台湾 台北7時間観光
台湾を観光してきた。今回もすでにnoteに記事を書いている石垣島や沖縄と同じクルーズ旅行の寄港地のひとつなので、観光できるのは船が出航するまでの限られた時間だけ。特に台湾は外国だからなのか船の滞在時間が短く、ギリギリまで粘っても6~7時間しか観光できない。
はじめて訪れる国で、地理も交通もわからない。そういう時はもう現地ツアーに参加するのが手っ取り早い。調べるとクルーズ船と提携したバスツアーがたくさんあった。
船が停泊するのは基隆という港町。基隆はジブリ作品のような景観で有名な観光地なども近くにあるらしいのだが、せっかくの初台湾は台北に行ってみたい。
というわけで「台北お勧めスポット巡り7時間バスツアー」に参加することにした。
朝起きると船はもう基隆に停泊していた。船室から見える風景がすでに異国だ。アジアの異国は独特の雰囲気があって好きだ。知らないのに知ってる感じ。
港には海軍っぽいコワモテの船も停泊していて、海外に来た実感が出てくる。
入国審査の時に飲食物を持ち込むなとかなり強めに警告された。船で朝食に出た果物などをバスの中で食べようなどと思って持ち出すと大変な目に遭うらしい。「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」と書いてあるプレートを掲げた職員さんがひとりひとりに声をかけてくる。かなり重めの罰だと思うが、厳格に適用されるらしいので本当に気を付けた方がいい。
特に問題もなく無事に入国した。すでに漢方薬の匂いが漂っている気がする。お土産やつまみ食いに使うかもしれないのでニュー台湾ドルに1万円分を両替しておいた。港の簡易両替所なのでレートが妥当なものか不明だったがしかたがない。手数料で千円分くらい取られたかもしれない。
外に出ると、周囲を見渡す間もなくバスに詰め込まれた。とにかく時間がないらしいのがわかる現地スタッフの急ぎっぷりが気になる。装飾が施された観光バスに乗り込むと、台湾人男性のバスガイドさんは上手な日本語で「さあ、タイペイまで参りますよ~」と言った。
ガイドさんがツアーの行程を軽く教えてくれた。基隆港から台北までなんと1時間ちょっとかかるという。7時間ツアーのうち2時間は台北までの往復だけで消費してしまう。無理に台北まで行かなくてもよかったかなと一瞬思ったが、もう遅い。乗ってしまったツアーバスに身を任せるのみだ。
タイペイに着いてからは大変ですよ、トイレ休憩10分取ったらもう間に合わないかもよ、盛りだくさん。とガイドさんは笑って言う。この時はまだ乗客全員がガイドさんの冗談だと思っていた。
車窓から見える台湾の風景は、可能な限りと言う感じで集合住宅が密集していた。口数少ないガイドさんがぽろっと「台湾は一軒家ほぼないです。夢のまた夢。一生アパートマンション」と言った。古い建物も多く、崩落の危険があるので廃墟ビルには近寄ってはいけないらしい。
高速道路に入るとバスガイドさんは座っていよいよ何も喋らなくなった。このツアーを通して移動中の観光解説はほとんどなかった。
高速道路が少し渋滞していて、1時間を超過して台北市内に着いた。台北の第一印象としては東京都豊島区のあたりに見えなくもない。
まず朝の市場に行きますよとガイドさんが言う。行くのは歴史ある南門市場という台北でも1番の規模の市場だという。いいぞ、異国の朝市なんて最高の観光じゃないかと思ってわくわくする。
でもね、とガイドさん。「残念だけど今日は市場お休みの曜日ね、あと移転予定があってもうすぐ市場のビルは取り壊しだよ」だって。えー?
到着した市場、活気がない。人がいないし店が開いていない。我々の歩く足音だけが静まり返った市場に響く。奥の方で男性が一人で黙々と米粉クレープを焼いていた。もっと奥で女性が野菜を箱に詰めていた。それだけ。こんな寂しい市場見学みたことない。市場飯を屋台で食べるとかそういうのはないの?
「食事は後で考えてるからね。今のうちにトイレ行ってください、5分しかないよ、遅れると船が出ますよ!」
時間そんなに押してるのになんで休みの日の市場なんかに来たのと乗客は口々に言うが時間がない。トイレに行かねば。
「トイレは紙を流しちゃダメですよ!詰まるよ!お尻を拭いた紙はごみ箱に捨てるよ!トイレの紙は入り口で1回分取って行って」えぇ??ちょっと待って。ガイドさんの言うトイレ情報が多すぎて理解が追い付かない。
まず、台湾では基本的にトイレにトイレットペーパーは流していけないらしい。下水管が細いので詰まるそうだ。新しい建物なら流せる可能性もあるが、その場合は流せますと明記してある。そうでない場合は絶対流してはいけない。
日本の感覚では汚い話のように思うが、使用したトイレットペーパーは便器の横にあるごみ箱にそのまま捨てる。だからトイレは臭いや虫がすごい事になっていることが多い。
そして、トイレットペーパーは各個室にはない。トイレ入り口に巨大なドラムロールがあるので、そこから各自使う分を取ってからトイレに入る。
クラクラしながらトイレを出ると、もう点呼がはじまっている。これはとんでもないツアーに参加したかもしれないぞと思いはじめていた。無事に船に戻れるだろうか。
次は問屋街いきますよ、漢方とかお茶とかあるよ。とガイドさん。漢方のお土産は興味ないけれども、同乗の年配のツアー客には楽しみにしている人もいるだろうなと考えていると「買い物ゆっくりする時間はないからね!お店ちらと見たらバスに戻ってね!」だって。何だこのツアー。
本当にほとんど撮影する暇もないままバスに戻らなければいけなかった。近くにあった漢方の匂いが強いお店を一軒だけ見たけど、陳列されているのが干し鮑とか乾燥帆立とかで乾物屋みたいだった。というか乾物屋だったんじゃないのか?クレジットカード使えるということ以外なにも店員さんから聞き出せなかった。
それにしても街並みは素晴らしい。昔好んで読んでいた伝奇アクション小説の舞台のようだった。
「お腹空いたね!お待ちかねの飲茶ですよ。それも台北101タワーで食べるよ、やったね」
言われるままに台北101の近辺でバスを降りると、そこはほとんど新宿だった。このLOVEの街頭アート、西新宿にあるやつと完全に同じじゃない?と思って調べてみたら、ロバート・インディアナと言うアーティストの作品で世界中の都市に同じものがあるらしい。
台北101は真下からだと大きさがよくわからない。少し離れて見ると格好良い。特異な形のビルで、飲食店の他はハイブランドの店しかないという。ドバイのブルジュ・ハリーファに抜かれるまでは世界一高いビルだった台湾観光の目玉だ。さすがに台北101の中を散策する時間くらいあるでしょう、何ならツアーのメインじゃないんですか。と思っていたら、ガイドさんが言う。「飲茶のお店は混んでるから私について入店しないと食べられないなるよ!お買い物行っちゃダメ!ここで待ってて」
101に入ってみれば本当に飲茶のお店は激混みで、どこに列があるのかわからないくらい人でごった返していた。観光地の有名店だからしかたない。お店のマネージャーっぽい人とガイドさんが交渉をして、なにか頼み込んでいるように見えた。時計を指さしたり手を合わせて拝み倒したりしている。そういうの現地でやるのかと眺めていると、ガイドさんが振り返り、笑顔で「入店できるよ!」と叫んでカモンカモンと手招きした。交渉失敗してたら入店できなかったのではないかと不安になる喜び様だった。
奥の特別ルーム的な所に通されて食べた飲茶は超美味しかった。テーブル給仕を担当してくれたのは2人の女性。たぶんアルバイトで、まだ高校生くらいに見えたが完璧な日本語でサービスをしてくれた。英語話者に対しては英語も流暢に使いこなしていた。すごく高い能力を有しているのが明らかな人材ばかりで、国際的な観光客の相手を多くする台北101でバイトをするような人たちは今後も各方面で大活躍するのだろう。
それにしても小籠包、何種類か出てきたけどどれも美味で最高だった。写真はモリモリ食べている僕が写っているものしかなかったので割愛する。
食後、もしかしたら今がチャンスなのではないかと思い、ツアー客の皆さんがまだ食べている間に「皆さんが食事している間に101の中を見てきます!」とガイドさんに伝えて店の外に飛び出した。飲茶店に戻るまで許された時間は20分。今だけ101の中を散策できる。それを察した元気なツアー客の何人かが僕の後についてきた。後ろでガイドさんが遅れないようにとか何か言っているのが聞こえた。
世界二位の高いビルである台北101に来たなら展望階だ、展望台エレベーターに乗って最上階から台北の街を見たい。探すまでもなくすぐに乗り場を見つけた。展望階までの超高速エレベーターは有料でNT$600。つまり日本円で2800円くらいする。
横にいた警備員のお兄さんに「このエレベーターに乗って、降りてくるのに往復で何分かかりますか?」と聞いた。日本語では通じなかったので英語で聞いた。どうやら日本語も英語も通じない。しかし警備員のお兄さんはメモ帳を取り出し、漢字だけでこんなことを書いてくれた。「不制限観覧時間。随意逗留」。意味は分かるがそうじゃない。でも親切にしようという気持ちは伝わったので謝謝、thank you。ありがとう。行ってくるよ!と笑顔の警備員のお兄さんに伝え、チケットを買った。2800円、安かない。それよりとにかく時間がない。エレベーターには待ち時間5分と書いてあった。並んだ。残り時間15分。
耳が痛くなる高速エレベーターに乗って、1分かからずに展望階へ。そこはSNS時代の超高層タワーらしい場所だった。フロア全体が写真映えのためにレイアウトされている。恐ろしいほどにフォトジェニックの追及がなされた場所だった。徹底している。
展望は素晴らしい。天気が良くて遠くまでよく見えた。大気汚染物質の関係で遠くまで見通せる日はあんまり多くないらしいのでラッキーだった。
いろいろな国からの観光客で溢れるフロアを素早く一周して、降りるエレベーターを見つけた僕は戦慄した。メチャクチャ並んでいる。今すぐ並ばなければ絶対に間に合わない。即座に列に並んだ。展望階で景色を見た時間は数分だった。
冷や汗をかきつつ飲茶店まで走って戻ると、「あー!来た来た!」と僕を見つけたガイドさんが手招きする。遅れてはいないが心配をかけてしまったようだ。勝手に動いて申し訳ない事をした。他の101見学組ももう戻ってきていた。「展望階いったの?!高いでしょう。高さじゃなくてお値段よ?もったいないね、そしてよく間に合ったねぇ」と話しながらガイドさんが僕の肩を抱いて歩く。離すと僕がまたどっか行ってしまうのを心配してるかのようだった。そのままバスに連行された。そのとき龍山寺と青草巷は両方合わせて30分しか時間がとれないぞ、とガイドさんがブツブツ言うのを聞いてしまった。ガイドさんもずいぶん追い詰められて気の毒だな、などと思う。
数分で到着した龍山寺は立派なお寺で、街中にあるのに広かった。色の使い方が日光東照宮のようでカラフルなお寺だった。
お堂の前でミカンの実のような木彫りを二つ投げ、落ちた向きが互い違いならハッピーになるという伝承を教えてもらった。僕も投げてみた。何度投げても同じ向きになる。ムキになって拾っては投げ、7回目くらいでやっと互い違いになった。振り返るとツアーは僕のミカン投げ待ちであった。
ガイドさんが僕の肩を抱いて歩く。「ここは私が奥さんと結婚できますようにってお祈りに来たお寺だから御利益あるよ」とか言いながら僕がどこかへ行かないようにしている。要注意人物としてすっかりマークされてしまったらしい。
このまま少し歩きますよ、と寺を出てぞろぞろと歩くとすぐに青草巷という漢方薬の店が多い通りに出た。しかしその通りの入り口で漢方飲料を一杯だけ試飲したらバスにもう乗ると言う。元気になると言う漢方薬汁は不味くて飲み込めなかった。
最後にティーハウスでお茶を飲みますよ、間に合ってよかった。と、ガイドさん。茶屋は時間に厳しいらしい。台湾茶道のようなものがあり、その師範のような人がいるお店なのだそうだ。
到着したティーハウスは台湾には珍しい一軒家で、しかもかなりの佇まいだ。この外観ではツアーでなければ絶対に入ろうと思わないなと思いつつ中に入ると、小綺麗な空間が広がっていた。
台湾の茶の作法は日本茶道とは全く違っていて、とても面白かった。中国茶の淹れ方を詳しく教えてもらえた。小さいカップに何度も淹れる。淹れるたびに味が明確に違ってくるので面白い。最高級だと言って出された茶葉は本当にかなり美味しかった。
各自教わったやり方で自分でも茶を淹れる。横に師範がいて指導してくれる。師範は台湾のお茶の先生と言われてイメージするそのままの女性で、繊細で優雅な動きだった。僕が淹れると、味はともかく指の動きがエレガントで大変よろしいと褒められた。家で練習してまた来なさいと言われた。
そのまま高級茶葉2種類を、ひたすら淹れては飲んだ。たぶん1リットルくらい。お腹がタプタプになるまで飲んだ。
このツアーは時間的な余裕がなさ過ぎてよろしくないと僕は思うのだが、一番まずいと思ったのはこのティーハウスが最後の観光場所で、その後は基隆港に戻るだけというプランにした事だと思う。あんなにお茶をがぶがぶ飲んで、高速道路1時間かけて港に戻ると言う。トイレ休憩なしで。
バスに戻ってガイドさんが言う。「お疲れさまでした。いろいろ急ぎ足で見たけれども、後は出港時間に間に合うように港に行くだけね」ざわつく車内。乗客の一人が手を挙げて質問する。「お土産を買うのはどこで?」すると「ないよ!お買い物時間はこのツアーないよ!港で買うしかないよ。もう時間ないから」と言う。ウソでしょ。こういうツアーって提携してるお土産屋さんに寄ってそこでお金使わせるものじゃないの?
乗客たちはお茶でタップタプのお腹を抱えて、バスに揺られる。港に着くまで尿意が来ないことを祈りながら、おかしなツアーに参加してしまったと思いながら。
基隆港に着いたらガイドさんにお別れとお礼を言い、みんな港のトイレへ走ったはずだ。僕は見ていない。せめて台湾限定のお菓子などを買おうと港近辺でコンビニを探していたからだ。コンビニの品揃えは日本で売っているのとほとんど変わらなかった。
港の中に入ると、出国審査の受付の前にお土産屋台みたいなのが広がっていて、お土産を買いそびれたツアー客たちが集まっていた。少々割高なような気がするが、しかし台湾のお土産はもうここで買うしかない。全く使いどころのなかったニュー台湾ドル紙幣を使って、観光地マグネットとパイナップルケーキを買って船に戻った。
出航まで30分というけっこうギリギリな時間だった。
本当に駆け足で連れ回された感じで、各場所の歴史や逸話などもほとんどわからないまま降りて、見て、次の場所へ、というバスツアーだった。解説もほとんどなく、正直言ってあまりお勧めできるツアーではない。海外で現地バスツアーを利用するのはよくよくレビューなどを吟味してからにしようと反省した。僕自身もっと台湾について予習が必要だったし、往復2時間かけて無理に台北まで行く必要もなかったかもしれない。
それでも個人で台北まで鉄道などで行ったとしても、今回と同じくらい濃密には観光できていないはずなので良しとしたい。それをやっていたらたぶん台北101で4時間過ごして終わっていた。
それにしても台湾のことをほとんど学べていない。次に来るときはもう少し下調べをして、バスツアーはやめておこうかな。次回は台北以外がいいかもしれない。
別れを告げる警笛が鳴り、ゆっくり船が動き出すと基隆港の湾港作業員さんたちが船に向かって手を振ってくれていた。僕もベランダに出て、次はもう少しゆっくりしに来ますと呟きながら手を振って別れを惜しんだ。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?