若き日の谷口作品 玉川図書館(建築物語8)
今回は、新進気鋭の若かりし谷口吉生さんが設計された図書館を紹介します。竣工は1978年、40歳強の建築です(2020年現在)。
ひっそりと有名な建築でして、図書館と連結して建てられた資料館は、谷口吉郎さんの作品なんです。なんと!谷口親子の合作という異例の建築です。
場所は、金沢駅から南へ歩き、住宅地に入ったところにある玉川公園内に玉川図書館があります。
公園も図書館も、地元の方々が利用されていまして、平日なのに盛況な図書館です。
建築概要は公式HPリンクからどうぞ↓
ファサードで、何より目を引くのは、外壁のスチールパネルです。いい感じに経年劣化していまして、紫色がかって建築に味を出しています。
そのスチールパネルに、良く育った樹木の木漏れ日が映し出され、外壁の素材感として、とても美しくなっています。
竣工時とはまた違って、劣化の風合いと大きく育った樹木により生み出される味となったファサードでしょう。
挑戦的なレンガの軒天をくぐると、中庭に出られます。
間口がそう広くない中庭ですが、立派に育った樹木が所せましと並んでいて、木陰の空間を作り出しています。
だから、中庭に面した閲覧室も明るすぎず、ちょうどよい光環境となっています。
(レンガの軒天がなぜ挑戦的かというと、天井部にレンガやタイルを用いた場合、剥落の恐れが高まり、また剥落した時に事故を起こしやすいからで、2020年現在の建築ではまず見たことはありません。)
中庭に鉄骨梁がかかっています。鉄骨梁が視界を遮って圧迫感を出さないように、スリーブ(孔)が等間隔で開けられています。
ここでも育った樹木が梁を覆っています。
この中庭を突っ切る梁は必要だったのでしょうか、付け梁か、そんなことあるえるか、という思考を巡らせる梁ですね。
これも挑戦的ですね。レンガのベンチが、外にガラスが貫かれてそのまま樹木の植栽基盤になっています。ガラスの切込みは、なんとシール! 当時新進気鋭だった谷口さんのこだわりのひとつでしょう。
実際訪れると、このデザインは凄みがありますよ。ぜひ訪れてみて、体験してください。
レンガの植栽基盤で自分の本を読み、鳥がさえずり、木漏れ日の下で、まったりとした時間を過ごしました。
ガラスや開口部に、機能を持ったヴォリュームが貫通するデザインは、当時から彼にとって興味があったのでしょう。
現代の谷口さんの作品は、考え抜かれたミニマルなディテールでそれらがデザインされています。
この弱冠31歳の谷口作品は、若干強引な手法ながら、ダイナミックな分コンセプトが伝わってくるデザインとなっています。
エントランスの吹抜け部分です。ここにも現在の谷口さんの現代につながる作風がみられます。
それは吹き抜けに面して開口部をいくつも設け、開口部は動線となっており、いろいろな角度から吹き抜け空間を見られるデザインです。
これはNYのMOMAや、香川県のMIMOCA、前回紹介した法隆寺宝物館でも見られる空間デザインの手法です。
ちょっと手ぶれがひどいですね、せっかくいい空間なのに。。
これも内部空間の階段で使われているレンガが、外まで貫き、内外の連続感を生み出しています。
この図書館、のべ面積6000㎡程度で、図書館にしては小ぶりです。天井高さは無駄に高くなく、身体にフィットしたスケール感を感じられます。
それ故、レンガという重厚な素材を使っているにも関わらず、親しみやすい印象の建築です。
当時としては珍しいルーバー天井で、グレア(照明器具が直接目に当たってまぶしいこと)が生じないデザインとなっています。
Rの効いた(曲線を用いた)平面計画となっているので、どうしても端部でルーバーがギザギザになり、うまく収まらないのはご愛敬でしょう。
ここからの景色が一番好きです。美しいレンガの建築に、大きな木が覆いかぶさっている。。
隈研吾さんでいうところの「負ける建築」というのでしょうか、負けるとまでは言いませんが、竣工から40年たった今、木と建築が共生している建築です。
レンガの植栽の内部までの貫通、いくつも窓のある吹抜け、レンガの軒天、ルーバー天井。。
当時新進気鋭の31歳の谷口さんは、いくつもこの建築に挑戦したデザインを施しました。ディテールとしては多少強引な点もありますが、後の作品にも見られるデザインの種子だったのでしょう。
設計と向き合い、年とともに洗練されていき、現在の繊細な谷口さんの数々の素晴らしい建築がある。その「原点」と言い切っても過言ではないと思います。
僕が31歳といえば、まだ会社勤めでしたね。ちょうど組織設計事務所を辞めるかどうかの時でした。
ここまでコンセプチュアルではありませんでしたが、僕の中でも組織で挑戦して、やり切った建築がありました。だからすこしだけ、ほんのすこしだけ、遥か前を走る若手の谷口さんの姿が見えた気がします。
ぱなおとぱなこ
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