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なぜカナが主役なのか?映画『ナミビアの砂漠』が描く女性とは

”彼女に誰もが夢中になる”

数ヶ月前のTOHOシネマズのロビー。流れている館内映像で、カナを知る。思えば私はこの瞬間から、既に彼女の虜だった。

事前情報は予告のみ。学生時代に観た『あみこ』を監督した山中瑶子さんの期待の新作。山中瑶子監督の描く女の子には、一風変わった魅力が溢れているので、公開日が待ち遠しかった。

予告から「カナは自由奔放ではちゃめちゃなキャラ?人たらしでみんな恋しちゃう的なこと?」と思っていたけど、それは全くの見当違いだった。カナはかなり筋が通った生き方をしている。だから、この映画を観た私たちは気付けばカナに夢中になっているのだ。主役はカナだ。

あらすじ
世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。
優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか・・・?

公式HPより引用

カナが普段どう生きているかが詰まっている冒頭


冒頭。友人からカフェに呼び出されて、学生時代の知人が自殺したことを聞かされる。”普通”なら、知り合いが自殺したという時点で驚きや悲しさのような感情が表にも出るだろう。とりわけ仲が良くなくでもだ。現に、カナにその情報を伝えた友人も、頼んだデザートに口をつけるのも躊躇うくらいには表面では動揺を見せている。友人は自殺の前日にその子と電話をしたと話すが、その話にもあまり興味を持てないカナ。

とは言え、友人の話を聞こうと応対しようと努力する姿勢は見えるが、どうしても他の客の下品な話に耳がいってしまう。カナが聞こえている音。それを映像と音声で巧みに表現されている冒頭シーンからもう、物語に惹きつけられてしまった。

帰りたくなさそうな友人に気を遣い、ホストクラブに飲みに行くカナと友人。「ここで物語が発展していくのか…?」と推測していると、颯爽に店を出てしまうカナ。混沌とした飲屋街にて、見知らぬホストから有る事無い事、悪口を言われる場面。

このシーンでも、カナが女性としてどのような視線に囲まれながら過ごしているのかが感じられる。この時代でも、現代の女性が、男性から下に見られることはまだまだたくさんある。そんなことも揶揄しながら、物語は始まっていく。

ハヤシとホンダ。彼氏は二人


ハヤシとのシーン。当初、野蛮な見た目と堂々とした態度のハヤシに、カナは遊ばれているのではという印象を持ってしまったが、実際に二股をかけて遊んでいたのはカナ。

ハヤシの口から出た「別れてくれない?」という言葉は、”俺と”別れてくれない?ではなく、”彼氏と”別れてくれない?だったのか!と、歩道橋にて満面の笑みで丸を作るカナの表情でスッキリ判明。

同棲しているホンダがたまたま出張で風俗に行ってしまったのをいいことに、ホンダと別れる絶好のチャンスを得たカナ。ソファーに座り、悠々とした表情のカナはまるで女王様のようだった。

カナとハヤシが同棲を始めて迎えた初めての朝。部屋に小虫がいたようで、ハヤシは床や宙を手でバンバン叩き、潰そうとする。ゆっくり寝ていたいのに、その大きな音を不快に思うカナ。二人にとっても初めての”生活のずれ”が始まる。カナにとっては小虫が飛んでいることより、休みの日の朝を大きな音で起こされる方が不快なのに。

「幸先悪いな」と呟くハヤシ。ハヤシが仕事で出て行ったあと、カナは金子の荷物の中から赤ちゃんのエコー写真を見つける。

私はここで、ハヤシの最近のものなのか、過去のものなのか、カナのもの?(タバコを恨むように擦り付けている方違うか)などと思いを張り巡らせる。

ひとりの時間も欲しいハヤシ。お腹が空いたら一緒にご飯が食べたいカナ。映画が進んでいくごとに、カナの声が聞こえる。

「なんか、面白くない」

元彼・ホンダの襲来


ある日、仕事終わりにカナが帰宅しようと歩いていると、職場近くで待ち伏せしていたホンダが待ち構えていた。

よりを戻したそうなホンダに「出張中、中絶した」と嘘を吐くカナ。

もちろんカナの言うことを信じて、ショックで泣き喚き崩れ落ちるホンダを見て、全速力で逃げていたカナは逃げる足を止め、彼に笑いながら歩みよる。

自宅のシーンに移り変わり、仕事で脚本を書いているハヤシに「何してたと思う〜?」と試すような発言をしたり、エコー写真を見せながら「赤ちゃんへの罪滅ぼし?」と、悪態をついたりするので、「あれ?もしかして自分をこよなく愛してくれそうな元彼のとこ戻る?」とか思ってみたり。

「そんなの一瞬で理解してくれ」という突っ込みたい方はご容赦いただけると。とにかく私は、多くを語らないカナに「え?どういうこと?
あ!そういうこと!」の繰り返しをしていくたびに、カナの虜になっていたのだから。

何らかの”現実ではないシーン”は解離を示す?


そんな中、画面の右上に出るワイプ。ピンク色の部屋で、ウォーキングマシンで歩きながら、スマホで、自分とハヤシの喧嘩を他人事のようにぼーっと観ているカナ。

走っても走っても進まない。仲直りしても仲直りしても喧嘩。

そんなカナの頭の中を映像化したよう。

ピンクの、このシーンなに?!え?!!って思っているうちに集中力なんて全然途切れない。

ちなみに、作品名である「ナミビアの砂漠」は世界遺産の「ナミブ砂漠」のこと。「ナミブ」は主要民族であるサン人の言葉で「なにもない」という意味。スマートフォンでライブ配信されている「砂漠」を、ぼーっと見続けるカナが思うことはなんだろうか。多分、この動画を見ているときのカナは何も思っていない。

ピンクの部屋で喧嘩の映像を観ているカナも何も思っていないだろう。

ラストシーンは元彼が作り置きしたハンバーグ



平気で嘘はつくし、いわゆる道徳感もなければ、喧嘩をふっかけたり、ふっかけたくせに相手が反論すると被害者ぶったり。

でもこんなカナの人柄はわたしの中にもあるな。わたしの中にカナを見つけて、なんだか目で追ってしまう。

と個人的に、遠山とカナがキャンプ場で『キャンプだホイ!』を歌うシーンがシュールで、妙に現実感もあるような感じもあって好きだった。

ビデオ通話で、異国にいる母たちと中国語を話すカナ。

「え、意外性?ギャップ?か分かんないけど、なんか中国語話せるのかっこいい……!ハヤシの手前、ちょっと照れながら簡単な言葉だけ話している可愛い!!」って思いませんでした?

いつもの掴み合いのすったもんだ喧嘩の後に、元彼が冷凍保存しておいてくれたハンバーグを、知ってるんだから知ってないんだか、2人で食べる。そういえば冷蔵庫運んでたわ……!ここに繋がっていたとは。クスッと。

ハンバーグに大して手をつけていなかったカナは、通話が終わるとやっとハンバーグに手をつけ食べ始める。

そんな、短くはない137分。

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