自由貿易主義が強固なイデオロギーになった原因と背景①

前回の記事で、「日本に限らず世界の知識人の多くは、『自由貿易主義は民主主義と同じくらい掛け替えのない人類の叡智』と信じているように見える」と述べたが、今回はその根源といえる主流派経済学について話していきたい。

主流派経済学とは近代経済学とも呼ばれ、大まかに別けるとミクロ経済学とマクロ経済学になる。細かくいうなら、新古典派経済学、新しい古典派、新古典派総合、新しい新古典派総合、ニュー・ケインジアンが主流派に該当する。前者2つがケインズ経済学の理論を用いないのに対して、後者3つはケインズ経済学と新古典派の理論を「折衷」していると考えていい。
問題はこれらの主流派経済学が基本的に、「自由貿易主義を偏重すぎている」という点だ。

こういうと、主流派経済学者は「そんなことはない」と反論してくるだろう。しかし論より証拠だ。今まで偏重していなかったのなら、反動で保護主義的なトランプ政権なんか誕生しなかったし、次のバイデン政権も保護主義を継承したりしない。

貿易の自由化を含めたグローバル資本主義がそこまで広がった原因と背景には、新自由主義のイデオローグであるミルトン・フリードマンと、彼の弟子であるロバート・ルーカスが広めた理論がある。1980年代に、イギリスのマーガレット・サッチャー首相とアメリカのロナルド・レーガン大統領が、フリードマンを支持して新自由主義的な政策を実施したことは周知の事実である。

http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2019/05/04/keizai-68/

しかし、近代経済学者が提唱する自由貿易は、先にいったようにアメリカがNOを突きつけた。貿易の自由化で不利益を被ってきた人々の不満が破裂したからだ。そうなる前に、何かしらの再分配をしておけば自由貿易体制は傷つかなかったかもしれない。
だがそれはできなかった。主流派経済学者にも、貿易自由化で苦しむ人たちに寄り添える良心的な人もいるはずだが、その人たちに現行の自由貿易体制を改善できるほどの力はない。それどころか、自由貿易に不満を持つ人たちを一方的に愚弄する悪質な学者もいると思われる。

ロバート・ルーカスはイエール大学でセミナーをした際に、非自発的失業に関する質問をイエールの助教授から受けている。ルーカスはその助教授に口汚い言葉を浴びせて、「非自発的失業という現象はこの世に存在しない。1930年代の世界恐慌のときには失業率は25%にもなったが、それは非自発的失業ではなく職探しだった」という趣旨の持論を述べたらしい。

イエール大学のトービン教授は、以下のような反論をルーカスにしたという。
「あなたはその時の大不況を経験してない。私は実際に体験しているから分かるが、あの大不況をあなたの理論で説明をつけるのは無理がある」

ルーカスのこうした冷酷で柔軟性のない考え方は、北米自由貿易協定で衰退したラストベルトの人たちを、蔑ろにしてきたアメリカの知識人等のそれと変わらない。その反動で排外主義者の大統領すら生み出したのだ。

われわれに対するDVのような農家潰しの悪政には、根本的にそんな歪んだ自由主義のイデオロギーが存在する。