セルフデートのすすめ
わたしは汽車に乗っていた。
たくさん乗客が乗っていたけれど、うまいことボックス席に座れている。
写真のカラフルな毛糸のストールと、長年愛用しているウールの黒いコートに視線をうつしたから、季節は冬なのだろう。
目的の駅に到着したとき、
思いのほか荷物が多くて手間取って、その駅で降りることができなかった。
ああ、しまった。
もっと事前に準備していたら良かった、と荷物をもち、
子供の手を引き、次の駅で降りる。
駅のホームでは、茶色のユニフォームを着た係のおばさんが、
「こちら、ホームの窓側をご覧ください。見事な絶景が広がっています。天空からのぞむ大パノラマ。ぜひご覧ください」
と、景観をアピールしている。
高所恐怖症には眩暈のするような、気の遠くなる絶景が広がっているのがちらっと見えて、わたしは見るのをやめた。
さて、歩いて目的の駅に行くか、どうするか、、、
悩んでいると対向から汽車がやってきた。
わたしは汽車に乗ることに決め、連れていた子供に、
「あの汽車乗りたいから、急いでいかな。歩いてくれる?」
と言うと、小さな女の子はこくっと頷き、ぴょんと地面に着地した。
そして、ベンチの下にあった空き缶をひろい、
ゴミが集められた場所にその缶を置きにいった。
その姿を眺めているところで目が覚めて、
ああ、あなたはリトルカイト(もう一人のわたし)だったんだね。
と、深く深く気づき、納得する。
いつからか忘れたけれど、
ずいぶん前から、小さな子供を連れている夢をときどき見ていた。
なぜか、誰かわからなかった。
ああ、また子供連れていた、くらいなものですぐに忘れていた。
でも、昨日、しっかりと誰かわかったのだった。
よし、リトルカイト、
今日は汽車でもないし、車でもないけれど、
あなたが好きな淡路に行こうよ。
夢のように荷物はいっぱい持たず、身軽に行こう。
わたし、いいアイデア浮かんだ。
ランチは淡路島バーガー、テイクアウトして、
海を見ながら食べるの!
どう!?
ビールも飲んじゃうか!
とたんにわくわくが止まらなくなる。
思いっきり楽しもう。
カイトちゃん。
セルフデートが楽しめるようになったのも、ここ最近の話。
過去、常にお金に困っていた家族がいたので、
旅に出たり、楽しんだりすることに、
罪悪感をおぼえていた時期がかなり長かった。
でも、リトルカイトの存在を感じ、
「自分を喜ばせてなんぼ」
という考え方にシフトチェンジできたとき、
素晴らしい幸福感がきらきらして待っていた。
わたしはリトルカイトに小さなポシェットを作っている。
中にはカードや、拾ってきた貝や、シーグラス、どんぐりなどが入っている。
いつも遠くに出かけるときこのポシェットも必ず持っていく。
わたしの自己満足かもしれないけれど、電車乗ってそわそわしたとき、
この赤いポシェットをにぎると、すーっとラクになる。
リトルカイトのもの、というよりもわたしのお守りなのかもしれない。
それでいい、と思っていた。
去年の12月、
あまり遠くはないけれど、
特別な場所に行くとき、わたしはうっかりポシェットの存在を忘れていた。
さあ、出かける、といったとき、
床にころころと何かが転がった。
ん?と見ると、
どんぐりが転がっているのだった。
ポシェットのどんぐりだった。
なぜ、ポシェットからどんぐりが落ちたのかは謎だけど、
リトルカイトが、この赤いポシェットを気に入ってくれているような気がした。
わたしはほっこりと笑いながら、
「教えてくれてありがとう。ポシェット忘れるとこやったね」
と、かばんにしまった。
どんぐりが床に転がっただけの話なのに、
わたしにとってはかけがえがなく、
一生忘れないエピソードだと思う。
ここから(どんぐりより)、真のセルフデートがはじまったのだった。
そして、これからも、
自分を楽しますことをどんどんやっていこう、と思う。
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