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機能美としての陰影 国立長崎原爆死没者追悼平和記念館(建築物語21)

今回紹介するのは、長崎県にある祈りの空間です。水盤に囲まれ、すべてが地下に埋まっている建築です。

2003年竣工の、原爆の恐ろしさを想像し、死没者に対する祈りを捧げるための建築です。博物館というよりは、教会のような空間性を持っています。この建築は、数々の賞を獲得しています。設計者のHPによると、村野藤吾賞をはじめ、国内外の建築を讃える賞を8つも受賞しています。


建築家、栗生明さんによる設計です。近作ですと、三重県(僕の地元だから紹介します!)の式年遷宮せんぐう館、平等院に併設された鳳翔館が有名なのではないでしょうか。この建築以後でしょうか、彼は寺院建築を多く手がけるようになっています。


JR長崎駅から路面電車に揺られて、原爆資料館下車、徒歩4分にあります。バス便もありますが、坂のまち長崎を路面電車から眺める風景は、なかなか情緒がありますので、ぜひ路面電車で。



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敷地内に入ると、豊かな水をたたえる水盤に、ガラスの柱が浮かんでいます。水盤は夜になるとライトアップされ、約7万の光が灯されます。1945年までの原爆による死亡者数と同じ数の光です。

ガラスの柱は、強化ガラスでできており、メインとなる追悼の空間に地上の光を届けています。シンプルなDPG金物で支持されており、ガラスボックス感を損ないません。



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水盤をえぐったような地下への階段から、施設内部に入っていきます。この時からすでに、恐ろしい原爆に想いをはせるような動線が計画されています。



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地下1階。間接照明だけの暗い回廊を通って、追悼の空間を目指します。

どこまでも続く薄暗い回路では、戦争の暗さといいますか、考えてしまいます。

凹凸をつけたスギ板型枠のコンクリートや、櫛引されたPC(プレキャストコンクリート)もしくはGRC(ガラス繊維補強コンクリート)の壁に照明が当たり、素材感あふれる陰翳を映し出しています。やはり板厚が薄いので、GRCなのでしょうか。



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追悼コーナーから光の柱が見え、追悼空間の一部を、上から覗くことができます。はやくいきたいな、と気持ちがはやります。



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地下2階。追悼の空間で祈りをささげます。空に近づくほど光の柱は明るく、まるで天に導かれるような空間となっています。室内の光はトップライトと天空からの光を伝える柱のみで、陰翳のコントラストが強いドラマティックな空間です。

つい、ポエムになってしまいましたね。それほど感銘を受けた空間です。例えるなら、カテドラルに似た荘厳な光と影具合になっています。


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追悼の空間を囲むように、壁と一体となったプロポーションの美しいベンチがあります。静かに座りながら、祈ります。光の柱の間には、線上のトップライトが開けられ、空から光が降り注ぎます。


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地下1階に戻ってくると、明るい吹き抜けのラウンジにたどり着きます。水の流れる大きな地面に穿たれたドライエリア(竪穴)に向かって、大開口が開けられています。その太陽光が照らすテクスチャーは、コンクリートの肌合いに変化がありながら、素材としては統一しています。一貫した世界観のある建築だな、と思いました。


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地上から降りてくる階段室です。薄いコンクリートの袖壁とか、縦スリットのような吹抜けとか、組み合わせが美しいですね。平等院の鳳翔館のときも思いましたが、栗生さんは縦に長い吹き抜けを好んで使うようで、これがまたかっこいいんですよ。



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この建築は、まず回廊では間接照明だけの暗い空間を通ります。次に追悼の空間では、トップライトや光の柱からの光と影がくっきりとした夕焼けの瞬間に似た、ドラマティックな空間が体験できます。最後に、追悼を終えて辿り着いたラウンジでは、光あふれる空間となっています。

何を言いたいかというと、光の加減で、原爆に想いを馳せる、追悼する、一休みしてくつろぐという使われ方が、機能が見事に一致して表現されているということです。空間の使途によって、様々な光空間を体験することができます。


この追悼記念館に思うのは、影が見せる奥行きや光があったときの素材感が美しいなと。この感覚は、日本古来からある茶室や寺院に見られる、光と影がおりなす空間に美学があるような。そんな陰翳礼賛(谷崎潤一郎 著)の文化だな、と考えていました。


光空間―空間のもつ力というか、建築の可能性を考えさせられました。たくさん建築を見てきましたが、その中でも特に感銘を受けた建築です。だからぜひ行ってみて欲しいです。

写真だけでは分からない、体験できることがたくさんあります。ぜひ!


ぱなおとぱなこ



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