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スケルトン天井のふるまい

天井のない空間のことを、[スケルトン天井]と言います。最近はやってますよねー。

日本では、店舗デザインからその流行ができたんじゃないかなと思っています。はじめてDEAN&DELUCAの内装を見に行った時に、なんて清潔で開放的な空間なんだろうと感じた記憶があります。

直近のプロジェクトで、スケルトン天井の賃貸オフィスを設計しましたので、そのデザインプロセスの中で考察したことを共有します。

経緯

僕はデベロッパーの設計部ですので、会社の目的は不動産の利益をいかに価値として生み出すかということが目的のひとつとなります。

その一つが床面積。だから、設計では今回の敷地のように狭小な土地に対して、いかに多く階を積み上げるか、という方針は重要なわけです。

ですから、階高(床面と次階の床面との間の高さ)は必然と低くなります。僕の設計案では3,3mほどです。鉄骨造でスパン(柱間)を考えると大梁の下と床までの高さはどう計算しても2.4mほどになります。実際、構造計算してもらったらやっぱり2.4mほどになりました。

と細かい話はおいといて、オフィスの床面と梁までの高さがすでに2.4mしかなく、この梁下に仕上をすると天井高さが2.3mほどになってしまい、低いなーとなるわけです。現在の新築オフィスの標準は、このプロジェクトのように小規模であっても(様々な論調がありますが、)2.5~2.6mは欲しいと思っています。テナントさんの内装設計の幅が広がります。住宅でも天井高さは2.4mありますからね。

そんなこんなで天井高さが確保できなさそうなので、いっそのこと天井をなくしてしまえ、ということで設計初期にスケルトン天井を選択しました。

スケルトン天井はその名の通り天井レスの空間ですので、梁下がそのまま天井高さとなります。梁のないところはスラブ(構造体の床)が天井ですので、さらに空間の高さ方向の広がりがでるわけです。


スケルトン天井の効能

天井の仕上をなくすと、さまざな空間への恩恵が得られます。以下に3つ紹介します。


①天井高さが1.5倍に感じられる

細かいことは省きますが、高層建築の場合、上階の床面から下階の天井面までは1m以上あります。天井仕上げをなくすとその1m分天井高さが高くなりますので、物理的に通常の部屋より1.5倍の天井高さとなります。

空間に広がりを感じられるだけでなく、仮に階高をあげて天井高さを1.5倍にしようとすると、柱や壁も1.5倍必要となり、コストアップとなります。天井レスにするということは、物量はそのままで空間に広がりを得ることができる手法と言えるでしょう。



②天井レス自体が空間のアクセントになる

賃貸オフィスの場合、天井は得てしてのっぺりします。

それはなぜか?


。。。


。。。


。。。


正解! コストがかからないからです!


なぜか天井をはる前提??が多いので、流通品をつかいます。だいたいジプ〇ーンに代表される岩綿吸音板を使います。せっこうボードよりも吸音性に優れているので。

せっこうボードでも同じですが、天井がのっぺりします。それも床面積=天井面なので、空間の印象が相当決定づけられる要素なのですが、なぜ床仕上はこだわるのに、天井はジ〇トーン一択じゃ!となってしまうのでしょう。。? 最近よく考えるようになりました。

そんなふうに床面と同等くらい印象づける天井面ですが、スケルトン天井の場合、のっぺりどころか、楽しい天井になります。

それは天井にはたくさんのものが取り付けられるからです。構造の梁、照明器具、空調設備、換気設備、(あれば)排煙設備、防災設備、給排水管やダクト、電気配線、などなどです。

その配置のパターンは無限にあり、ひとつとして同じものはないので、世界で一つだけの天井となります。こう考えると、魅力的じゃないですか?

床なんかより、壁なんかよりも、天井がひときわ際立った空間になること間違いなしです。もう単調な天井とはおさらばよ。



③テナントの内装工事が容易

賃貸オフィスの場合、空間だけつくって室内の間仕切りはテナントさんでやってね!というスタイルの設計がほとんどです。

これもテクニックの話になって申し訳ないですが、間仕切りを変えると、法律で必要な非常照明や自動火災報知機の配置も変えなければいけません。天井を張るとその配置換えがやっかいとなることもあります。場合によっては一部天井をはがすということもあるので、テナントさんには苦労をかけます。

スケルトン天井は、そんな設備がむき出しの状態ですので、配置換えが容易となり、テナントさんの苦労は軽減することもあるでしょう。ミーティングルームや休憩室など、部屋によっては好きな天井仕上げをすることもできますしね。



デザインの留意点

そんな空間に広がりと豊かさを生み出すスケルトン天井ですが、実は天井がある場合よりも設計に細心の注意が必要となります。

難しい、というよりも考えなくちゃいけない条件がたくさん増える、ということでしょうか。いくつかこの記事では紹介します。


①構造体を整理する

天井がむき出しになるということは、梁がむき出しになります。家でもありますよね、木造の梁がむきだしになっていい感じな空間になっているインテリア。

天井がある場合、単にスラブを支えるだけの小梁の配置は構造家任せでよいのですが、天井レスの場合はそうはいきません。見上げたときに美しく見えるように、すべての構造体の並び替えをする努力が必要でしょう。その仕事は構造家ではなく、僕の仕事です。



②すべての設備機器を整理する

①同様、設備もむき出しになりますので、配置に気をくばります。設備設計の人は、効率的な機械配置をして描いてきますので、必ずこころゆくまでチェックします。なんなら機械とダクトのレイアウトを描いて渡します。

配管の仕上色もチェックします。あれは黒、あれは白では、単に無秩序な天井となってしまいますので、必ず設計中に考えます。スケルトン天井は複雑な姿と言いましたが、ランダムな設備配置の中でも緩やかな秩序は必要と考えていますので、できるだけ色は統一します。



③照明器具をデザインする

オフィスは、省エネの観点から年々求められる照度(床面の明るさの指標)が減ってきましたが、それでも住宅よりはるかに明るいです。

従ってオフィスにおける照明器具は効率的に照度が確保できる長細いライン照明や、システム天井に合わせた600×600の照明器具が中心となります。

それらはそもそも天井のある場所に取り付ける前提のため、むき出しにして使うとなんとも残念に見えます。照明管自体が美しいものも商品でありますが、これがまた高価なんですよ。

仕方がないから、すっきり見えるように、汎用品が収まる照明ボックスを自前で設計します。この設計は楽しいですねー。照明器具がおさまるように、1ミリ単位で寸法を調整して設計図を描いていきます。

一番重要なのは、その見た目じゃなくて、仮に地震が来ても脱落しないように設計することです。だから、単に垂直に吊り下げるだけじゃなくて、斜め材で補強&保険的な要素を配置してやることですかね。


④排煙の規定に気を付ける

延べ面積が一定以上の場合、排煙設備が必要となってきます。といっても小規模な建築物の場合、排煙のためだけに非常用発電機を設けるのは分不相応です。例えば、この僕が港区の一等地のタワマンを借りてワインをくゆらすくらい不相応です。

ならば、窓を設けて自然排煙すればよい、というわけにもいきません。天井高さから80センチまでの窓しか排煙面積の計算に含められなくて、上述の通り、梁より上のスラブまでが天井高さとなり、梁の高さだけで80センチくらいいくので、排煙ほぼ0となってしまいます。天井があると、天井下で80センチの窓は簡単に取れるのに。。スケルトンの弊害ですね。

じゃあ外壁と梁を距離とればよいじゃないという考えもありますが、ちょっとこの規模ではナンセンスかな。

なので緩和規定を使います。告示1436号(平成12年建設省告示第1436号)ですね。ざっくりいうと、事務室内の内装仕上(下地も)は不燃材料にすれば排煙しなくてよいよ、という意味です。天井はないので、壁の仕上げを不燃にすればよいのです。

1点注意なのが、断熱材がむき出しになっている場合、断熱材も不燃材料にしなければならないことです。

あとはビルのみならずマンションでもリノベするときは排煙規定に気をつけてください。既設が自然排煙を行っていたとしたら天井無しで排煙確保できるか注意してください。あと大きいのは換気計算かな?これは脱線するので省略で。


世界でたった一つの天井

大事なことなので2回言いますが、天井の要素のコンポジションは無限にあり、ひとつとして同じものはできないという特徴がスケルトン天井にあります。

天井だけで設計コンセプトできちゃうような、強い力を持っています。

みなさんも、のっぺりとした天井なんて剥がしちゃって、スケルトン天井ライフを送ってみてはいかがでしょうか?


ではでは~


ぱなおとぱなこ



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