列車から空想の旅へ (日記 Vol.2)

 ある日、新幹線に乗った時だった。
 前席のシートポケットには、JR東日本の広報誌「トランヴェール」があった。その冊子は、月に1度、発行されていたと記憶している。鉄道と連携して地域の風土や歴史、特産など、旬な季節を紹介しているのだが、見入ってしまったのは、「EKIBENギャラリー」という駅弁紹介コーナー。
 駅弁は、明治十八年(1885年)宇都宮駅のおにぎりが初例と聞いたこともある。
 駅弁紹介ページを開くと、「旨そうだ」という強烈なインパクトが、上品な文字と鮮明な写真でぼくに迫ってくる。これを食べずにいられるものかと思わせる。(現実には紹介されている駅弁を買いにいけないので、食べられない悲しさ)紹介ページは駅弁の名前から始まり、写真は駅弁のおごそかなたたずまい、ごはんやおかずが生み出しているバランスと品格、また、紹介する選び抜かれた秀逸な言葉たちもたまらない。まるで今作られたばかりのような、生き生きとした言葉が連なり、艶やかさと温かみ、さらには美との緊張感すら感じてしまう。
 紹介記事を二度三度読み返すと、旨さだけを伝えているのではなく、食材は何処のもので、どうゆう状態を選び使うとか、地方の食材の特徴にまで及ぶ。それは、食材が育った気候や風土、日照や寒暖差など、まるで食材の産地を旅しているようにも錯覚する。
 日本には鉄道が縦横無尽に整備され、人々の生活に潤いをもたらし、国土の物流の基幹として日本という国を支えてきた。その数えきれないほどの鉄道駅において、駅弁もまた、各地のおいしさを語り継いでいるのかと思う。鉄道に乗ることが趣味であれば、駅弁食べ歩きの旅も面白かろう。駅弁の魅力発見で知見が広がるとは言い切れないが、駅弁を楽しく感じようとする自分がいれば、新たな見地がみえてくるだろう。それが、列車から空想への小さな旅である。この様な空想の旅で、日常という果てのない旅もちょっと楽しくなれたらいいなと思う。



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