超短編小説「猫の知らせ」

「行ってきます」

隣の家の住民を起こさないように気持ち静かめにドアノブを回して外に出る。

深夜2時に外出するこの感じは、子供の頃に戻ったように冒険感があって今年28歳になった今でもワクワクする。

扉を開けると生ぬるい風が顔に直撃する。

この時期だからしょうがないけど、どうせならまだ「さむっ」って言ってしまうような風の方がいいなんて思ってしまう。

カランカラン

と音がする階段を静かに降り、道路に出て左右を見渡すと当たり前だが人誰一人いない。

この世界に自分だけしかいないような、そう思わせてくれるこの時間が好きだ。

更に5分ほど進み、住宅街の中にぽつんとある神社の中へ入っていく。

正直、この時間へ神社へ行くのは怖い。人なんていればびっくりするし、ひょっとして人じゃない誰かがいるかもしれない。

でも"アレ"が今日も僕を待っている。

そう思ったと同時に嫌な感じがして勢いよくハッと後ろを振り向く。


しかしそこには何もいない。

「こういう時は上に何かいるんだっけ笑」

なんて更に恐怖の妄想をかきたてるがすぐにまた怖くなった

心の中でドラえもんの曲を歌って怖さをかき消す

そんなこんなしているうちに境内の中に入り、お賽銭箱に5円を投げ入れお参りをする。

ただこれが本当の目的ではない。

少し奥に行き「くろー」と小さな声で呼ぶ。

「くろ」とは子猫で数ヶ月ほど前にこの神社の前を通った時「ニャー」と階段のところで鳴いていたのだ。

やせ細って弱っている姿が可哀想に思えて近くのコンビニでちゅーると牛乳を買ってあげると急いで食べている様が可愛く、数日に1回こうやってご飯をあげにきている。

草むらの所からガサガサっと音がして視線を向けると、くろが出てきた。

「くろー!」と寄るがいつもと雰囲気が違う。

いつもなら「ニャー」と走りながら近寄ってくるのに今日は近寄ってこない。

そしていつもと目の感じが違う。

「どうしたの?くろ」と言いながら近寄ると「シャー!」と言いながら猫パンチを繰り出された

こんなことは初めてだ。服装が違うから僕だと分からないのか?いや、そんなはずは無い…

おかしいとは思うが、くろもその場から離れない。

深夜3時前の神社に嫌な空気が流れ、数分の間くろと無言で見つめ合う

カン

ザッ

ん?

なんだろうこの音…

不思議に思って立ち上がり周囲を見渡す

しかし暗闇の中で何も動く気配はなくシンと静まり返っている

気のせいか…。なんて思いながらまたしゃがんでくろが近寄ってくるのを待っていると、くろが怒ったような怯えたような何とも言えない顔をしながら「シャー」と弱々しく鳴く

何だか変だなぁ…

なんて思いながら、ポケットからチュールを取り出そうとしたその瞬間

カン

ザッ

と聞こえてくる

今度ははっきり聞こえた、その音の正体が気になりまた立ち上がる

確かもっと奥、くろがいる奥側から聞こえたような…

くろが出てきた草むらの方へ歩いていこうとすると、くろがしっぽの毛を逆立てながら「シャー!!」と鳴いている

まるで

くるな!

とでも言うように

しかし好奇心が勝った僕はくろの横を通り草むらの中へ入っていった、何となく隠れながら…

その間も

カン

ザッ

という音は聞こえてくる

するとくろが後ろから突然足に飛びついてきた

爪と歯が足に刺さり思わず

「痛っ!」と声を上げてしまう

すると

ガンッ!!

と一際大きな音がなり静寂が訪れる

ゾゾッと背中に何かが這い、脳が危険信号を伝えてくる

これは振り向いてはいけない、絶対に何かがいる

しかし僕は振り向いてしまった


するとそこには

木に人形を打ち付けている女がいた

服はボロボロで靴なんか履いていない

手にはハンマーを持っている

大きな瞳はギョロっとしていて

大きな口はにたりと笑っている

足が震える

その女がこちらに体を向け走り出すのが見えた

やばい!

全身に鳥肌が立ち、思いっきりつまずきながら来た道を全力で走る

しかし上手く走れない、足がもつれて走り出してはすぐ転けてしまう

そして転けた瞬間に運悪く右の足を挫いてしまった

しかし命の危険を感じると人間は物凄い力が出る

懸命に走りながら全てを悟った

くろは「来るな!」と言っていたんだ

そういえばくろは?

まさかあいつに捕まってたり…

一瞬振り向こう、一瞬だけ

そして振り向いた瞬間



グチャッ






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