見出し画像

『星空へ帰る』

辛いときも、苦しいときも、泣きたいときも。
―――空はいつだって輝いている。


『星空へ帰る』


くしゃり。
私―赤坂香織(あかさか かおり)は、3年2学期中間考査の成績表を手のひらで握りしめた。焦り、悲しみ、悔しさ。それを少しでも小さくなるように、さらに力を込める。しばらくしてから、力を弱めて、成績表を広げた。成績表はくしゃくしゃになりながらも、なお、「お前の成績は250人中102番だ」と見せつけてくる。目頭が熱くなるのを我慢しながら、私はもう自分の目に入らないよう、クリアファイルの1番奥に入れた。
なんでなんだろう。どうしてなんだろう。この間は、50番以内に入っていたのに。
そんな感情がお腹の中を渦巻いて、離してくれない。忘れよう、忘れよう。そう考えても、なかなかこの感情を消すことは、できなかった。
「早く帰ろ!」
放課後。隣のクラスの親友がかけてくれた声で、ようやく私は少し、気を持ち直した。
「うん」
そう返事をすると、重たい鞄を背中にからい、図書室で借りた本しか入っていない、補助バックを斜め掛けする。
そして、学校を出た。

帰り道。やはり、親友は中間考査の話題を持ってきた。
「私、今回凄く悪くてね。もう多分親に怒られるんじゃないかな、って」
私とあまり成績の変わらない親友の言うことだ。多分、悪くても、70番以内には入ってるだろう。そう考えると、親友なのに、とても腹がたった。しかし、親友が明かしてくれた順位は、私の予想をはるかに超えた。
「128番だったの」
「……」
私は、親友にかける言葉がなかった。私も悪かったよ、なんて、言える訳がない。だって、私は親友よりも26番上の順位なのだから。慰めの言葉1つすら見つけられず、私は
「そんなこともあるよ」
とだけ声をかけた。
その後、親友から話題を変えてくれた。お互いの好きな漫画について語る。いつもなら、弾む話題なのに、今日はそこまで盛り上がらなかった。
しばらくして、道が3つに別れる分岐点に着いた。お互い、帰るべき道の方へ行き、
「また明日!」
普段と同じように、友達が告げる。
「うん。また明日!バイバイ!」
話は盛り上がらなかったが、さよならの挨拶だけは、明るく返すことができた。

 家に帰宅して、当然、叱られた。
「香織!もうあと4ヶ月後には、入試なんだぞ!!これで、A高校に行けると思ってるのか?!」
分かってる。そんなこと。
そう思いつつ、
「はい」
と無機質に返事をする。早く、この場から逃げ出したくて、仕方がなかった。
A高校は、難関大学の進学を目指すような、進学校。偏差値は60近くないと合格は難しい。順位でいえば、30番内はとっていなければならない。しかも、もう高校入試まで、あと4ヶ月しかなかった。しかし、私はA高校より、行きたい高校があった。そこへなら、私のこの成績でも、行けるはずだった。なのに、それを許さなかったのは、父ではないか。叫びたくなるのを、歯ぎしりで、抑えて、じっと耐えた。1時間ほど経って、
「もういい」
と、ようやくお説教から開放された。

叱られた夜は、憂鬱だ。
とめどなく涙が溢れて、止まない。明日、目が腫れてしまうのに、拭っても拭っても、指の隙間をつたって、流れていく。
よく自分の部屋に行くまで、泣けずにいられたな、と自分を褒めた。
泣き止んで、泣いた後が分からないようにしてから、1階へ下りて、夕飯を食べた。大好きなカレーライスだったのに、全然美味しい、と感じることができなかった。TVもつまらなく、さっさと、お風呂に入った。風呂の湯はぬるく、疲れは、1つも取れなかった。

深夜1時。家族は皆寝ただろうと思われる時間。私は、こっそり、ベランダへ行った。
ここから、この世界から、逃げ出したい。
手が、ベランダの手すりに吸い付く。
そのまま、足を壁にかけて、私は縁にたった。秋風が頬をかすめる。手を手すりから離して、平均台を渡るかのように、縁を歩く。地面から大分離れた場所に立っているというのに、自然と怖い、という感情は湧いてこなかった。
藍に染まった空に浮かぶ月と星は、昼間の太陽よりも、明るく、眩しい光に見えた。

―――空は、いつだって輝いている。
でも、ずっと輝いていて、疲れないのかな。嫌にならないのかな。
そんなことを考えつつ、星に向かって、手を伸ばす。
かぐや姫が、月へと帰ったように、私も。私も、星に、帰れたら。帰ることができたなら。
いくら手を伸ばしても、当然、星に手は届かない。もどかしくて、私は、縁の上でステップを踏んだ。

足が夜空を駆ける。

着地点など、どこにも存在しない。ただ、ひたすら、星に手を伸ばす。あとどれくらい、どれくらいで―――。
その時、ふと親友とかわした言葉を思い出した。
『また明日!』
ごめん。“明日”はもう来ないかもしれない。でも、それでも、この世界から、私は逃げ出したいの。

伸ばした手は空を切る。手のひらには、何も残っていなかった。
そのまま、重力に従って、私は、


地面に吸い込まれた。




(あとがき)

読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m

お星様とか。空とか。私はキラキラとした幻想的なものが大好きなので、それをイメージして書きました。それをイメージして書いたわりには、凄く暗い話になってますけどねw星、空、夜、などの描写を書きたかったが為だけに書いたので。アハハ( ̄▽ ̄;)

これでも一応5回ほど推敲して、明るい話にしようと思ったんですがね〜…まだまだ文章力が足りない…😔

次はnoteで開催されている、大賞への応募作品を書こうかと思ってます。最近は、1ヶ月に1回以上の投稿を心懸けておりますので、良ければまた、読みに来てくださいませ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?