見出し画像

勝ったとか負けたとか(日々の切取りエッセイ)

数年前のこと、商品開発がお仕事だった頃。
当時の課長に、脈絡は忘れたけれど、

「最近気づいたけれど、わたしは負けず嫌いかもしれない」

と、カミングアウトした。
直後、課長はわたしの顔を二度見するかの勢いで、

「今、気づいたんですか?それはかなり問題ですね」

と、真顔かあきれ顔か、
判断つかない微妙な表情で答えた。

驚き。
そうなのか、わたしは端から見ても、
負けず嫌いに見えるのか。

自分よりも他人のほうが、実はわたしのことを知っていた、
なんて微妙な気持ち。

でも、しょうがない。
わたしの「負けず嫌い」は、他人に随分と認知されているようで、
それ以後、負けず嫌いなんだろうと納得をした。


負けず嫌い。
それは意義あることから、
はたまた、くだらないことまで・・・


またもうひとつ。
自覚している性分というのが、良くも悪くもシステマティックであるということ。
プロ、といえば聞こえはいいけれど、仕事の段取りは逆算して、
数値化して分刻みでさばいていくので、ルーティン業務なのではかなり得意だ。

昼休みも12時半にぴたっと終わるよう段取りして(会議以外は)、
お弁当持ってレンジに邁進する。
チャイム鳴ってだらだら仕事はしないのが信条。
1分1秒も無駄にしない。
メリハリの鬼。

わたしがレンジを終えて、食事をはじめてしばらくたってから、
別のメンバーが仕事を終え、
ちらほらと昼食の準備をする。

この秩序は、スムーズでストレスなく、これまでまったく問題なかったのだ。何の弊害もなく、流れる水のように。

昨年の七月、彼女が来るまでは。

彼女とは、同じフロアだけど別チームに入って来た三十代前半の派遣さん。おしゃれ大好き、メイク大好き、スマホが手放せないかなり大柄な女性。
動作に敏捷性はない。

当初は周りに気をつかっていたのか、
昼のチャイムが鳴ってもすぐに動くことはなく、
秩序を乱されることなく日々を過ごしていたが、
二カ月ほどたった頃、獣が牙をむいた。


わたしは、
平和にぼけていたのかもしれない。

永遠に、
川は枯れることなく、
流れ続けるものと安穏としていたのだろう。

そして、
勝手に「レンジを一番先に使うのはわたし」という御触れを、
皆が認識しているものと、信じ切っていたのかもしれない。


油断をしていた。


チャイムが鳴って、背後でコンビニの袋がすれる音がするな?と思いながら、レンジに行くと、その派遣の彼女がコンビニで買ったパスタかドリアを、今まさに入れようとしているところだった。

ちょっと待った、いったいそれ何分かかるんよ!?
3分てか!?
いや、ちょっと待ってよ、いらちのお局様(わたし)が、毎回すっ飛んでレンジ使っているのを知っているのに、なんでフライングして先使うの!?

もう一気に環境に慣れたの!?

もうそんなえらなったの!?

わたしのレンジ使用時間、気をつかって1分20秒だよ!?
1分30秒のところ!
あなたの3分ちゃうよ!?

と、
わたしは心の中で吠えまくったが、
負けたものはしょうがない。

武士は憤然としながらその日は引き下がったけれど・・・


言うまでもない。
わたしの「負けず嫌い」魂に火がついた。
彼女はハートに火をつけた。


翌日から戦いがはじまった。
12時28分から、背後に第三の目がついたがごとく、
人の動きや音をキャッチしている。
特にコンビニのビニール袋のかさかさには耳がぴくっと動くほど反応する。

チャイムが鳴ったとたん、背中から「負けるもんか」という圧を出し、
1mmの無駄なく流麗な動きで弁当を持ち、
音を立てずレンジに小走りに駆けていく。

わたしはよく走る。
前世は忍者だったのかもしれない。


一度敗退してから、その後負け知らずの日々が続いている。
出遅れて彼女が来ると、にっこり笑って「お疲れさま」と勝者の笑みを浮かべる。



わたしは多分、何かを失っている。


彼女はきっと、こんなわたしを素敵な先輩、と思わないだろう笑

仕事をいつまでもしているメンバーも、
実は失笑しているかもしれない。


でもいい。
たぶん、評価を気にして譲ることがストレスなので、
別のところで何か徳を返そう、と思う。

こんなくだらないところにエネルギーを使うわたしをどうか許して、
と内なる自分に何度も謝りながら。

内なる自分はきっと、
やれやれ、というふうにきっと、
多分絶対、呆れていることだろう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?