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ブラック企業を増長させてしまった経済学と、ブラック労働を最初から否定していたアダム・スミス

アダム・スミスの言葉でもっとも有名なのは「見えざる手」だ。なんでか「神の見えざる手」といわれてしまっているが。
この言葉は、ブラック企業を増長させるのに一役買っている。実際に過労死事件を引き起こして、日本中から嫌われまくったある企業経営者が、神の見えざる手を根拠に、大企業の最低賃金の引き上げや内部留保を出させる政策を批判している。だれとはあえて言わないけど。
また、ある近代経済学者は、「正社員は既得権益だ!」というものだから、これまた世間から顰蹙を買いまくった。これもだれとは言わないが。

高哲夫訳の国富論(上)の139ページを参照すると分かるが、スミスは働く人間の息抜きの必要性を説いており、「息抜きが満たされない場合は危険だ!」ともいっている。
スミスの考える人類愛と理性のある雇い主とは、労働者を仕事に没入させるにように仕向けるのではなく、過労にならないように気を配る人だった。もっというと、働き過ぎないように仕事をする労働者こそが、仕事をもっとも多くこなせる人だというのがスミスの信念だった。

諄いようだが、これは国富論に書いてあることだ。スミスはホワイトな労働こそが正しいと考えていた。
それにも関わらず、「24時間死ぬまで働け」とか「止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる」というイカれた妄言を堂々と口にするブラック企業経営者が、そのブラック労働を補強するために、スミスの「見えざる手」を利用しているようにも見える有り様だ。

さすがにその過労死事件を起こした企業経営者も、今は世間の目を気にしてブラック労働は控えていると信じたい。筆者も実はブラック企業の正社員だった。一人の先輩が、過労(過労自殺ではない)で亡くなっているので他人事ではない。

ブラックな労働環境等が問題視された企業が、世間から多大なバッシングを受けて反省し、ようやくホワイト企業になっていく。世間はその企業の成長のために非難したわけではない。明らかに憎んで潰してやりたくてやったことだ。
皮肉な話だが、これも「見えざる手」に該当してしまうと思う。その企業を潰したいという怒りや憎しみが、見えざる手に導かれて、ホワイト企業化を促すわけだ。

しかしだからといって、過労死事件が起きるまで放置していい理由はどこにもない。そうなる前に政治がきちんと動くべきだ。スミスも間違いなくそう考えるだろう。