紙魚

小さい虫が私の手の甲に留まり、ちょこまかと動いている
じっと見てみれば、紙魚である
げ、と思いつつ、指の腹で潰してやっつける
この湿気た時期の名物である
紙魚は、私が、中学1年生の頃、だから、11年前くらいに
私の部屋から湧いて出た
それからずっと、こういう湿気た時期になると目にするが、
11年経った今でも、なかなか見慣れない容姿である
紙に魚と書いて、シミと読む
別名、本の虫とも言われるが、
そんなに可愛らしい生き物ではない
身体のサイズは、大小さまざまで、
大きいものだと、人差し指の第一関節ほどの大きさのものまでいたりする
形は、フナムシに似ている
動き方が絶妙に不気味である
俊敏で、スルスルと身体をくねらせながら動くのである
まるでそう、魚なのである
そんな虫が、この時期になるとウジャウジャと湧いて出てくる
気味が悪いったらありゃしない
私の家が田舎にあるので、田舎特有の現象なのかと思い、
昔、同じ田舎の中学に通っていた知り合いに、紙魚という虫は知っているか
と聞いたことがある
答えは、ノーだった
どうやら、田舎だからという理由ではないらしい
私の家が理由らしい
思い当たる節はある
紙魚の別名は、本の虫
この名前の由来は、、
紙魚が、本の多い場所を好むことからである
そういえば、私の家には本が多い
少年時代から増えるだけ増え続ける本の量
今では私もその本の増加に加担している
だからなのかもしれない
とはいいつつ、本を捨てようとか、手放そうなんていうふうには
思わない(私も実質本の虫なのである)
今月中に、私は江戸へ下る予定がある
その時に、一切の本も携えるつもりなので、
恐らくそれに伴って、紙魚たちも新居に連れ込むことになるだろう
とすれば、私の一室を中心に、他人様の住まいにも紙魚が移り住み、
マンション一帯が紙魚の巣窟となるであろう
どこから湧いて出るだろうかな
本の多いところといったが、紙魚は湿気た場所をも好む
湿気た場所と言えば、風呂やトイレだろうか

うむ、想像してみよう
例えば、鼻歌を歌いながら、シャワーで髪の毛を洗っているとしよう
そのシャワーヘッドの穴という穴から、紙魚がスルスルと抜け出てきて、
頭の上に落っこちてくるかもしれない
気づかぬ間に、紙魚ごと髪の毛を洗っていることになろう
女性ならば、命と言ってもいい髪の毛に
紙魚という虫の肢体が触れるのである

例えば、トイレで用を足しているとしよう
用を足し終わり、トイレットペーパーを巻こうとする
すると、ポツンと手の甲に載ったものがある
紙魚である
そして、冒頭で述べたように、手の甲の上をちょこまかと
いや、スルスルと動き回るのである

例えば、あなたが夜、心地よく眠っていたとしよう
私は、これが一番考えたくないことなのであるが、
考えたくないことほど、考えてしまうものである
紙魚という虫は、そんなところまで入るのかという狭い隙間まで
入ってしまうことがある
そう、あなたが心地よく眠っている中、
その睡眠を妨げるような、鼻の孔や耳の孔のムズムズとした感じ
中で何かがもがいているような感じに襲われる
何であるのか、私は最後まで隠さず述べるつもりであるから、
まあ、知りたくない人は、ここで読むのを止めるのが得策である
鼻の孔や耳の孔をスルスルと通り抜け、
あなたの体内に入り込んで来ようとするもの
それは、まごうことなき紙魚なのである
そして、朝になってあなたはまず初めにトイレに行くかもしれない
それが大便であったとしよう
自分の出したものをじっと観察する奴はさすがにいないかもしれないが、
その大便を流そうとしたとき、
便の上に重なったペーパーが少し動いた気がする
気のせいだろうか、何だろうか、、、
スルスルスルスル
あなたはそれを見た瞬間、この世の絶望に襲われることだろうな
まさか、自分の体内から出たというのか!!!!!

いや、失敬、最後まで読んくださった方には、ものすごく不快な感じを与えてしまったかもしれないが、あくまでこれは私の想像、妄想に過ぎない
だから、真には受けないでくれたまえ
とはいいつつも、何だか、あり得なくもないことではあるから、
不気味だなあとも思う

私が今月から新たに居を移すところが、読者諸君の住んでいるマンションと被らないことを祈るばかりである 





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?