見出し画像

職人歌合から見る職人像の移り変わり①

皆さん、こんばんは。
恐らくこの話をあげる頃には日付が変わってそうな気がします。
が、気にせずサクサク進めてしまいます!
今回は平凡社ライブラリーから発刊されている網野善彦『職人歌合』を基に職人像の変化を3回にわけてお送りします。


職人歌合とは

まず最初に、タイトルの職人歌合(しょくにんうたあわせ)は、日本中世時点ではおそらくこのような題名ではなかったそうです。
網野先生曰く、中世後期から江戸初期にかけてこのような通称をされたと考えられる。
また、研究が本格的になってきたのは1980年代前後になってから、国文学、和歌の分野の方々や歴史学の分野からもほぼ並行して行われてきた。

そんな前置きを念頭になぜ職人歌合という名がつけられたのか。
それは各種の職人、職能民が左方と右方に分かれて番いをつくり、それぞれが和歌を詠み、どちらが優れているか、という勝ち負けの判定をやはり職能民である判者(経師、神主、勧進聖)が行なうものだからです。
と言っても和歌は職人自身が詠んでおらず、貴族や僧侶が職人に仮託して……つまりなりきって詠んでいるものです。
今で言うとイメージはVTuberとかXの中の人的なものがめっちゃ身分というか社会的地位の高い人がやっている……とかに近いでしょうか?
成立時期については、網野善彦先生ご存命の頃はまだ定説がなく、それでも遅くとも14世紀以前か15世紀後半だろう。と指摘されています。
この辺りは時間に余裕があれば最新史料漁ってもう少し調べてみたい課題ではあります。

日本の職能民の歴史

日本は江戸時代まで社会的な分業が未成熟であり、国家成立以前から活動していた多くの職能民を品部・雑戸というかたちで編成して、それぞれの官司に所属させていた。
品部・雑戸や職能を世襲している氏の中から、技術を教えることを任務とした「長上官」という常勤の官人を採用もしていた。
官位をもった技術官人たちは、職能官人たちとしての地位だけでなく、一般の官人に昇進する場合も広くみられた。
手工業者だけでなく、海民、山民、さらには女性を含む狭義の芸能民についても同様である。
これにより、特定の職能的な氏族が、特定の官司とその業務を世襲的に請け負うという体制が、だいたい11・12世紀にかけて固まってくる。

たとえば、典薬寮には丹波氏・和気氏、陰陽寮には安倍氏、主計寮、主税寮と太政官の事務局には小槻氏である。

鋳物師の場合は、蔵人所に所属し、このような人々は12世紀以降しばしば供御人と呼ばれた。

『二中歴』という鎌倉時代にできた一種の百科辞書のような書物の中で「一能歴」という部分があり、職能についていくつもの分類項目があげられている。(平安時代中期の人)
第1グループには、明経道、明法道、算道、陰陽師、医師、宿曜師、禄命師、易筮(筮竹をもった易者)、管絃人、近衛舎人、武者、楽人、舞人、鷹飼、鞠足→官人的な職能民

第2グループには、絵師、細工、仏師、木工のような手工業者、あるいは相撲のような官司に所属する者

第3グループには、人相見をする相人、夢解、囲碁・双六、呪師、散楽、遊女、傀儡子、巫覡(巫女)→狭義の芸能民、呪術師

第4グループには、勢力のある人ー勢人、徳のある人、富裕な人ー徳人、良吏、志癡、窃盗、私曲など→常人と異なる状況にある人、ふつうとは異なる行為をする人

以上の4グループが紹介されています。
一部、これって職業なの?というものも含まれていますが、鎌倉時代辺りまではこのような分類だったようです。

本日のまとめ

今回は職人歌合の冒頭を紹介しました。
網野善彦先生は、西洋との比較も書かれているのでぜひ気になる方は本を読んでもらえるとその辺はいいかと思います。
私は、今回この職人歌合を取り上げたのは、猿楽というと河原者などといった差別の話しを連想する方もいるだろうと考え、ではなぜそのような職業差別する意識が形成されたのか。
また、職人歌合の本を読み前回ご紹介した有徳人思想も今回紹介した第4グループから来たのでは?と推理したことが正解かはわかりませんが、考える一助になればと言う思いからです。
室町時代以前から差別される職業なのに先祖代々だからと果たして猿楽師たちは渋々していたのでしょうか?
観阿弥、世阿弥親子も人様に恥じる職業だと最初から思いながら能へと発展させる、などと言う意識になり得たのでしょうか?
そのように疑問を持ち、猿楽師をはじめ女性の職業や今なら有り得ない職業などが日本中世以前には職業と認識されていたことを網野善彦先生の著書から学んだことを抜粋していきます。
次回の職人歌合は、前期、後期の5つの絵巻を元に社会の変化を紹介したいと思います。

また次回もどうかお付き合いくださいませ。


よろしければサポートお願いします!いただいたサポートは史料収集など活動として還元いたします。