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手書き表現技法としての「虫瞰図」のすすめ

虫瞰図。「え、何?」と見慣れない言葉だろうと思います。以前勤めていた設計事務所の上司から、この表現技法の存在を教えられ、いまや僕の設計ライフでは欠かせないものになっています。

”むしかんず”と僕はよんでいます。正しくは”ちゅうかんず”と読むのかしら? 漢字変換もままならないので、一旦みんな知ってる”鳥瞰図”と打ってから、”鳥”を消して強引に”虫瞰図”とPC画面上で文章を打っています。以下の”虫瞰図”はすべてコピペです。


建築のパースで良く用いられる「鳥瞰図」とは対をなす表現方法と僕は密かに考えています。読んだ字のごとく、鳥瞰図は鳥の目線から建築を描いたもの、虫瞰図は虫の目線で建築を描いたものということになります。


まあ一言でいうと、2点透視図を視点の高さ0で表現したものが虫瞰図です。以上! 笑


。。さて、鳥瞰図、2点透視図、虫瞰図をパースラインを描いたので、ちょっと見てみてください。

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①”鳥瞰図”は、上方から下方を見下げる透視図です。建築のファサードを描いているとすると、屋根・壁・床(外構)の3点が表現されることになります。②”2点透視図”は、アイレベル(人の視点の高さ)から描いたもので、壁・外構の2点が表現されます。

③”虫瞰図”は、虫の視点から描いているので、下方から建築を見上げる透視図です。この図から表現されるのは、壁の1点のみということを覚えておいてください。あ、ひさしなど軒があれば、その軒天(軒裏)も表現されることになります。この点は、2点透視図も同じ。軒がなければ、建築の外壁のみが表現されることになります。

住宅設計の大家、宮脇壇さんが、この虫瞰図で描いた住宅の外観パースを好んで使っていたようです。僕の場合は、少々使いどころが違います。


①設計の企画~基本設計まで使う頭の中具現化ツール

主に、外観を決めるまで=基本設計終了まで、設計の良き”お供”になります。考案したプランをもとに、あるいはイメージが先行するときに、イメージが頭から消えないうちに殴り書くように虫瞰図を描きます。

床=外構を描かなくても良いと先ほど言いました。僕の設計手順として外構よりはるかに先に外観を決めるため、建築本体のみ表現できる虫瞰図は重宝します。表現する情報を建築の本体、つまり建築のかたちと壁面に絞り、頭の中のイメージを素早く手に伝達できます。


外構はファサードにあったものを、という僕の考えがあります。だから2点透視図だと、外観が決まってないのに外構を描く必要があるし、また僕の手書きの技術では、透視図自体を描くことに意識が行ってしまい、その間に頭のイメージが消えてしまう欠点があります。

いっぽう、虫瞰図は鼻歌を歌いながらでも描けます。だから、あたまの中の思考を描いては捨てるを繰り返せるので、案がまだフワフワとしている設計の初期段階には嬉しいツールです。

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とはいっても、近年ぼくのプロジェクトはスケジュールがどれもカツカツなので、外観を考える際に同時に詳細納まりを考えてちょっとだけ設計を効率化するようになり、納まりの矛盾を簡単に把握できるということで主にCGによる検討となりました。

が、まだ生まれたてのふわふわなアイデアを書き留めるときや、CGモデリングすること自体手がかかるような複雑な建築を考える場合は、やはり虫瞰図をたくさん書きます。

②その場で簡単に描けるコミュニケーションツール

クライアントとの打合せでも、虫瞰図は役立ちます。えてして、クライアントはイメージ豊かですが、それを可視化する表現をもっていないので、言葉として意見が出ます。鼻歌しながらでも描ける虫瞰図を即興で描いて、今おっしゃった意見はこういうイメージでしょうか? と確認します。言った意見がすぐ絵になるので、けっこうな確率で感動されます。

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設計で考えた案を発表するクライアントへのプレゼンは大事ですが、僕は打合せでの、クライアントも設計者も関係者が自由にたくさん意見が言えるような、ブレストのようなものを最も重視します。そんな打合せでは、虫瞰図は案を決めるのではなく、まだかたちが定まっていないアイデアを瞬時に表現するツールとなっています。

何気ない意見が、クライアントの本音でもあります。その場でイメージを具現化することは、クライアントのイメージも膨らませやすく、十分理解して納得いただけることが多いのです。


僕がまだ若いころ、上司というものがいました。プロジェクトをチームで挑む設計事務所の場合、上司がデザインを決めることが常ですので、絵とともにビジョンを示すことは、自分の案を実現するうえで重要でした。

とはいえ社内打合せで、手をかけてキレイなCGをつくるのはアホらしいので、手をかけずすぐ描ける虫瞰図はやはり活躍しました。多分、7割くらいの確率で上司の承認をもらっていました、僕としてはしてやったりです。


③建築探訪のメモとしてのスケッチツール

投稿するnoteでイチオシ(僕だけ)のマガジンの、”建築物語”での、現地でのスケッチにも応用できます。

外構がのっぺりとしていたり、タイルや石の割付があっても目地が建築に対して検討されていなかったり、建築家の意識が建築本体ほどは外構に向いていないことがわりとあります。そんなときは、外構を苦心して描いてもしかたがないので、省略のために虫瞰図で表現します。

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上の画像は、今までに紹介した福岡市立美術館の外観のディテールです。スケッチする多くは、建築に感動して学ぶために描きますので、外構はなくても、建築のかたちと外壁が表現されていればよいか、とわりとドライに考えています。それに、ほかの来訪者が通るので、邪魔しないよう手早く描きたいという理由もあります。



いかがでしたでしょうか、”虫瞰図”の魅力、伝わったでしょうか。

表現のおもしろさというより、その使い勝手の良さが僕にとって心地よくて、かれこれ10年以上描いています。

虫瞰図は、住宅建築の設計を志す人なら誰もが知っている建築家、故・宮脇壇さん(1936-1998)が住宅のファサードを手書きパースで表現するのに好んで使っています。卒業設計のパースにも虫瞰図で表現したとか。

今では、プレゼンテーションとしてのパースは、手書きより正確で美しく表現できるCGが主流です。敢えていいますが、手書きのプレゼンテーションとしてのパースは、少数派と言ってもいいのではないでしょうか。コンペなどで手書きのパースで表現することも、中にはありますが。

そんな、手書きのパースは「手早く描ける」という利点をいかして、プレゼンというよりもむしろ、設計の過程で使ってこそと思っていて、設計の検討だったり、コミュニケーションとしてのツールという使い方が似合うように考えています。


ぱなおとぱなこ



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