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熱帯を抜けた先は新たな熱帯

 この春、私は秋田の自宅でそこそこ懊悩していた。
 次にどんな言葉を綴ればよいか分からなかったのである。
 敬愛してやまない森見登美彦氏の『熱帯』という摩訶不思議な本によってもたらされたあの日々に関して、生みの親である森見氏、そして氏を慕う紳士淑女の皆さんと、一緒に読み合い話し合う読書会、『沈黙しない読書会』に参加するという、今年度のオモチロイで賞に間違いなくノミネートされる出来事を控えており、心上の空ソワソワしている。


  『熱帯』を通り抜けた(読み終えた)先は最初とは違う『熱帯』であるが、これをわかっていながら読んでいたとしても、読んだあなたがたどり着く先はあなたが想像していた『熱帯』ではないのである。仮に、最初の熱帯を『熱帯±0』とし、読み進めていく間で『熱帯+1』にたどり着くんだろうなぁとぼんやり思っていたとしても、最後に辿り着くのは『熱帯+2』や『熱帯-1』などである。しかも、この一連の流れは二度と起こらない、唯一無二の出来事なのである。最初の熱帯=A、最後にたどり着くと推測する熱帯=B、たどり着いた熱帯=Cとして、A≠B≠Cという式が成立する。
 そして上記の式が成立すると考えると、私たちは熱帯を読めば読むほど予測不能な新たな熱帯に出会い、こうして『熱帯』は宇宙の如く無限に広がっていくのである。

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