で机を組み直し村山美羽を中心にポーズした瞬間スクリーンに写っていた絵は、もはや美術作品のような美しさだった。
次に"承認欲求"
幕間のEDMから爆音のイントロ、MVや音楽番組どおりの揃ったパフォーマンスで2サビまではあくまでスタンダードなパフォーマンスだったが、2サビからのライブオリジナルパートが異常なヘビィさだった。
最低限の赤い照明とLEDが明滅する中、全盛期のSkrillexのような隙間のあるウォブルベースを響かせて各メンバーが渾身のダンスを披露する。
ただでさえハードな原曲にオリジナルパートを差し挟むことにも驚いたが、それをやり切るメンバーの体力にも驚く。
そのまま流れるように原曲の間奏にいき、観客が今日1のコールを叫ぶ中ラスサビへとなだれ込む。
終曲となった後の森田ひかるの表情はあくまで無表情だったが、逆にそれこそが往年の兵士を思わせた。
そして"Start over!”
まず幕間の映像がマザー2のギーグ戦のようなアブストラクトなVJだったのに驚いた。
イントロ自体は3rdアニラで披露したものと同様だったが、個人的にこの映像が流れる中不穏なベースがなるあの空間は端から見ると相当に異様だったと思う。
小林由依/土生瑞穂がいない状態での披露ということで、2番Bメロ小林由依と踊るパートは藤吉夏鈴が一人で歩く、2サビ土生瑞穂ダンスパートは藤吉夏鈴が代わりに踊るというやり方になっていたが、藤吉夏鈴が終始苦しそうな表情をしていたこともあり、ある種二人の喪失を表現しているようにも見えた。
個人的に"Start over!"は振り付けも相まって魔曲というか異様な儀式の感覚があり、特に爆音/屋内会場でこの曲を聞けたというのは相当な体験だった。
怪しい映像、シャッフル気味のリズム、ナスカ特有のメロディー、藤吉夏鈴の意図の読めない表情、各メンバーの渾身のパフォーマンスが渾然一体となって、今回特にライブ特有の演出がないこの曲が一番心に残ったかもしれない。
そして最後の"何歳の頃に戻りたいのか?"
何度も言うように今回のライブのコンセプトはヘビィだと思っており、異様な空間へと観客を引きずり込むその最終地点が"Start over!"だと考えているが、そこから一気に開放するラストとして最新シングルの"何歳の頃に戻りたいのか?"を使うという演出の妙に唸った。
もちろんこの曲もヘビィではあるが、センターの山﨑天も語った通りあくまでJ-POPマナーに沿った曲であり、そこが"Start over!"→"承認欲求"からの流れと沿わなかった面もあるが、このライブにおける立ち位置としては大正解だったと思う。(個人的に2019年欅共和国を思い出した)
特にラスサビの開放感溢れるパフォーマンスはMVを思わせ、私の耳からすると生歌に聞こえていて、もちろん本編ラストということもあり声が出ていないところもありつつ、むしろそれが"今を感じている"(by上野隆博)ということなのだろう。
山﨑天はラスサビ前で森田ひかる/田村保乃の手を取り前に出て、森田ひかると山﨑天がお互いを見合って笑っていて、本当に山﨑天は主人公なのだと思うし、私が以前のブログでキーワードとして挙げた"祝祭感"を担ってくれるメンバーがいるとしたら彼女か村井優しかいないと断言できる。
そして、その中で一人前曲に引きずられて苦しそうな表情をしている藤吉夏鈴がいることも、櫻坂の多様性を表しているとも感じた。
総じてラストブロックの"承認欲求"〜"何歳の頃に戻りたいのか?"は新境地とも今までの集大成とも言えたし、繰り返すがハードな曲の連打による没入感は今まで私が見てきた海外アーティストも含めた数々の名ライブに匹敵していた。
かつそれを曲だけではなく身体性を込めた全体のパフォーマンスで魅せるというコンセプトは同時代性だけでなく時代を先取りしたものとすら言えたと思う。
ここからはさらに私見が入るが、冒頭話した"観客とのコミュニケーションを最小限とする"(=あえてお笑い的な言い方をすると"降りない")というところが櫻坂の独自性だと考えている。
観客とのコミュニケーションを大事にすることももちろんライブのバリューの1つではあるが、欅坂時代から一貫して彼女たちはコミュニケーションせず"舞台の上での世界を作り込む"ことに重きをおいていた。
その極限が欅坂46 3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE 日本武道館だろう。
それが櫻坂になり、全体のスキルアップ、曲のポップ化からコミュニケーションをするようになるかと考えていた(実際アニラではある程度そのような価値観をもったライブパートもあった)が、今回のライブを見てやはり櫻坂のバリューは世界観の構築だと感じた。
スキルアップから手にした身体性とポップ化によるバリエーションをもって、多種多様な世界観を高次元で表現する。
3rdアニラではその多様性に感銘を受けたが、やはり2ndツアー東京ドームで私が感じた未来は深さであり、そこから地続きで表現されたのは今回のライブだったと思う。
6月に櫻坂の東京ドームでのライブが行われる。
3rdアニラより広い、2ndツアーラストと同じ会場で、今回のライブツアーを経た後に、どのようなライブを見せてくれるのか。
表現するのは多様性なのか、深さなのか?
目が離せない。