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『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』荻原規子

赤い縁の眼鏡に長いおさげ。ひっこみ思案で、男の子とはろくに会話もできないおとなしい少女・鈴原泉水子いずみこ
彼女は、世界遺産に認定された熊野古道の玉倉山にある玉倉神社に住んでいる。
家と学校との往復以外、ほとんど外出をしたことがないような箱入り娘として育てられた泉水子だが、中学三年になって進路を考える時期が訪れたのを機に、山をおりて学校の寮に入り、友人たちと学生生活を送ることを望むのだったが……。

再読ですが、一気読みでした。

仕事で遠方に住む、滅多に会うことのない両親の代わりに、宮司の祖父や、幼い頃からずっと住み込みで身の周りの世話をしてくれる女性に大事に育てられた泉水子。
極度の人見知りで、クラスでも少し浮いているような存在だけど、親しく話せる友人にも恵まれて。
外の世界を知らない彼女が高校進学を控えて、普通の女の子らしくお洒落をしたり、山を離れて友人たちと学生生活を送ってみたい、と変化を求めはじめる心の動きは、読んでいてすんなりと共感できます。

それまで、頑なに変えることを許されなかった髪型を変えてみようと、はじめて自分で前髪を切ってみたりもするのだけど、それをきっかけに、身辺がにわかに慌ただしくなり。

泉水子の父親・大成が、彼女を東京のとある学園に進学させたいと考えていることを祖父から知らされて驚愕したり。
それを拒むと、父親の友人である相楽雪政の息子・深行が(雪政から無理やり)泉水子の通う学校に転入されられてきて、あげく、同じ家で暮らすことになったり。
無菌状態で育てられた泉水子にとってはとんでもない展開で。

表向きは眉目秀麗・成績優秀・品行方正の看板を掲げ、瞬く間に周囲からの信頼を集めた深行は、泉水子を目の敵にしてずけずけとものをいうし、とにかく当たりがひどくて。
だけど泉水子も黙ってやられっぱなしではなく、雪政の圧力によるこの不本意極まりない共同生活(?)をあらためてもらおうと行動を起こしはじめます。

雪政は、泉水子には優しいのですが、息子である深行の扱いが本当にひどい。深行があれほど反発するのも無理もない、と思うくらいに。

なぜ泉水子が山奥の神社で守られているのか。
国内にいるはずなのに滅多に母親に会えないのはなぜなのか。
そして、相楽雪政は何者なのか。

それらの謎が明かされて、この物語がますます魅力を増しました。

自分に自信のない泉水子の自意識と、彼女が備えた素質にはかなり大きな隔たりがあるようで。
特異体質の彼女のこれからは前途多難ですが、深行たちとの関わりのなかでどんなふうに成長していくのか、そっと見守りたいと思います。


(2013年10/15 読書日記より)

***

ここからは追記と補足になります。

現在、このシリーズは全6巻で完結しています。
(もう一冊の、相楽深行・宗田真響視点によるスピンオフ作品『RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴』を含めると全7巻)

これまでに漫画化、アニメ化もされているようで、そちらをご覧になったという方もおられるかと思います。

『西の善き魔女』もそうでしたが、主人公や仲間の少年少女たちが逆境にくじけることなく困難を乗り越えて成長していく姿にグッときます。
わたし、荻原規子さんが書かれる少女たちがすごく好きなのです。
『これは王国のかぎ』『樹上のゆりかご』の主人公である上田ひろみを筆頭に。

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