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道端にある地蔵の謎

 クソ暑い日はお散歩に限る。

 ということで、余暇を使って散歩をした。普段は通らないような道をうろちょろしていると、ふと道端にお地蔵さんが立っている事に気がついた。
 お地蔵さんは横一列に七体が並んでいて、最右端には”庚申塔”(こうしんとう)と呼ばれる石塔も立っていた。なんとも壮観である。なにか歴史的な物なのだろうか。
 最左端には、どうやら一連のお地蔵様達に関する何かが記述されているようだ。きっと周辺の歴史や、お地蔵様の背景などがカッチリ書かれているに違いない。

 そう思ったが、待て待て。まだ答えを見るのは早計だ。まずはお地蔵様達について考察してみてはどうか? なにせ今日の私は余暇を使っているのだから。余暇というのは、仕事を離れて自分勝手に使える暇という意味だ。ここは自分勝手に時間を浪費してみるのも悪くない。

 まず第一に、庚申塔について考えてみる。

 庚申塔という石塔は、別名”庚申塚”とも言われているらしい。これは中国より伝来した道教に由来する”庚申信仰”に基づいた石塔なのだとか。(wiki参照)なるほど、全然分からん。
 より細かく見てみると、庚申信仰とは”三尸”(さんし)と呼ばれる説を元に、仏教とか神道とか民間信仰などがごっちゃ混ぜになった複合信仰であるらしかった。キメラ信仰。日本は古来より八百万の神がいるとされたし、渡来した様々な信仰を懐に入れて来た歴史がある。つまりこの庚申信仰は、日本人の国民性(そうか?)を体現した信仰と言える。(そうか?)
 ちなみにこの三尸説と呼ばれるお話は、人間の体内には三虫と呼ばれる虫がいて、六十日に一度巡ってくる『庚申の日』に人間が眠ると、中から這い出してきて天帝に宿主の罪悪を告げてしまうのだとか。罪悪を告げられると、宿主は寿命が縮むらしい。こえ~。つまり、体内にいる虫に常に監視されている説である。
 さていよいよ庚申塔に話を戻す。
 これは上記の『庚申の日』を恐れた人々が、「夜寝なかったら虫も出ていかないんじゃね? じゃあ寝なけりゃよくね?」と思い至り、夜は眠らず待つという風習が始まった。ただ一人ではすぐ寝てしまうので、みんな集まって夜通し起きてよう会をするようになった。これが、『庚申待ち』だ。
 庚申塔は、この庚申待を三年間(つまり十八回)続けることができた記念に設立されることが多いようだ。ようするに『たくさん庚申待ちできたね記念塔』というわけだ。

 つまり、この庚申塔があるということは、この地には『庚申待ち』および『庚申信仰』があったという事がわかる。ということだ。

ちなみにこれは干支の表。干支はそもそも十干と十二支を組み合わせて作られた、年や日を表すシステムのことらしい。これによると庚申……つまり、かのえさるは五十七番目となる。ぶっちゃけよくわからん。古代中国の暦システムだと思っておけばいいだろうか。

 では次に、並ぶ七体のお地蔵様についてだ。

 お地蔵様はそもそも”地蔵菩薩”という、地獄で苦しんでいる者の身代わりになって六つの世界を救済したという、めちゃくちゃすごい菩薩様の事であるらしい。めっちゃいい人。びっくりするほど聖人だ。この逸話から、お地蔵様は六つ並んでいる事が多いようだ。六つの世界を救済したので六体。非常にわかりやすい。
 だがしかし、今回のお地蔵様は七体並んでいる。なぜ? 上記の由来とは全く関係ない、別の由来があるのかもしれない。
 道祖神という可能性も考えた。
 道祖神とは、村や町の境目に建てられる像のことで、「どうろくじん」「さいのかみ」「さえのかみ」などとも呼ばれる。災厄の侵入を防いでくれるありがたい神様なのだとか。昔の人々は道祖神様にお願いすることで、村の外からやってくる恐ろしい何かから身を守っていたのだろう。
 しかし調べてみると、道祖神の石像は、そのほとんどが男女でワンセットらしい。中には丸石や陰陽石などを道祖神としたものもあるそうだが、お地蔵様が七体で道祖神としているものはどうにも見つからない。このお地蔵様は道祖神ではないのだ。そもそもここは村の端とか境界でもない。多分。
 ということは、この七体目のお地蔵様というものは、地域に根づいた伝承や民話などから来ているに違いない。流石にここから先を調べるには、図書館や、地域民話を当たって見る他ないのだが、翌日まで持ち越すのは少し気が引ける。私は自宅でゲームに勤しみたい気分でもあるからだ。

 十分調べたし、十分考察した。
 私の中での答えは、『庚申信仰がある土地であり、それに基づいた独特の民話や伝承から、七体のお地蔵様が安置されている』というものだ。
 さて、答え合わせをしよう。

 私はそっと最左端にある、文字の掘られた石碑を読みすすめた。
 その内容を要約すると、こうだった。

『なんかよく分からないし、いつからあるのかも知らないけど、地域住民が残しといてっていうので場所を移転したよ。たくさんの工事を経たけど、今ではすっかりここに収まったんだ。でも正体はイマイチよくわからないよ

 なんだそれ。

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