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立法、行政?、司法

公務員を目指す学生に向けた話題のレパートリーから一つ。学術的なことはなるべく端折って分かりやすく…。

中学3年生で習う「三権分立」は「立法」、「行政」、「司法」の3つですが、なぜ「行法」ではないのでしょうか?
この意味を考えることが、「行政」を深く知る第1歩になります。

昔、絶対王政で強権を振るった王様が「朕は国家なり」と言ったとか言わないとか。
一人に権力が集中するとよろしくないことが起こるので、国が持つ権力は分けた方がいいということで考えられた仕組みが「三権分立」です。
ここで意識されている権力は、法律を作る権力(立法)、法律を実行する権力(行政)、法律を司る権力(司法)の3つですが、法律を実行するのであれば「行法」が適切です。
しかし、なぜか「行政」という言葉が当てはめられています。

その理由は、法律を実行することだけが行政の仕事ではないからです。

世の中には様々な社会課題があり、それらの課題に向き合う考え方も多様です。だからといって、放置しておくわけにも行きません。課題を少しでも解決させていくためには、より多くの人が納得できなくても妥協はしてもらえるレベルで解決の糸口を探す必要があります。
このような利害や対立を調整・統合して意思決定を担うのが「政治」です。

政治で決まったことを最も分かりやすい形に残すのが、立法府で作られる法律です。
しかし、世の中の課題は大きなものから小さなものまでたくさんあるので、全てを法律で規定することは無理です。そこで、法律で限定した範囲で行政府に裁量を委ねることがあります。
このため、行政には、立法府から委任された範囲で政治的な決定を担うことが期待されています。この点は、あくまで法律の範囲内です(だから法律はとっても大切です)。

さらに、世の中があまりにも複雑になっているので、立法府が全てのことに通じて法律を定めることも困難です。立法府がより善い社会の実現に向けた政治的な決定を行うためには、社会課題に精通した人達の支援が必要になります。「行政」は、様々な分野で最前線の現場を持っているので、それらの問題点にも精通しています(いるはずです)。
そこで、「行政」には、立法府の政治的な決定を支援することも期待されています。

このように、行政は政治的な決定と関係が深いので、法律を行う「行法」ではなく「行政」となっています。

法律を熱心に勉強してきた学生は、行政法で習う「法律による行政の原理」が強く頭に残ってしまい、法律を実行することこそが行政の役割だと思ってしまう傾向が強いです。しかし、実行するのは政治的な決定であり、政治的な決定は社会や状況が変われば決定内容も変わり得るものです。

行政を担う公務員(行政官)にとって、法律を粛々とこなすことは基本的な仕事です。しかし、立法府の政治的な決定を支援することを期待されている行政は、現在の政治的な決定が適切なものなのかを常に考え続けなければなりません
もちろん、法律によって行政の活動範囲に制約が課せられている場合には、行政がその壁を超えることは許されません。それでも、より善い社会の実現に必要なのであれば、その壁を変えられるように努力することが期待されています。
政治的な決定を支援することで、行政発でも社会の変革を促すことが可能になります。

ちなみに、「公務員」とは三権を担うために国家や地方公共団体などに雇われている人のことです。そのうち行政を担う公務員が「行政官」となります。
一口に「公務員」といっても、三権の何を担うのか、どのような分野を担うのかによって、種類も仕事内容も全く異なるので、漠然としたイメージで安易に公務員志望を考えていると、必ず痛い目に合います。
「公務員」を志望する場合でも、公務のどのような仕事と関わりたいのか、そのイメージをしっかりと描くようにすることが大切です。


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