体験談A①
この物語はフィクションです。
職場の後輩にあたる女の子から聞いてほしい話があると言われ、近所の古びた喫茶店へランチへ出かけた。
ナポリタンを食べ終わり、煙草を吸いながら彼女は話し始めた。
「私ね、見ちゃったんです。海に沈んでいく人を。」
彼女の話では、彼氏と海辺のレストランに食事へ行った先でテラス席から海を眺めていたところ
海の中へゆっくりと進み沈んでゆく男性を見たのだそう。
それが、彼女がこれから語る出来事の始まりだったそうだ。
「はっきりと見えたわけじゃ無いんですけどね、男性だったと思うんです。彼氏にも慌てて言ったんですけど、指をさしても見えないっていうし
その内私の視界からも消えっちゃったので見間違いかなって、
だからもうその場ではそれ以上言わなかったんですけどね。
ただ…」
急に言葉に詰まる彼女
促すように
「ただ?どうしたの?」
そう聞くと彼女は、少々話し辛そうに続けた。
「それから時々、あの時の男の人が見えるんです。
それで気が付いたんですけどね
海の中に入って行ってるんじゃなくて、どこを見ていても同じ距離感でその人が歩いている様子が見えているだけなんだって。
人ごみの中でも、橋の上でも、公園や空き地でも、同じように同じ距離感であの男の人が歩いて遠ざかっていくのが見えるんです。」
私は気になっていたことを彼女に尋ねた。
「それって全く知らない人?」
「多分…そうだと思います」
彼女が明確に答えらえないのには理由があった、
彼女が見ているのは男性の背中側だけで顔は全く見えなというのだ。
ただ彼女の近しい男性に亡くなった人はおらず、その後ろ姿にも見覚えは無いという。
「その内に見えなくなるんじゃないかな?特に実害があるわけじゃ無いんでしょ?」
話を聞く限りそこまで困っている様には聞こえず少し冷たいことを言ってしまった。
だが、むやみやたらと恐怖心を煽るような事を言うのもどうかと思う。
「実害ではないかもしれないんですけど、最近私の彼氏も同じ男性が見えるようになったんです。
一緒にいる時に同じ方向みてぼーっとしてることがあるな、と思って聞いてみたら
見えるって、
それまで私がその男性の話をしてても気のせいだって流されてたのに、
ほんとはここ最近自分も見えてるって言いだして、」
状況が変わった
彼女と長い時間過ごすとその男性が見えるようになるのかもしれない
私はだんだんと興味が出てきた
「ねぇ、今夜あんたの家泊っても良い?」
「良いですけど、見えるようになるかもしれないですよ?」
とても怖がっている風には見えない笑みを浮かべ、待ってましたと言わんばかりの勢いで彼女は続けた
「今晩仕事終わったら飲みに行きましょ、そのまま家に泊まってください。」
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